ソーシャルワークとCOVIDー19 今後の展望
コロナ感染が世界的に蔓延して以来、ほとんどの国がロックダウンという道を選びました。急速に患者数が拡大し、死者数も増え、社会的不安感も高まる中、これしか方法はない!という雰囲気で実施された感のあるロックダウン。カナダも3月には早々とロックダウンを決定し、生活必需品の買い出しと1日1回の散歩以外は外出禁止、外出時は他者との間に2m以上の距離をあける、「生活に必要不可欠な業種」以外の者の出勤禁止、と言った厳しい政策を実施し、公共機関も大幅に制限されました(例えば、運行本数の制限、乗車人数制限など)。これにより実質的にカナダの経済活動はほぼ停止状態となります。日本でも東京など主要都市では4月から自粛要請という形で半ロックダウンとなり、経済活動が制限されたのは皆さんご存知の通りです。「人命を救うためです、頑張りましょう」と自粛を声高に叫ぶメディアの声を聞きながら、私は大変複雑な気持ちを感じずにはいられませんでした。
私は決してロックダウン(自粛)反対派ではありません(と思う・・・)。しかし同時に、ロックダウン(自粛)賛成派とも違う気がするのです。医療の現場で働く者として、各国がロックダウンを進めた理由はよく分かります。まず急激な感染拡大を防がなければいけない。感染拡大は重症化患者を増やし、重症化患者の急増は医療崩壊を招き、医療崩壊は「助けられる命が助けられない」事態を引き起こします。そのため医療従事者としては、ロックダウンは理に適った政策であり、病人を、そして死者を出さない最も有効な手段に違いありません。最近コロナ感染が少しずつ落ち着き始めた事もあり、日本を含め世界的に段階的自粛解除の流れが生まれていますが、恐らく医療業界としては、まだまだ感染リスクが完全に消えるその日までロックダウンは続けて欲しいと願っているはずです。それは助けられる命を守るため・・・
しかし医療ソーシャルワーカーという立場から「助けられる命」というものを考える時、その「命」は医療現場の枠組みよりもっと大きな社会規模での「命」へと広がっていきます。例えば、ここ数ヶ月世間の焦点はいかにコロナによってもたらされる死を予防するか、に向けられて来ましたが、これは「コロナに感染しその結果死んでしまう事を予防する」事を指し、そのために経済を犠牲にしてまでもロックダウンや自粛を行って来たわけです。そして「感染率減少」という形でその成果は徐々に表れているように見えます。しかし、私は思うのです。これによって本当に助けられる命はちゃんと助かっているのか?と。経済を犠牲にしてのロックダウン(自粛)・・・「お金より命が大切」と世間は言うかもしれません、しかし本当にそんなに単純なことなのでしょうか?
長らくソーシャルワーカーとして多くの患者さん・クライアントの問題と対峙していく中で、私は「お金=命」という思いが強くなっていきました。これは「お金が一番大切だ!」という意味ではなくて、「お金を稼ぐ&お金を得る」ということは「生きる事」に直結するという意味だと思うのです。「そんなの、あたりまえのことだろ!」と言われそうなのですが、しかし、こういう当たり前の事って突然仕事を無くしてしまったり、収入が途絶えたり、住む家を失ったりした時に実感する事が多いと思います。実際、私の仕事で一番大変なのは、突然の病気で収入を失ってしまった患者さん達のケースです。予期しない病気によって職場復帰できない状況になってしまい、急遽生活設計を変えなければならない時、人は途方に暮れます。家や車のローンはどうしよう?子供の教育費はどうしよう?家賃が払えなくなった、どうしよう?とうとう食費がたりなくなった、どうしよう?これからどうなってしまうんだろう・・・、と。周りの人は「生活水準落とすしかないでしょ」と簡単に言いますが、それってすごく大変な事ですよね。まず自尊心が傷つきます、そしてどのようにして生活水準を落とし、そして生活していくのかを1から学ばなければいけません。それって全然簡単じゃないですよ。そしてそんな苦しい過程の中、心を病んでしまう人、希望を無くしてしまう人、薬物やお酒に逃げてしまう人、生きる事を諦めてしまう人も残念ながら出て来ます。そしてそういう人を私はたくさん見て来ました。なので経済活動を犠牲にしてのロックダウンを「命を救うためです、頑張りましょう」と言う風に私には簡単に割り切れないのです。
コロナ感染予防がメディアの中心となっている現在はまだまだ表に出て来ていませんが、ロックダウンによる社会的ダメージは相当なものだと私は考えます。最近の記事で、アメリカではすでに20%の人が職を失ったと報告されています。カナダでも日本でも恐らく似たような数になるはずです。そして今は失業保険や貯金、そして借金などで持ち堪えられても、6ヶ月もすれば資源が尽き危機的状況に陥る貧困世帯も出てくるでしょう。さらに失業によってもたらされるストレスによってうつ病などの精神疾患の急増、DVや虐待といった暴力行為の増加、薬物やアルコール依存問題の増加、そして自殺などの自傷行為の増加と言ったような社会問題も、多分、今年の秋・冬ごろには表面化するのではないかと私は思っています。そもそも今現在においても、ロックダウンやコロナのストレスによってもともと精神疾患を患っていた患者さんの容態が悪くなったり、依存症患者さんのリスクが高まったり、DVの被害が深刻になったりしている状況が容易に想像できます。特に虐待を受けている子供達の事を考えると、このロックダウンの状況は恐ろしく感じ、せつなくなります。
先ほども述べたように、だからと言って私はロックダウンに反対というわけではありません。医療ソーシャルワーカーとしては医療崩壊は防がなければなりません。しかし同時に、ロックダウンによる経済的社会的ダメージの大きさも見逃すことはできません。コロナも経済的損失もどちらも人の命を奪うリスクがある!と言う事を私は多分強調したいんだと思います。そして結果的にどちらが多くの命を奪ってしまうのか・・・それは私には分かりません。でも経済的ダメージによる命の損失も少なくないだろうと思います・・・とくに不景気が長期的になるほど。そうなると「命を救うための」ロックダウンは本当に命を救えるのか?と言うさっきの疑問に行き着くわけです。
先ほど述べたように、私の展望では、ロックダウンを起因とする急激な景気低迷の影響を受け、今年の終わりにかけて様々な社会問題が噴出してくるはずです。それに伴い、経済的社会的ダメージを負った人達の命が危険に晒されることも十分予想できます。そしてそれは何としても防がなければいけません。そう!救える命は救わなければいけないのです。ちょうど今私たちがコロナ感染予防で行っているように。しかし、社会問題から起因する命の損失って、あまり注目されません。「コロナ感染者数と死者数」の統計はすっかり日常のものとなっていて、それがコロナ感染状況把握の指針となっていますが、「貧困による自殺者の数」などと言うものは滅多に表に出て来ません。しかしもしコロナ統計と同じように「今日の、今週の、今月の自殺者数」を統計で発表するような事があれば、公共の危機意識も一気に高まるほどの数に驚く人も多いはずです。実際、日本でも毎年3万人近い人が自殺で亡くなられているわけで、単純比較はもちろんできないものの、数だけで言えば今現在のコロナでの死者よりも遥かに多いのです。つまり私が言いたいのは、このように自殺に追い込まれてしまう人が多い状況は、コロナ危機と同じくらい深刻であり、早急な対応が必要だと言う事なんです。とくにロックダウンにおける経済的ダメージが続いている今、窮地に立たされている人はいっぱいいて、それはそのまま自殺のリスクにも直結してしまうから・・・。
このような展望を予測すると、今年の終わりには医療現場でもコロナ感染とは直接関係ないものの、ロックダウンの影響でホームレスになったり、精神疾患を悪くさせたり、DVや虐待被害にあったり、自傷行為をしてしまった患者さんとの対応ケースが医療ソーシャルワーカーの現場では増えるのではないかと思います。さらに景気低迷による社会的フラストレーションやストレスが、差別やヘイトという形で社会的弱者へ向けられることも十分予測できます。そうしてどんどんギスギスした社会になればなるほど、「コロナでは救えた命が、今度は社会的理由で救えなくなってしまった」なんていう状況になってしまうんじゃないかと私は大変心配になるのです。
ズバリ、私の今年の展望は大変暗く重苦しいのですが、医療ソーシャルワーカーとして出来る限りの事をするしかありません(今秋、職場復帰した時に・・・汗)。そして政府・政策へも積極的にロビー活動する事によって、失業者および社会的弱者へのサポートの拡充を訴えなければいけないと思うのです(・・・が、実際にはそう簡単に出来ることではないけれど・・・)。そう言うわけで、私はこのしがないブログ上で声を大にして今回はいっぱしに意見を申し上げてみましたよ(笑)。
ま〜とにかく、今年、来年、とソーシャルワーカーが忙しくなる事は間違いありません。それも多方面の分野で。これは「嬉しい悲鳴」と呼ぶべきなのか?それとも「悲しい悲鳴」と呼ぶべきなのか?友達からは「シンペーの仕事は当分大丈夫そうだね」と言われ、う〜む、ま〜確かにこれから続々表面化する社会問題を考えればソーシャルワーカーの職はしばらく安泰そうで、失業の心配はなさそうだけど・・・でも素直に喜べない。カッコつける訳ではないけど、本当、世の中にソーシャルワーカーなんてものが要らなくなるような幸せな世界が出来たらいいのにね。そうなったら私は「悲しいけど」喜んでハッピーに失業を受け入れられるのにな・・・とそんな想像をして現実逃避したくなります。私の今後の展望が当たらない事を願うばかりですが、職場復帰を秋に控え、心の準備はしております(涙)
おわり
2コメント
2020.05.27 08:07
2020.05.27 04:12