医療ソーシャルワーカー不足
どうやら現在カナダでは(少なくとも私が住んでいるブリティッシュコロンビア州では)医療ソーシャルワーカーが不足しているらしい。その余波が少しずつ私の職場環境にも影響を及ぼし始めている。例えば前回ブログで話したXさんのポジションも、2ヶ月間募集をかけたものの、誰1人として応募者がいなかった・・・これ異常ですよ。だいたい透析科ソーシャルワーカーの仕事って結構人気があるんです。それは忙しいけど忙しくないから(どっちだよ!)。どういう事かというと、透析科の患者さんはいわゆる定期的に治療にやって来る「お馴染みさん」。つまり患者さんの生活歴などを把握しやすく半分ケースマネージメントみたいな感じなので、割と計画的に仕事をすることができるのです。それに一旦問題が解決しちゃえば、しばらくは落ち着くので、透析科のソーシャルワーカーって忙しくない時は本当に忙しくないんです。逆に「お馴染みさん」達が一斉に問題を抱えている時なんかは、目まぐるしく忙しくなるけど、それでも回復期病棟のような退院支援に関わるプレッシャーはないし、その日に問題が解決しなくてもまた数日後には治療に戻ってくる患者さん達なので、忙しい中でも割とゆっくり時間をかけて患者さん一人一人の問題と対峙できるのが透析ソーシャルワークの美味しいところ。そんな訳で通常なら透析科ソーシャルワーカーの空席なんて、椅子取りゲームのごとく取り合いになるのが通例なのに、一体どうしてしまったんでしょう?
なんだかおっかしいな〜と思い、久しぶりに病院HPの採用欄をクリックしてみると・・・あらら、あるよあるよ募集がいっぱい!うちの病院だけでも回復期病棟に欠員1、ER(緊急外来)に欠員1、リハビリに欠員1、さらに精神科なんて欠員2・・・(今現在ソーシャルワーカーが精神科病棟に全くいない状態、これは大変だよ!)。さらにコミュニティーの募集なんかに目を向けると、精神保健のケースマネージャーだけでも欠員数ただ今8!これはやばいでしょ。
ま〜確かに精神は向き不向きがあるから、つねに欠員は出るものなのだが、それにしてもこの数は異常だ。そう思いながら他の病院管轄の募集を見ても、ぞろぞろ出てくる欠員募集。医療ソーシャルワーカーに絶大な人気(?)のある緩和ケアにも欠員が!さらにClinical Practice Leaderと呼ばれるソーシャルワーカーのリーダー(教育係)職、さらにさらにClinical Supervisorと呼ばれるソーシャルワーカーの管理職まで欠員が出てますよ。どうやら全方位的に人手不足、医療ソーシャルワーカー不足なのは間違いないようです。
私の友人がお隣地区の総合病院(うちの病院の3倍くらい大きい)で働いているのですが、そこの医療ソーシャルワーカーによれば、あまりにも人手不足らしく、みんな担当科以外も掛け持ちさせられ、overtimeと呼ばれる時間外労働、いわゆる残業?も強いられているのだとか。もちろんサービス残業は組合の規定で禁止されているので、時間外労働にはお金が支払われます。ちなみに残業代は、時間給x2倍から始まり、さらに一定時間数を超えると3倍にまで跳ね上がります。こっちの看護師はこの残業代でかなり儲けているらしいとの噂をよく聞きます(例えばクリスマスとかの公休日に働くと日給の3倍貰えるんだとか・・・すげ〜)。そんな中、お隣の病院ではまだ雇われたばかりの新人医療ソーシャルワーカーでさえも残業代x3倍が支払われるくらい働かさせられているらしい・・・羨ましいけど羨ましくない(笑)。
さらにバンクーバーにある別の病院に勤めるソーシャルワーカーの友人も、あまりの人手不足に、ついにカナダ他州の医療ソーシャルワーカーや、さらには他国の医療ソーシャルワーカーまでも引き抜き始めたんだとか。先日もその病院主催の「うちの病院で医療ソーシャルワーカーをやってみませんか?」オンラインセミナーが催され、どうやらその病院もかなりの危機的状況らしい。ただ一方で、同僚のLさん(医療ソーシャルワーク歴17年)は家の近所のその病院にもう過去8回以上も応募しているのに、未だに一度も面接に呼ばれたことがないのです。なので「あそこの病院アイルランドからも医療ソーシャルワーカーを引き抜かないといけないくらい人手不足で困ってるらしいよ〜」と私がLさんに話を振ったら、私は見事Lさんの地雷を踏んでしまい「ちょっとそれどういうことよ!なんで私に話が来ないのよ!!!」と怒らせてしまったのでした。
それにしてもなぜ突然にして医療ソーシャルワーカー不足になってしまったのでしょう?
一般的にカナダでは、多種多様あるソーシャルワーカー職の中でも、一番待遇と職場環境が良いと言われているのが医療ソーシャルワーカーの仕事です。例えば、学部生時代には「私は児童福祉で働くのが夢です!」といったような生徒が大多数だったのに(私は国際NPOに興味があったが・・・)、大学院に戻ってきたら「も〜児童福祉はうんざり。だから医療ソーシャルワーカーになるために大学院に来ました!」っていう生徒が大多数になっていて私は大変ビックリしたのですが、それだけ現実の福祉職場環境を知れば知るほど医療ソーシャルワーカーになりたくなるくらい医療ソーシャルワーカーの待遇は群を抜いているのです。実際私もNPOで働いたり、国際協力の仕事をしたり、カウンセリング業をやったりと、興味のある仕事をやってきたのですが、足掛けアルバイトのつもりで入った医療ソーシャルワークに今やズッポリですよ。もちろん待遇だけって訳じゃないけど、でもNPOとは天と地ほどの給料および福利厚生で飼い慣らされてしまうと、そうそうこの仕事から足を洗うのも簡単じゃないんです(って言い過ぎか?笑)。そういう訳なので、普通に考えて医療ソーシャルワーカーのなり手がないってのはおかしい話なんです、とくにカナダの福祉業界においては!
それなら福祉業界自体が人手不足なのか?と思うのですが、これも違うような・・・
例えば、私がソーシャルワークを学んでいた20年前(大昔になった 涙)、ソーシャルワークを教える学校は州内に2校しかなかったのだが、それが今や6校以上に増えたのだから、ソーシャルワーク卒業生が足りないとも思えない・・・
そうなると私が考えられる唯一の理由、それはCOVIDの影響。
昨年コロナ禍が始まって以来今に至るまで感染予防のため、病院から医療ソーシャルワーク実習生がいなくなりました。つまり去年の卒業生および本年度の卒業生ともに病院での実習を受けられない事となったのです。通常、医療ソーシャルワーカーになるためには医療現場での実習が奨励されています。それが出来ない今、「人事課が新卒応募者を弾いてるんじゃね〜の???」と私は疑念を感じているのです。だって考えてみれば、ここんとこ新卒者採用見たことも聞いたこともないし。きっとこれに違いない!
私がそう思うのには私自身の過去の経験があるからです。学生時代、私は学部と院とで2回も病院実習をしたにもかかわらず、ぜんぜん就職面接に呼ばれない時期がありました。あちこちの病院の医療ソーシャルワーカー職に応募したのに、うんともすんとも言ってきません。おかしいな〜と思って、知り合いの医療ソーシャルワーカーに相談してみたら「あ、人事課ってあんまり現場の事わかってないから履歴書も厳しく審査するらしい。履歴書見てもらうためのキーワードってのもあるらしいから、それをちゃんと履歴書に書いたほうがいいよ」と言われて教えてもらったキーワードはClinical Experience、つまり「臨床経験あり」の一言。そしてなんとこの一言を入れただけで、その後は次々に面接に呼ばれるようになったのでした。こんな感じなので私は人事課を信用していません(ただの逆恨みか?)。
そうして学生が医療実習を出来ない今、「臨床経験」のない新卒を取りたがらない人事が医療ソーシャルワーカー不足の直接的原因を作っているんじゃないかと私は推測するのです。もしそうだとすると大問題です。だってこのままじゃ今後しばらくは新卒ソーシャルワーカーが現場に入って来れないこととなり、そうなれば医療ソーシャルワーカー不足はどんどん酷くなっていくばかり。病院にも患者さんにも多大な影響を与えかねません(・・・医療ソーシャルワーカーって、いる時は存在意義に気づかれにくいけど、いなくなると皆んな医療ソーシャルワーカーの必要性に気がつくんだよね、いろいろ困るから 笑)。
そうならない為にも、臨床経験がなくてもいいからさっさと新卒ソーシャルワーカーを雇え〜!だいたい臨床経験がないのが問題なら、トレーニングすればいいじゃねーかー!と思います。実際、現場のベテランソーシャルワーカー達だって臨床経験なしに他分野から医療に入ってきた人達も多いんだからさ。私だって、卒業後ながらくNPOとかで働いたあとに採用されて、実地で医療ソーシャルワークの経験積んだクチだし。ま〜とにかく、私は人手不足のあちこちの科に送り回されて、時間外労働x 3倍のお時給を貰うような「嬉しいけど困った」状況には陥りたくないんです。だから今回の人手不足には大変危機感を覚えているのであります。
・・・と、まあ〜勝手に人事のせいにしてみたのですが、実際、何が一体原因なのかは分からないこの突然の医療ソーシャルワーカー不足。なんだか本当に不思議です。でももし私の推測通りコロナ禍のせいで新卒ソーシャルワーカーが医療現場での仕事に就けないのだとしたら、それは本当に不公平だし、なんとかしなければいけない問題だと思います。日本でもそんな事態になっているのかな・・・改めて早くコロナ禍が落ち着いて欲しいと願わずにはいられません。
おわり
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