ソーシャルワーカー「とばっちり」を食らう!(長編)
仕事をする上での一番の苦痛は、仕事上の問題よりも上司・同僚との人間関係に起因する!と言っても過言ではないでしょう。そしてこれに賛同される皆様も多いのではないでしょうか?いくら患者さんから酷い事を言われても、自分を支えてくれる上司や同僚がいれば「屁」とも思わないけど、上司・同僚から酷い事を言われると逃げ場がない気持ちになって、一気に仕事を辞めたくなってしまいます。昔から「親と上司は選べない!」という諺(?)がありますが、親も、上司も、同僚も本当に選ぶ事はできません。そんな訳で、一緒に働く上司・同僚の数が多くなればなるほど、人間関係による揉め事も増えていく・・・という悲惨な相関関係が出来あがるように、大人数の腎臓透析チームで働く私には思えてならないのです。
「あらら、しんぺーさん職場の人間関係でトラブってるの!?」と早とちりしたあなた!そんな訳ないでしょ!私は自他共に認める世渡り上手な八方美人タイプなんですよ。根は「いらち」で喧嘩っぱやくても、外ではそれを上手く隠して、誰にでもヘラヘラと愛想を振りまき「人畜無害な良い人」と言うポジションを職場内で獲得し、職場の人間関係を無難に乗り切っていく調子の良いタイプなのです。とくに一癖も二癖もある「つわもの」看護師や事務のおばちゃんに頼らなければいけない医療ソーシャルワーカーは、仕事を円滑に進めるためにも、職場内の人間関係を上手く保つことは必須事項でもあるのです。
しかし「クセのある強者」が多い職場なので、職場内の争いは水面下で結構あります。この間も担当患者さんから「しんぺーさん、この間、私の目の前で看護師同士が喧嘩して凄かったんだよ。ほら、あの看護師とあの看護師、ずっと口聞いてないんだよ!」と教えてくれました。ぜんぜん水面下じゃないし!プロなんだからさぁ~、せめて患者さんの前で喧嘩するのは止めようよ~、と看護師達に言いたいのですが、くわばらくわばら~、そんな余計な事言って、今度は私が争いに巻き込まれるのは御免ですので、この件は聞かなかったことにしたのでした。それにしてもこれはカナダ文化なんでしょうかね。結構、みなさん、あからさまに喧嘩します。
さてそんな「クセのある強者」の1人にKさんという看護師がいます。彼女は「透析教育ナース」と言う肩書きを持っていて、患者さんに透析や腎臓移植についての教育・説明する仕事を行っています。そしてそのKさんは、透析科病室にある狭いオフィースをBさんとMさんの2人の調剤事務員と共有しています。この3人の仲は良いのですが、実はここ1年近くこの3人、透析科の看護師達と揉めているのです・・・
そもそもの問題の発端は「匂い」でした。調剤事務員のMさんは、副業でアロマオイルを販売していて、その所為もあるのかオフィースでアロマオイルを焚くようになったのです。Kさん、Bさん、Mさんの3人とも慢性痛に悩まされており、このアロマが効くということで3人ともアロマ焚きを楽しんでいたのですが、なにせ病室内にある狭いオフィース、匂いがオフィースから洩れてしまうのです。匂いと言うのは人それぞれ受け取り方も違うので、バラの香りは好きだけど、納豆の香りは苦手だという人もいれば、バラよりも納豆の香りの方が好きだ、という人もいるでしょう。また匂いに対してアレルギーを発症する人も多くなってきた昨今、実は病院でも「香水禁止令」が患者さん職員全員に対して発令されています。そんな中、透析病室で働く看護師達は、Kさん達が焚くアロマオイルの匂いに苦情を言い始めたのです。
まぁ~普通に考えれば「香水禁止令」にも反するわけだし、速やかに職場内でのアロマ焚きを止めるのが得策、と言うか常識だと私は思うのですが、そこは私以上に喧嘩っぱやく頑固で負けず嫌いなKさん。「アロマの所為で頭が痛くなるからアロマ焚き止めてくれ」と頼む看護師達に「アロマの匂いはそんなに強くないし、オフィース内で焚いてるんだから、少しぐらい匂いが洩れたくらいで文句言うな!」みたく言ってしまったのです。こうなるとカチ~ンときた看護師達が今度は「なに言ってるの!匂い凄い洩れてきてすっごい臭いから。だいたい香水禁止令に違反してんだから、アロマ焚き止めなさいよ!」と険悪になっていきます。それに対して巻けず嫌いのKさんは「あんた達、細かい事にオーバーすぎんだよ。だいたいアロマは私たち3人の慢性痛に使っていて看護組合だって医療上必要な時はアロマ使って良いって言ってるんだからね!」と反論します。ますますムカついた看護師一同は今度は組合と看護師長&透析科マネージャーに苦情を申し立てるという作戦に出ました。透析科看護師達から続々と寄せられる苦情に組合もマネージャーも黙視することは出来ず、Kさん達3人にアロマ焚きを止めるよう指示したのです。
しかしこれで納得するKさんではありません。むしろ彼女の負けん気に火がついて、なんとKさん、透析科のマネージャーをすっ飛ばして透析科トップ部長へと陳情を出したのです。でも「香水禁止令」があるためアロマ焚き自体を陳情するわけにはいきません。そこでその代わりにKさんは「透析科の看護師達に苛められているから何とかして欲しい」とトップ部長に陳情したのでした。保険局内では「パワハラ・いじめ厳禁令」が敷かれ、職場内でのパワハラ・いじめは重大事項と見なされるので、Kさんからの陳情をトップ部長は無下に出来ません、っていうかトップ部長はまったく状況が分からないので、Kさんの陳情を受けてすぐさま事情聴取&面談を開く事になったのです。
このKさん達への苛め問題。透析病室にいつも詰めているわけでない私たちソーシャルワーカーには真相は分からないのですが、Kさんによれば、Kさん達のオフィースの前に「わざと」ベットが置かれてオフィースから出れなくされたり、ゴミ箱が置かれて「わざと」転ばそうとさせたり、フィリピン人看護師達は母国語でKさん達の文句を言ったり(ってどうやって分かったの!?)と、もしそれが本当ならば一大事です。でも、正直私的には、いくらなんでも皆プロで大人なんだから、ちょっとそれは考えすぎじゃないかな~?と思うのですがどうなんでしょうね。でも同僚によっては「あ~そういう事もありえるかも」と言う人もいて、なんだかゾッとします。ま~どちらにしてもKさん視点から見れば、苛められているとう事なのでした。
さてすっ飛ばされた透析科マネージャーとトップ部長が出席した面談で、Kさんは看護師達からの苛めをどうにかしろ!病室から離れたオフィースを用意しろ!と主張し、トップ部長はマネージャーにKさん達3人を現在の部屋から移し、看護師達から離れたオフィースに移すよう指示したのです。そうして納得したKさんは、その日、私たちソーシャルワーカーの下に訪れ「私たち、今度新しいオフィースに移ることに決まったから。ざまーみろ看護師達!」と晴れて勝利宣言したのでした。そして翌週・・・
突然、透析科マネージャーが私たち腎臓ソーシャルワーカーの4人部屋にやって来ました。そして「この部屋4人で一杯よね。でもこの部屋にもう1人入る事になったから」と仰るではありませんか。「あの、あの、でもこの部屋ホントもう4人で一杯で、今でさえも電話が一斉に鳴ると聞こえないくらいなんですよ。ちょっと5人は難しいんじゃないでしょうか?」とやんわりと無理だって!っと伝えるのですが、それでもマネージャーは「それは分かるけど、他に場所がないのよ~。ごめんね。理解してくれる?」と言うのです。きっとこれが強者が多い看護師達だったら「断固反対します!」と運動するのでしょうが、争いを基本好まないソーシャルワーカーとしては、目線を天井に向け沈黙をすることで無言の抗議をしたのでした。普段は看護師達との喧々囂々のやり取りに慣れているマネージャーも、空気が重くのしかかる沈黙攻撃には弱いと見て、うんともすんとも言わない無言の私達ソーシャルワーカーの抗議に怯んだのか「あら・・・私、あなた達を暗い気分にさせちゃったみたいね・・・こまったわ・・・でもしょうがないの・・・ごめんなさいぃ!!!」そう言うと逃げるようにして足早に去っていったのでした。
そんなソーシャルワーカーもオフィースのドアを閉めて、4人だけになると口舌も激しくなります。「5人目が入るってどういうこと!?」「きっとK達3人の所為だ!」「だいたいK達がマネージャーすっ飛ばして部長に陳情するからこうなるんだよ!」「とんだとばっちりだ!」と、私たち腎臓ソーシャルワーカーも怒り心頭です。でも本当しょうがありません。だって5人もこの事務所に詰めたら息苦しくてたまりません。おまけにKさんがどうやら入ってくるらしいので、あの激しい性格のKさんと上手くやっていけるのかも大きな不安要素です。さらに、ソーシャルワーカーだけの部屋だったのが、違う職種の人が入ってくるのは、仕事上でもやりにくくなります。ソーシャルワーカー特有のディブリーフィングや議論もやりにくくなるし、患者さんのプライバシーに関する問題も出てきます。「あ~ホントどうしよう」と私たちソーシャルワーカーがため息をついていたところに、目を血走ったKさんが駆け込んできました。
「ちょっと聞いた!?私とBさんとMさんの3人、部屋を出されてバラバラに配置されることになったのよ!私はあんた達の部屋に移動しろって言われたわ!絶対に許せない。なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?きっとすっ飛ばされたマネージャーの嫌がらせに違いない!組合に抗議しに行ってくる!」そう言って出て行ったKさんですが、またすぐに戻ってきて「組合からはどうにも出来ないって言われたわ。それどころか組合から透析看護師達からまた新たにアロマへの苦情が寄せられたって逆に文句付けられたわ。あの看護師達、今頃私たちが部屋から追い出されバラバラにされたの知って大喜びしてるに違いない・・・」そう言うと、Kさんはワァ~と泣き始めたのです。「それは大変だったね」と条件反射的にKさんを慰める人の良い我らソーシャルワーカーなのですが、内心は「こっちも大変だよ」と愚痴らずにはいられないのでした。
そういう訳で、近々Kさんが私たちのこの狭い4人部屋に5人目の住人としてやって来ます。一体全体、この5人目が私たちソーシャルワーカーに今後どんな影響を与えるのか不安がこみ上げてきて仕方ありません。私は密かに、同僚ソーシャルワーカーCさんがKさんとゆくゆく険悪になっていくのではないかと予想するのです。Cさんも結構些細な事にイライラするタイプなので・・・っていうか、それを言うなら私自身がKさんとそのうち大喧嘩するんじゃないかって予想のほうが当たりそうです。私も充分短気ですので。猫かぶりにだって限界がありますよ。
さて、今回の件で私が学んだ事、それは:
• 喧嘩っぱやくて得する事は何もない!
• 看護師達全体を敵に回すのは恐ろしい自爆行為だ!
• 直属の上司をすっ飛ばしてお上に陳情する事はリスクを伴う!
• つまり、職場では出来る限り周りと上手くやっていく事が大切だ!
• でもやっぱりKさんとは気が合いそうにないから、これから大変なことになりそうだ!
・・・という事なのでした。はぁ~あ、ホントもうため息しか出ませんよ。そんな中、またKさんがやって来て「ここが私のデスクになるの?しんぺー、あんたのパソコンもうちょっと端に寄せて私のスペース作ってよ!」とのたまうのです。う、う、う、だ、誰の所為でこんなことになったと思ってるんじゃぁ~い!と私の額の血管がヒクヒクするのを感じつつ、でもなんとか「端に寄せたいのは山々なんだけど、そうすると姿勢も変になって右肩甲骨痛も悪くなるから、ゴメンだけど無理だわ」とやんわりお断りすることに成功したのでした。しかし、こんな風にいつまで私も冷静に対処できるのかは未定です(笑)。そうしていつか私もこの揉め事に渦に巻き込まれるのではないかと懸念する今日この頃なのです。
おわり・・・と言うか「つづき」になりそうな予感。。。
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