上司に呼び出される!
「ちょっとシンペー、少しだけ話があるから来て」
と、先日、私の直属の上司から突然呼び出されました。
いきなり上司に呼ばれるとすっごい緊張するよね!
あれ?なんか最近クレームつけられるような事したっけな?もしかしてあのケースか?それともあっちのケースか?はたまたそっちのケースか?って感じで色々考えるのですが、いやいや、そんな心当たりがいっぱいある程ミスは犯してないはずだぞ!いや〜でも思い返してみれば結構やらかしてた気もするしな〜・・・と自信過剰だけど自信のない中堅ソーシャルワーカーの私はだんだん不安に。ドキドキしながら腎臓透析科マネージャー(上司)の部屋に向かいます。
「おーシンペー。あのAさんの件で話が聞きたくて。その後、なんか進展あった?」と私が部屋に入るなり聞いてくる上司のDさん。
な〜んだAさんの事か。あ〜ビックリした。ドキドキさせるなよ!(怒)
・・・とホッと安心し、無駄にハラハラさせられた事にイラつく私(って勝手に不安を高めてたのは誰だ!?という事も忘れて 笑)
さてこのAさんの件とは、Aさんが結核の疑いがあるという事で1ヶ月前に結核検査を受けたのですが、この結核検査の結果が出るまでになんと8週間もかかるんです!(なぜに?)。そして結核疑惑があるために、公共交通機関を使って透析に通うことは出来ません。そうなると唯一使える交通機関は救急車。でも緊急じゃないから、あくまでも救急車に空きのある時に乗せてもらって週3回透析科に来るって形になります。で、問題は、透析治療が終わって家に帰るための救急車が毎回ものすごく遅れて来ることなんです(ま〜優先順位ってものがあるからしょうがないんだけどね)。だいたいAさんの透析治療は夕方5時ごろ終わるんですが、救急車がAさんのお迎えに来るのが夜の8時とか、10時とか、酷い時には翌朝7時なんかになる時もあるんです。だから透析治療で疲れているのに、Aさんはお迎えの救急車が来るまでジッと透析科で待機することになるのです。
これは職員も大変なんです。なぜなら救急車を待つAさんをひとり残して職員が帰ってしまう訳にもいかず、必ず付き添いの看護師もしくはケアエイド(介護士?)を1名付けないといけないのですが、そもそも人手不足で人員調整が難しいのと、おまけに救急車がいつ迎えに来るのか分からない状態で、場合によっては翌朝までAさんに付き添わないといけないので、スケジュールを組むのも難解です。おまけに人件費も余分に掛かるし。さらに、救急車は前もって予約することも出来ないので(前日予約のみ)、毎回私が救急車を呼ぶことになるのですが(でもよく考えたらなぜ私の役割になった?雑用係ソーシャルワーカーだからか?)、これもうっかり忘れそうで大変なんですよ!(って仕事に集中してないだけだろ!?笑)。ま〜それより何より一番大変な思いをしているのはAさんご本人です。いつ家に帰れるかもわからず、透析に来るたびに救急車を待つ日々。Aさんの夫もこの状況に苛立ちを隠せません。私もなんとかしたいと思い、毎回救急車を呼ぶ度に、病院の検査科にも電話して結核テストの結果を聞いてみるのですが、いつまで経っても「結果待ち」。そしてその状況を毎回Aさんの夫に連絡し、Aさんそして夫のフラストレーションに共感を示し、励ます日々を過ごす中、「検査科よ!早く検査結果を出せぇ〜!」と(心の中で)叫ぶのが私の日常となっているのでした。
ただこの件は、もうすでに何回も上司のDさん及び透析科の看護師長と話し合っていて、対応マニュアルも出来上がったところだったので、検査結果が出る残り4週間を乗り切るだけ!って状態になっていました。上司DさんはAさんの付き添い職員のスケージュール調整を、看護師長はAさんが快適に救急車を待っていられるように病室とアメニティー(食事とか飲み物とか)の確保を、私はソーシャルワーカーとしてAさんへの心のサポート及び救急車の手配、そして検査結果確認の電話業務をする事で役割分担を決め、それぞれの仕事をしていました。
だから上司のDさんから「なんか進展あった?」って言われても、
「あの、相変わらず検査結果は保留で、あと4週間待ってくれって検査科からは言われてますけど・・・」としか答えられません。
「あ、そうか、そうだよね、ありがと」と上司Dさんは答え、会話は終了・・・???
ん?これだけ?
あらら、これだけの為に私は呼び出されたのか!?
ドキドキさせるなよ〜!と再びイラッとしたのですが(はい!短気です)、
上司のDさん、こんな質問をしてきました。
「ところでシンペー。日本での1年間の無給休暇はどうだった?ご両親ともゆっくり過ごせた?」
ううう・・・言葉に詰まる私。というのも、ご存知の通り私は2019年から14ヶ月間の無給休暇を取って日本生活をエンジョイしたのですが(過去ログ参照)、そもそも無給休暇は「両親と久しぶりに親子水入らずの時間を過ごしたいので長期休暇ください」と職場にお願いして取らせてもらったのです。しかし実際は、松本の実家には2回だけ、計2週間を親と過ごしただけで、残りは東京で一人暮らしを満喫した親不孝者のシンペー。まさか、それがバレた?ヤベ、怒られるのか???と私はこの脈略も無く出てきたDさんの質問に再び体を硬くしたのでした。
「はい・・・お陰様で、両親共々、楽しい時間を過ごさせて頂きました」
と嘘をつく私(ま〜楽しい時間を過ごしたのは本当だけど、2週間だけ 笑)
「おーそれは良かった。俺もそのうち日本に行ってみたいな〜。親孝行は出来るうちにしといた方がいいよ。俺のオヤジも外国に住んでいるんだけど、コロナにかかってあんまり調子がよくないんだよね。今の状況じゃ訪問も出来ないし、Zoomで家族と連絡取り合うことしか出来ないんだよ」と落ち込んだ様子で話します。「それは大変ですね。心配でしょう?」と同じ親を母国に残した者として共感を示すと、Dさんもホッとしたような表情を浮かべます。そして「そうそう、最近シベリアンハスキーの子犬を飼い始めたんだけど、すごいやんちゃで困ってるんだよ」と言って今度は可愛いハスキーの写真を見せ始めるDさん。うむむ?「(自称)出来るそーシャルルワーカー」のシンペーはここでピンときました。「あ、この人かなりストレスが溜まっているな」って。
常にひっきりなしに大小様々な問題が発生する腎臓透析科のマネージャーにのんびりする時間なんてありません。私の知っている限りDさんはいっつも病棟内を問題解決の為に走り回っていて、「大変そうだな〜」と私は常日頃から可哀想に思っていたのですが、そんなDさんがもう15分以上も子犬のお話をしています。これは間違いなくストレス反応、つまり現実逃避をしたいに違いない!と分析した私はソーシャルワーカー秘伝「TLC」を行います。え?TLCってなんだって?これはTender Loving Careの略で、直訳すると「柔らかい愛を込めたケア」っていう、この場合だと、とっても怪しい意味になっちゃうけど、ソーシャルワーカーが使うTLCってのはどちらかというと「癒し」って意味に近いかな。今はあまり使わない言葉だけど、ちょっと一昔前なんかには、カルテにも「ソーシャルワーカーが患者にTLCを施した」みたいに書かれるくらいの業界用語(?)でした。・・・という訳で、私も上司にTLCやってあげました。
え?具体的にどうTLCしたかって?あ、それは簡単。ただ子犬の写真や動画を見て上司と一緒に楽しんであげること。つまり一瞬でも仕事を忘れ楽しい気分になってもらえるよう話を盛り上げるんですよ。「うわ〜子犬すっごい元気っすね〜」とか「ちょーかわいいっすね〜」とか「どのくらいハスキーって飯食うんですか?」とか。そうしてDさんもちょっと気分転換できたのか明るい顔になって「あ、じゃーもう用は済んだからシンペーは仕事に戻っていいよ」と無事、何事もなく解放されたのでした。
うん?上司にTLCをするのもソーシャルワーカーの仕事なのかって?
そんなのもちろん違うに決まってるでしょ!(笑)でも今回は特別なのです。と言うのも、上司でもありマネージャーでもあるDさんには絶対にやめて欲しくないんです。なぜなら(今のところ)Dさんは私がこの透析科で働いてきた中で一番ソーシャルワーカーに理解があって、尊重してくれ、そして自由に仕事をやらせてくれる理想的な上司だからです。あ〜思い返してみれば、過去6年間の透析科業務で一体何人のマネージャーがやって来ては辞め、やって来ては辞めて行ったことか・・・(ほぼ2年に1回の割合でマネージャーが変わるブラック職場)。何も決められない優柔不断のマネージャーがやって来たかと思えば、その次は真逆の独裁者がやってきて看護師たちと大戦争を起こしたり、そしてその悪魔のようなマネージャーが去ったかと思ったら、今度は八方美人だけど裏工作満載の信用ならぬマネージャーがやって来たり。政権(?)が変わるたびにソーシャルワーカーもあれしろ、これしろ、全部しろ、みたいに翻弄され、挙げ句の果てには「ソーシャルワーカーの人員削減もしちゃおっかな〜」なんて脅されたりして、心安らかでない日々も多かった中、やっと普通の感覚をもったマネージャーがやって来たのだから、これは大切にしないといけません。だってDさんが辞めたら、また変なのがやってくるかもしれないし・・・
と言うわけで、私はDさんのストレスを少しでも減らしてあげようと頑張ってTLCをやったんです。おかげで私の方が疲れたけどね(笑)。でも、本当にマネージャーという仕事は大変だな〜と思います。下は職員同士の喧嘩の仲裁したり、上はボスからプレッシャーをかけられたり、下からも上からも突き上げられる中間管理職。そりゃ変な人も多いし、変にもなっちゃうよね!と今までの個人経験からロクなマネージャーに出会った事がなく偏見満載な私は思うのでした。そうして、これからも、患者さんのみならず、同僚にも、そして上司にもTLCを施して、透析科全体の空気を常に素晴らしいものにしていこうと改めて決意した医療ソーシャルワーカーのシンペーなのでした(それ嘘でしょ?笑)。今日も忙しそうに働くDさんを見るにつけ、あ〜大丈夫かな〜と心配になるのですが、また機会があったら子犬の話でもして気分転換のTLCでもしてあげようかね〜。
おわり
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