ソーシャルワーカーは医者の秘書なのか!?
医療ソーシャルワーカーの仕事って書類業務が結構あります。例えば、患者さんの生活保護や障害年金の申請、医療保険の登録、公営住宅への応募などの申請書類業務。さらに、患者さんから頼まれる休職のための診断書、家族を他国から呼び寄せるための移民局への陳情書、旅行をキャンセルし返金を求めるための証明書などのレター業務。それに加えて、医療カルテへの記録、業務メール、関係機関への委託要請などの事務作業。いや〜本当に書き仕事が満載な医療ソーシャルワーカーの仕事。これってきっとカナダだけじゃなく、たぶん日本でも同じですよね?
そんな書類業務の中には、医者が書くべき要項も多くて、例えば、障害年金申請の医療欄や失業手当申請の診断欄なんかは医者が記入して署名しなければいけないし、また上記に述べたような、休職のための診断書や陳情書なんかも医師の署名が必要不可欠です。そもそも医療関連の書類って、大概が医者が書くように作られてるんですよ。しかしながらカナダでは(少なくとも私の働いている保健局では)その書類業務の大半は医療ソーシャルワーカーが行なっています。ソーシャルワーカーが書いた書類を医師のとこまで持って行き、そして医師から署名をもらって患者さんに渡す、って言うのが一般的な書類業務の流れです。でも私たまに思うんですよねぇ〜、医師が書く欄は、医師が書くべきなんじゃ?って。
そもそも、医療ソーシャルワーカーが医師が書く欄も含めての申請等書業務をする理由は:
1)もちろん患者さんのためだから!
2)さらに患者さんを退院させるために必要だから(=病院のベットを空けるため)
3)おまけに医師が忙しそうだから(=医者を煩わせない配慮)
4)それにソーシャルワーカー以外にやってくれる人がいないから(涙)
・・・・って感じなんですが、とくに3番目の「医師が忙しそうだからって」のが一番の理由かもしれません。それでも申請書類の医師が書く欄は、医師が書く事になっているのだから、そもそも医療ソーシャルワーカーが医師に代わって書いてしまうのは倫理的にいかがなものか?と思われる方もいらっしゃると思うのですが、いや、その通りなんです。医師がやるべきなんです!しかし、医師によっては「あ、俺、障害年金申請書みたいな長い申請書は書く時間ないからやらないから!」って宣言するような不届き者がいたり、「あ、じゃ、そこに置いといて。後でやっとくから」と、嬉しいことを言ってくれるじゃんこの先生!っと思ったのも束の間、3ヶ月経っても書いてもらえなかったり、「はい!これでいいね!」って医師から貰った書類が不備だらけだったり・・・と実際は色々と上手くいかないんですよ。
でも、それもこれも医師は他にもやる事がいっぱいあるし、確かに長ったらしい無意味にページ数ばかりあるお役所的申請書類が多いのも事実。こんなものダラダラ書いている時間があったら患者さんを直接診てあげて欲しいよね・・・と思って医療ソーシャルワーカー達は医師に代わって書類業務を引き受けてきたのです。
と言っても、医療ソーシャルワーカーすべての人がここまでやる訳ではなく、この件に関してはだいたい3派に分かれています。
1)医療欄は何があっても医師に書かせる派(几帳面なタイプに多い)
2)医療欄もすべて自分で書いて、医師には署名だけ求める派(責任感の強いタイプに多い)
3)医療欄は担当の医師の顔色と性格を見て書いてもらうかどうか決める派(効率重視なタイプに多い)
・・・と私の偏見と独断でタイプ分けしてみたのですが、どっちが良くて、どっちが悪いか、と言うことではありません。ソーシャルワーカー個々の仕事観や倫理観、性格とかで一番自分に合った、理に叶ったやり方で皆それぞれ書類業務に対処しているのです。ちなみに私は3番目のタイプ、スーパー効率重視です。「あ、この先生なら快くちゃんと書いてくれるね」という医師には申請書を書いてもらい、「あ、こっちはダメなタイプだった」ていう医師には予め自分で書いておいた書類を医師に確認してもらい問題なければ署名してもらう、っていう方式でやっています。私がこれをする理由は、とにかく早く申請書を出してしまいたいから。障害年金にしろ、失業手当にしろ、医療保険にしろ、とにかくお役所仕事は時間がかかる!だから一刻も早く申請書は提出して、患者さんに必要なお金やサポートが出るようにしたいのです。おまけにそうすれば私の仕事も素早く終えられるしさ(ここが大切!)。さらに心配性の私としては、一つのケースがいつまでも宙ぶらりんになっているのが一番ストレスです。だって落ち着かないもん・・・それに患者さんも困るしさ。
でも実際、医療ソーシャルワーカーが医師の代筆となって申請書や診断書や証明書を書くのは簡単なの?と疑問に思われた方もいると思うのですが、これは簡単な時もあれば難しい(無理)な時もあります。簡単な場合は、1)患者さんの病歴があまり複雑でない、2)ソーシャルワーカーの専門分野である、3)医療欄がわりかしシンプル、と言う条件に当てはまる時です。とくにソーシャルワーカーが癌科、腎臓透析科、神経科、精神科、と言ったような専門分野で働いている場合は、患者さんの症状や治療がどう日常生活に影響を及ぼすか熟知しているので書きやすくなります。逆に医師の代筆が難しい場合は、1)患者さんの病歴が複雑、2)ソーシャルワーカーの知識が足りない、3)医療欄に求められる情報量が多い、時になります。このような時は、いかに医師が嫌がろうとも「患者さんの為ですからお願いします!」の一点張りで強引に書かせる、いや、書いて頂くしかありません(笑)。ちなみに、私が医師に代わって医療欄に患者さんの医療情報を書くときは、とにかく電子カルテを読みまくって、知らない病気の名前と内容をグーグル様に聞きまくって、そして何度も何度も草案を書いて清書する・・・って感じで、非常に手間暇がかかるんです。医者の時間を節約するために、医療ソーシャルワーカーがその何倍もの時間をかける・・・なんだかな〜。おまけに私はネイティブ英語スピーカーではないから、より一層手間がかかるんですよ(涙)。
シンペーはカナダで学部も院も出たから英文は書けて当たり前だろ!って過去に言われたこともありますが、いやいや、それは土台無理ですよ。私が書く文には必ずミスが生じ、そしてどっかにネイティブではない「よそ者」さが出てしまうのです。例えば、前置詞だったり、冠詞だったり、イディオムだったり・・・いやそれ以上に問題なのが、私の自信のなさですよ。患者さんから診断書や証明書や陳情書を頼まれ、医師に代わって原文を書かなきゃいけない時のプレッシャーと言ったらありません。「ヤッベ・・・こんな公的な書類が私に書けるのか!?」とか、「自分の稚拙な文章が他人に見られるのが恥ずかしい」とか、「私の書いたもののせいで、患者さんに不利益になりはしないか?」とか、もう頭の中がワンワンして医療ソーシャルワークの仕事をしたばっかりの時は大変でした。ま〜今もドキドキするけどね。それでも最近は代筆する事にだいぶヘッチャラになりましたよ。え?英文がやっとまともに書けるようになったのかだって?いやいや、もちろん違いますよ(ってエラそう言うな!?)。そうじゃなくて要領が良くなったのですよ(笑)。どう言うことかって?それはね〜今まで私の同僚達が書いた診断書、証明書、陳情書なんかを貰って集めてテンプレートとして使うようになったからなんです。これならテンプレートに私のバージョンを加えるだけ。とっても簡単で効率的です。おまけに私の経験が増えれば増えるほど、様々な書類のテンプレートも増えていくので、医師の代筆もどんどん楽になるって言う具合です。これは中堅ソーシャルワーカーの特権ですな〜いわゆる、ワハハ。
そんな感じで医者の秘書になったかのような代筆作業にも慣れ、むしろ申請書を書くのが楽しくなってきたくらいの今日この頃なんですが、私この間大変なものを発見しました。それは医師の年収リスト!BC州の規定で、ある一定以上の高年収を稼ぐ公的職業につく者は、その年収が公示される決まりになっているのですが、なんとその情報を見れる政府系サイトを同僚が教えてくれたのです。そこには私が一緒に働く腎臓医たちの名前と年収も載っています。う〜む、どれどれ・・・ん!?むむむ?「なんじゃこりゃ〜〜〜!!!」と思わず叫んでしまいました。だって目の前に並ぶ数字は軒並み6000万、7000万、9000万ってすごい数字です。あの若い先生の年収が7000万円!?あの優しそうな先生は9000万円!?あ、でも私の苦手なヒステリックなT先生は4000万円だ・・・もっとお金にシビアそうだったのに・・・、とそれにしても腎臓医のなんと羽振りのいいこと。私もカナダで医療ソーシャルワーカーをしていて、たまに「こんなに毎月お給料頂いていいのかな?」と待遇の良さに申し訳なく(?)思うことも度々あるのですが、そんな気持ちがぶっ飛んでしまって「ふざけんなよ!もっと私の給料を上げろ!」と怒りたくなってしまうほど、腎臓医の給料は我々一般職員の遥か上をいくものだったのです。
そんな現実を知ってしまった今、私が思うことはただ一つ。
「医療ソーシャルワーカーの私はなぜ医師の代筆をしているのかな?」
つまり・・・
「そんだけ金もらっているんなら、医療欄は医師が書けぇ〜!」
いやマジで。「忙しいお医者さんを煩わせないように配慮しなくっちゃ」なんて気を使って代筆していた私はなんてまぁ人が良いんでしょう〜。だから医療ソーシャルワーカーは舐められちゃうんでしょうか(そうなの?)。だってこんな風に代筆しているせいなのか、最近では医師も「あ、ソーシャルワーカーさん!この患者さんに診断書類を書いてあげて。後でサインしとくから!」と言われることも日常化し、ついこの間までなら「はい分かりました〜!」と気持ちよく答えていたのに、あの事実を知ってしまった今は「へい!分かりましたよ!(チッ、あんなにお金もらってるくせに人に書かせやがって)」と不貞腐れた態度が出てしまうようになったのです。あ〜お金って怖いですね〜。みなさん、世の中には知らない方が良いこともいっぱいあるんですよ〜(っていうか単に私が隠れ金の亡者だったってことか!?)。
それにしても、こうしてすっかりグレてしまった私が思うこと、それは・・・
「医療ソーシャルワーカーは医師の秘書なのか?いや違うだろ〜!」
ってことなのでした。
そう考えると、やっぱりさっきタイプ分けした1番のソーシャルワーカー達のように、医療欄は何があっても医師に書かせるべきなのかもしれません。いや書かせるべきだ!
それでも私は今日も結局、患者さんの障害年金申請のための医療欄を医師に代わって書き、そして医師に署名だけもらって、それを提出したのでした。でもそれはもう医師の時間を節約するためではないんです。あくまでも患者さんと私の(効率化の)ため。ただそれだけなんですよ〜!!!と心の中で誰にでも叫ぶわけでもなく、いや自分自身を正当化するために叫ぶシンペーなのでした。
やっぱりお金の嫉妬は怖いよね!ってお話でした・・・ってなんか違ったような(笑)
おわり
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