医療ソーシャルワーカーの仕事6 介護施設編
あっさり終わるかと思ったこの医療ソーシャルワーカーの仕事シリーズ。ところがビックリ、あらためて書いてみるとまだまだ出てくる出てくる。我ながら、幅広い分野で医療ソーシャルワーカーが活躍していることに今更ながら気づかされ、嬉しくなります。さて今回はLong Term Care Facility 介護施設で働くソーシャルワーカーについてのお話です。
カナダの介護システムの基本は在宅ケアです。Community Healthとよばれる地域の保健所がケースマネージャー、訪問看護師、OT/PT、ケアワーカーを介護が必要な患者さんのもとに派遣します。ただし、24時間介護サービスは提供しておらず、ケアワーカーの派遣は一日最大4時間までとなっています。そのため家族がサポートできず、24時間介護が必要だとみなされた患者さんのみ公的介護施設への入居が勧められます(でもどこも一杯で、そうすぐには入れない)。ただし、プライベート(自費)で施設入居希望の場合は、支援介護付き集合住宅(Assisted Living Facility)および要介護施設(Long Term Care Faility)ともに、いつでもどこでも、好きなときに好きなところへ入居することができます(すぐ入れるけど、高い!)。ズバリ、高齢者ケアに関してはお金がものを言う世界なのです。
ほとんどの公的介護施設にはソーシャルワーカーが配置されています。また州の保険局はプライベートで運営されている介護施設のベットも一部買い取っているので、プライベートの介護施設の中にもソーシャルワーカーを採用している所もあります。公的介護施設の入居費用は、患者さんの収入によって決まります。一般的には8割負担と言われており、最低レベルの年金受給者の場合は、月額約$90(9000円)程度のお小遣い以外は、すべて入居費に当てられます。そしてこの少ない患者さんの「お小遣い」が介護施設のソーシャルワーカーを悩ますもとになるのです。
介護施設ソーシャルワーカーの仕事はまず、地域のケースマネージャーから送られてきた新規入居者とその家族へのオリエンテーション・施設案内から始まります。また事前の施設見学のツアーガイド(?)を引き受けるのもソーシャルワーカーの仕事です。さらに患者さんによっては法定後見が必要な場合もあるので、その手続き(公的管財団体への財政管理申請)を行うのもソーシャルワーカーの仕事です。患者さんの入居後は、患者さんがうまく施設生活に適応できるよう患者さんと家族へのカウンセリング(という名の悩み&苦情相談)を行います。
そこでよくある悩み・苦情相談TOP3+1:
ルームメートとのいざこざ
残念ながら、今現在も大半の公的介護施設は4人部屋です。施設によっては、2人部屋、個室があるところもありますが、絶対数が少なく希望者多数のため、ほとんどの入居者はルームメートとのシェアが基本です。ただ入居患者さんの認知症レベルもまちまちなので、部屋でゆっくり出来ない、寝れない、とこぼす患者さんも多いです。それに加えて、施設生活によるストレスも合わさって、ルームメートと喧嘩になることもあります。患者さん同士のいざこざの仲裁をし、部屋変えなどで問題解決を図るのもソーシャルワーカーの仕事です。でも正直、4人部屋ってのがそもそもの問題点ですよね。私だって4人部屋で生活しろって言われたら、3日でイライラ最高潮、7日目には発狂しますよ。病院と同じく、介護施設もベット数が足りなすぎるんです!!!
食事のクレーム
幸運なことに、私はまだ病院や施設の食事を食べたことがないのですが、患者さんからの評判は最悪です。14年前の大学実習時も最悪だって評判だった病院・施設食・・・14年たった今、昔よりも酷くなったと言われています。最悪よりも最悪をあらわす表現ってあるのでしょうか?私の予想では、病院経営においてまず予算が一番減らしやすいところがケータリング部門。かつては各病院ごと提供していた食事も、民間ケータリング会社一社に丸投げされました。ぜったい契約競争で一番安く提示したとこを選んだに違いない。
身体の自由も満足に利かず、施設で生活する患者さんにとって、毎日三度の食事は数少ない楽しみであるはずなのに、患者さんの話を聞く限り、どちらかと言うと苦痛のようです。こればかりはソーシャルワーカーも慰めようがありません。栄養士さんに相談しても、出来ることには限度があるようで、一体どうしたらいいんでしょうね(ため息)。でも、こんなに「まずい」「まずい」と聞かされると、一体どんだけまずいのか、病院食を食べたくってしかたありません。
お金の問題
さきほどお話したように、低所得年金受給の患者さんの自由になるお金は、一ヶ月$90(9000円)とかなり少ないです。確かに、三食部屋付きなので、政策的な見方からすれば「ほかにお金必要ないでしょ?」っていうお役所的な考えは理解できます(同意はしないけどさ)。ただ、現実的に、やっぱり月9000円で「それ以外」の費用をまかなうのは厳しくないでしょうか?例えば、ちょっと出かけるにだって交通費がかかります。また補聴器、めがね、歩行器などが必要になったら、ここからお金を工面しなければいけません。また毎日のまずい食事から逃れるために、外食をしたいと思う患者さんも多くいます。でも9000円なんてあっという間になくなってしまうのです。私が働いた患者さんのケースで、こんなことがありました。
この患者さんも例に漏れず、施設での食事に辟易していました。そんなわけで週に一度はケンタッキーフライドチキンデーと定め、ケンタッキーやピザなどを買ってはルームメートとシェアしていたのです。ちなみにこの患者さんは腎臓病なので、本当はこんなもの食べてはいけないのですけどねぇ。ある年の誕生日、この患者さんはタクシーで近くのステーキ屋さんに行き、自分の友達もよんでステーキにロブスターと盛大に誕生祝&大盤振る舞いしました。せっかくのおめでたい日、好きなものを食べたかったのでしょう。さて会計をするときになって気が付きました。お会計は1万円。でも月のお小遣い9000円は行きのタクシー代も払ってしまって残り7000円。帰りのタクシー代も考えると明らかに足りない・・・。さてどうするか?なんとこの患者さん、ステーキ代とタクシー代を施設へのツケにしてもらって無事施設に戻ってきたのでした。天晴れ!でも、そのあと施設のソーシャルワーカーが頭を抱えたことは言うまでもありません。結局、毎月2000円づつ患者さんのお小遣いから返済するということで落ち着いたのですが、この患者さんその後もタクシー乗り回して食事をツケにしては施設に借金を抱えるということを繰り返したそうです。今はもうお亡くなりになりましたが。陽気で面白い人でした。
と、こんな感じの患者さんも多いのでお金の相談は日常茶飯事の仕事です。施設によっては、朝からソーシャルワーカーの相談室に行列が出来るところもあるそうですよ。行列の出来るソーシャルワーカー相談室(笑)。
施設転居要請
公的介護施設は、どこも州保険局の基準を満たしているので、同じ水準のケアを受けることができると言えます。ただ実際は、施設によっては設備が古かったり、スタッフの評判が悪いところ、食事の質が(若干)良いところなど、介護施設によって大きく違ってきます。介護施設に不満を感じる患者さんの中には、他の施設への転居を要請する患者さんも結構います。その転居相談・手続きをするのもソーシャルワーカーの仕事です。ただ転居をしたからといって問題が解決するとも限らず、施設を転々とする「介護施設転居難民」になってしまう患者さんもいます。なぜなら4人部屋への不満、お金の問題、不味い食事・・・これは他の施設に行っても付いて回る公的介護施設共通の問題だからです。
このような相談業務の他にも、患者さんと家族とのアドバンスケアプランニングについての話し合い、最期を迎える患者さん家族のサポート、そして死後の手続きの説明などを行うのも介護施設ソーシャルワーカーの仕事です。
私の独断と偏見で思うに、介護施設のソーシャルワーカーに求められる資質は、「辛抱強さ」ではないでしょうか?なぜなら、介護施設の患者さんとは長いお付き合いになるうえ、ソーシャルワーカーには簡単に解決できない問題(例:食事や施設環境)についての相談を何度も受けなければならず、またそのつど共感を示すことにより患者さんの不満を少しでも和らげなければならないからです。また、患者さんとお金の使い方についても、辛抱強く話し合わなければなりません。おまけに「ツケ」が回ってきたときの対処方法もクリエイティブに考える能力が必要となります。カナダでも高齢化が着々と進んでおり、複雑な社会背景をもつ高齢患者さんが増えることにより、介護施設でのソーシャルワーカーの需要は、今後も大きく伸びることでしょう。
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