医療ソーシャルワーカーの仕事7 リハビリ編


なかなかしぶとく続くこの医療ソーシャルワーカーの仕事シリーズ。でも、そろそろ終わりが見えてきましたよ。もうしばらくお付き合いください(笑)。さて今回はリハビリ病棟に勤めるソーシャルワーカーのお話です。



病院に入院した患者さんも、治療が終わり容態が安定してくると退院に向けてプランが組まれます。完全回復した患者さんは、もちろん問答無用に自宅へと帰されます。しかし、患者さんによっては、回復に時間がかかる人や、リハビリが必要な人、また社会的背景(例:家がない、家族の受け入れ準備が整っていない、など)によって入院が長引く患者さんもいます。もちろん「社会的入院」を防ぐために、ご存知の通り病棟ソーシャルワーカー(病棟編参照)が孤軍奮闘するわけですが、それでも一向に進展が見られない場合は、患者さんはConvalescent Careと呼ばれる回復期病棟へと移されることになるのです。この回復期病棟は、病院とは離れた位置に立てられており、一般的にリハビリ病棟と併用されることが多いです。またリハビリおよび回復期病棟の目的は、できるだけ早く患者さんを自立させて自宅へ帰すこと。その為に、医療ソーシャルワーカーは、リハビリ棟と回復期棟それぞれに配置されています。つまりここのソーシャルワーカーの仕事は、かなり「退院手続き」に特化されていると言っても過言ではありません。



さて、リハビリが必要な患者さんはリハビリ病棟。在宅ケアが出来るまでに回復していない患者さんは回復期病棟。そして社会的要因で入院が長引く患者さんも回復期病棟という風に、一応は選別されるのですが、この選別方法が今ひとつ不可解なのがここの病院システムなのです。例えば、95歳で介護施設転居が望ましい要介護の患者さんがリハビリ病棟に移されたり、回復期病棟に移されたばかりの患者さんが亡くなられたり(って回復してないじゃん!)、と今ひとつこの判断基準があいまいなのです。そしてもう一つ問題なのが退院手続き(やっぱりね)。



私が働いている保険局のスローガンはHome First! 日本語に訳せば「家が一番!」。つまり在宅ケア至上主義なのです。去年までのスローガンはHome is Best! でした。日本語に訳すと「家が一番!」。あれ?今年と同じスローガンじゃん!?いやいや、でも、ニュアンスが大きく違うのです。Home is Best! の場合は「家が一番居心地いいんだからさぁー、さっさと病院から家に帰ってね」と言うニュアンス。「やっぱり家が最高っしょ!」て感じで患者さんを説得していたのですが、多分患者さんやその家族から、必ずしも自宅が最適な介護環境ではない!って反論されたのでしょう。それで今度はHome First! に変えたのです。これを意訳すれば「とにかく一番最初はまず家に帰ってちょうだい!」というニュアンスで、なんでもいいからとにかく病院から家に帰ってもらう、と言うことなのです。かなり前回のスローガンから比べると強制的な感じになりました。



ではこのHome First! なにが大きな問題になるのかと言うと、このスローガンのせいで患者さんは病棟から公的介護施設への直接転院が出来なくなっているのです。要介護で公的介護施設への入居が必要な患者さんも、いったんは病院から自宅にもどり、そこでケースマネージャーが改めて介護施設転居のアセスメントおよび手続きをする。そしてその間は在宅ケアでつなぐ、というシステムです。ただ、Community Healthからの在宅ケアサービスは一日最大4時間まで。24時間介護が必要な患者さんのケアは必然的に家族に負担がかかるわけですが、家族のいない患者さんもいます。そこでまたリハビリ・回復期病棟のソーシャルワーカーに退院プレッシャーがかかるわけです。でも要介護が必要な患者さんをサポートなしで自宅に帰すわけには行きませし、また家族に頼むにしても、要介護の患者さんのケアはそんなに簡単ではありません。医療ベットも必要になるし、酸素マスクが必要な患者さんもいます。なにより家族もそれぞれの生活に必死で、仕事を休んで24時間ケアが必ずしも出来るわけではありません。そうなるとどんなにソーシャルワーカーが頑張っても、患者さんを病棟に滞在させるしかないんです。


まあ、とにかくこのシステム自体がおかしいのは明白です。それもこれも少しでも病院・介護施設にかかる経費を削るための州政府の陰謀に違いありません!患者さんや家族から「どうして直接介護施設に転院できないんだ?」と詰め寄られても「Home Firstですから・・・」としか答えられないソーシャルワーカーが可哀想になります。今のところは、特例という形で、どうしても在宅ケアが出来ない患者さん(って要介護の患者さんはみんなそうなんですけど・・・)は病院から直接介護施設への転院が非公式で行われています。しかしHome First!の圧力は強くなる一方で、いずれは問答言わずにすべての患者さんが家に帰されるということも予測されます。そうなると、もうあとは事故を待つのみ・・・という最低な状態になります。病棟のスタッフはみなこのシステムがおかしいと分かっているのですが、現場とマネージメントの間にある、理解のギャップを埋めるのには時間がかかりそうです。というわけで、新しいスローガンが発表されるたびに、苦しい立場に追い込まれるのがリハビリ・回復期病棟ソーシャルワーカーの現状です(涙)。



・・・って終わらしたら、リハビリ・回復期病棟ソーシャルワーカーなんて、なにも良いことないじゃん!ってなるので補足を。リハビリ入院患者さんと働く喜びとは、やはりリハビリによって患者さんの機能が改善し、それにより自立機能が回復していくのを見ることにあります。リハビリ自体はキツイので、多くの患者さんが不満を口にしたり、くじけそうになることもあります。それを受け止め、励ますのもソーシャルワーカーの仕事です。そうして、少しずつ患者さんが自信をつけ、自立への希望を持ち始めるのを見るのが、リハビリ・回復期病棟のソーシャルワーカーにとって大きな喜び、達成感となります。また、退院までの入院期間も、一般病棟と比較すると長いので、患者さんと信頼関係を築き、一つ一つ問題解決を図るだけの時間的ゆとりもあるのが利点です。



一般病棟のソーシャルワークが好きだけど、でも激動の時間に疲れたソーシャルワーカーが、癒しを求めてやってくるのがリハビリ・回復期病棟。ってのが私の勝手なイメージです(笑)。つづく。

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