医療ソーシャルワーカーの仕事8 ケースマネージャー編


むかしから、ソーシャルワーカーとケースワーカー(カナダではケースマネージャー)の違いって一体なんだろう?って私は思っていたんです。ケースワーカーの一部にソーシャルワーカーが入っているのか、ソーシャルワーカーの一部にケースワーカーが入っているのか、それとも全くの別物なのか・・・そんな訳で、今回はケースマネージャーの仕事に焦点を当ててみたいと思います。



一概にケースマネージャー(Case Manager)と言ってもその職種は幅広く、活躍する分野も介護福祉、メンタルヘルス、薬物依存などいろいろあります。ただ一つ共通しているのは、どの分野のケースマネージャーの仕事も、地域で患者(クライアント)さんの日常生活に密着して手助けをする、ということで、これは今まで紹介した病院やクリニックでの医療ソーシャルワーカーの仕事と大きく異なる点です。患者さんの家庭を訪問したり、患者さんと一緒に買い物や家探し、また患者さんをお医者さんや病院に連れて行ったりと、行動範囲の広いのがケースマネージャーの仕事の特徴です。また、患者さんの生活環境を一番良く知っているのもケースマネージャーと言えるでしょう。



ケースマネージャーは、必ずしも全員がソーシャルワーカーの資格を持っているわけではありません。むしろ看護師の資格を持っているケースマネージャーのほうが、ソーシャルワーカーの資格を持っているケースマネージャーよりも多いことの方が一般的です。ですので、患者(クライアント)さんへの接し方、仕事の仕方・考え方に看護師とソーシャルワーカーで違いが出ることもあります。これはどちらかが良いとか悪いとかではなく、専門トレーニングの違いから来るところが大きいのです。もちろん、私は生粋のソーシャルワーカー派なので、看護師系ケースマネージャーの仕事に「うん!?なんかちょっとやり方がちがうんじゃね?」と偏見を持ってしまうのはしょうがないことです(って肯定するなって?)。



それでは介護福祉におけるケースマネージャーの仕事から見ていきましょう。


Community Health Case Manager (コミュニティ・ケースマネージャー)

在宅介護のアセスメントおよびケアワーカー、訪問看護の派遣は地域のCommunity Health、日本でいうと地域包括支援センター(?)にあたる公的機関が担当します。Community Healthには、ケースマネージャー、看護師、OT/PTが中心となって、患者の在宅ケアアセスメントや介護・看護プランを立てます。またケースマネージャーはMMSE(ミニメンタルステート検査)と呼ばれる検査法をつかって、在宅患者さんの認知能力を含めた総合的なケアニーズを判断します。また在宅での介護に限界があると判断された場合は、ケースマネージャーが率先して患者さんの介護施設への転居手続きをします。これは患者さん・家族への介護施設案内、希望施設の聞き取り、介護施設入居費の算定、また入居費が払えない患者さんの公的扶助の書類手続きなどを含めた業務になります。



さて介護福祉におけるケースマネージャーにとってもっとも大切で大変な業務は、Adult Guardianship Act(成年後見法)に関わる業務です。これに関わるケースは、Adult Guardianship Legislation を省略してAGLケースと呼ばれます。AGLケースとは、自分で助けを呼ぶ能力がない成人(例:認知症を患う高齢者)を下記のいずれかの理由により保護しなければいけないケースです:


セルフネグレクト(食事や衛生管理などを放棄し健康を損なう行為)

ネグレクト(家族が援助が必要な患者・クライアントの世話を放棄)

虐待(肉体的、心理的、性的、財政的虐待を受けている)


このようなケースを受け持ったケースマネージャーはAGL(成年後見法)に則って対処することになります。例えば、セルフネグレクトの患者さんのケースだったら介護施設への転居。ネグレクトのケースだったら、患者さん家族との話し合い、ケアワーカーの派遣やリスパイト(短期施設入居)による家族への負担の軽減。虐待の場合は、警察への通報や裁判所を通しての保護、また財政的な虐待の場合は、公的管財人への委任要請など、やることは山のようにあります。また攻撃的な患者さんの家族とも冷静に対処しなければいけません。



高齢化の影響もあるのかもしれませんが、高齢者への虐待、とくに金銭面での虐待がすごく増えています。しかし、自分の子供に虐待されていることは、なかなか人には言えないようで、隠したり、誤魔化したり、かくまったりする患者さんが大半です。また患者さんのプライベートに第三者であるケースマネージャーがズカズカと踏み込むことはできません。高齢者を含めた成人の保護は、あくまでも「自分で助けを求めることのできない」成人に限られているのです。しかしながら、仕事を通して関係を深めた患者さんが家族から「虐待されてるんじゃないかな?」という状況を見つけたときほど、ストレスがかかることはありません。とくに認知的に問題のない患者さんの場合は、やんわり説得することくらいしか出来ず、あとは状況を見守ることしかできないからです。



Mental Health & Substance Use(メンタルヘルス・薬物依存)Case Manager

メンタルヘルス(精神衛生)ケースマネージャーはCommunity Mental Healthという公的機関に属します。精神科医とケースマネージャーからなるチームで、主に精神科病棟から退院された患者さんの社会生活のサポート(例:生活保護・障害手当ての申請、住居さがし、職探し)、心理サポート(例:カウンセリングやサポートグループの紹介)、そして医療サポート(例:きちんと薬を服用しているか、病状がコントロールできてるかのチェック)などを定期的な面会を通じて行います。また病状が悪化したときには、病院に連れて行って措置入院の手続きも行います。



薬物依存の分野では、ケースマネージャー(Addiction Workerと呼ばれることが多い)は、DetoxやDaytoxと呼ばれる解毒を目的とした短期の滞在施設でのカウンセリング、長期滞在治療施設やグループホームへの入居手続き、またホームレスの依存患者(クライアント)さんへのアウトリーチなどをします。歴史的に、メンタルヘルスと薬物依存は切り離されて扱われてきました。しかし近年では、メンタルヘルスと薬物使用のつながりが改めて見直され、Concurrent Disorder Programのような、包括的にメンタルヘルスと薬物依存の両方を患っている患者(クライアント)さんのサポート・ケースマネージメントをするようなプログラムも作られ、ケースマネージャーも精神疾患と薬物依存、両方の知識を持つことが求められるようになってきています。



私の住んでいるバンクーバーでも薬物依存問題は深刻で、最近は若者によるFentanyl(フェンタニル)による死亡事故が急増中です。かつて違法薬物はパーティーなどの余興で使われることが大半でしたが、今は、特に若者は、友達に会うための気分を上げるため、うつ症状の軽減のため、といった理由で、家で一人で違法薬物を使うことが多くなったそうです。そのため過量服量(Overdose)による意識混濁になってもすぐに発見されず死に至ってしまうことが増えたと言われています。また、闇で売られているフェンタニルの質が悪いのも死亡者が増え続けている原因です。バンクーバー自体は薬物依存問題には積極的に対処していて、Safe Injection Siteと呼ばれる、薬物依存者のための薬物使用センターもカナダで最初にオープンしました。これは看護師の管理のもと、清潔な注射器や薬物使用の環境を提供することで、依存者の過量服量を防止するのが目的で、従来の「薬物をやめさせる」から「薬物によるダメージを和らげる」いわゆるHarm Reductionという考えに移行した結果によるものです。しかしながら、いまの若者の薬物使用のパターンも変わってきており、従来のHarm Reductionアプローチでは度重なる死亡事故を防ぐことが出来なくなってきたように感じます。若者の精神疾患が増える中、やはりメンタルヘルスと薬物依存をあわせ、さらに若者をターゲットにしたサービスの提供が必要とされているのだと思います。



私の経験からすると、精神科病棟に勤めているソーシャルワーカーは、しばらくするとメンタルヘルスケースマネージャーの仕事にうつっていく人が多いように思います。これは、病院という医療従事者中心の世界で患者さんに出来ることへの限界を感じるからかもしれません。ケースマネージャーとして患者さんが生活する世界に入っていくことで、病院では分からなかった患者さんの素顔、強さ、人や地域とのつながり、と言ったようなものが見え、より深く患者さんとの信頼関係が築くことができる。結果、患者さんへの手助けも効率的にでき、達成感も大きくなる・・・こんな風に考えると、ケースマネージャー職へと移っていく精神科ソーシャルワーカーの気持ちもよく分かります。そして今日もまた、精神科ソーシャルワーカーの外部募集が出るのでした(笑)。

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