「女性の行進」カナダでのジェンダー問題
今週末、アメリカ、ワシントン市で行われたWomen's March「女性の行進」を後押しする形で、世界中で250以上の「女性の行進」が行われました。全米での「女性の行進」では、性差別的政策を掲げるドナルドトランプ大統領就任一周年を迎え、反政権、反セクハラを訴えて多くの女性が行進に参加しました。ここバンクーバーでも昨日(土曜日)、約1万5000人を超える女性、そして男性がこの「女性の行進」に参加しました。バンクーバーでの行進では、多くの参加者が、止まないセクハラへの怒り、そして女性の幅広い社会参加を訴えました。
カナダという国は、平和的、親和的、男女平等、多様性尊重と言ったようなポジティブなイメージで見られることが多いと思います。まぁお隣がアメリカという理由もあるのでしょうが、私が日本にいた時のイメージも「カナダは片田舎の国で、安全で、親切で、平等で、移民に寛容な国」という良いものでした。もちろん、それらはあながち間違ってはいないと、カナダに長く住んでいる私も思うのですが、しかし同時に、人種・性差、マイノリティーに対する偏見、不条理な差別は、カナダにもまだまだ根強く残っており、それが一見理想的に見えるカナダ社会に深い闇を落としています。
例えば、カナダ人の10人に1人は貧困に喘いでいます。貧困率11%というのは、先進34カ国のなかでも23位と決して低くはありません。その中でも女性(とくに有色人種)の貧困は際立っていて、カナダにおける女性の地位が、必ずしもカナダ人が思いたいほど高くはないという事が、カナダ統計局のデータから分かります。カナダ統計局のデータによれば:
- First Nationsと呼ばれる先住民女性の貧困率は36%
- 障害をもつ女性の貧困率は33%
- 有色人種の女性の貧困率は28%
- 移民女性の貧困率は20%
- シングルマザーの貧困率は21%
- 1人暮らしの高齢女性の貧困率は16%
といった具合に、軒並みカナダの平均貧困率11%を大きく上回っています。また女性や子供のホームレスも増えており、これは経済的格差に加えて、DVなどの女性・子供に対する暴力が大きな要因となっています。またホームレスの女性には、暴力、レイプ、搾取といったリスクが常に付きまといます。
カナダで女性の貧困率が高い理由に、男女間での経済格差・差別があります。例えば60%以上の女性は最低賃金で働いています。また子供をもつ女性は、持たない女性よりも平均で12%も収入が少ないという報告があります。これは現代カナダ社会においても、子供の養育や家事全般が女性の役割として見なされ、それが女性の対等な社会進出を阻んでいるからだと思われます。さらに、保育所不足が女性の経済的不利な状況を助長しています。
このように見てみると、カナダの女性が抱える問題と、日本の女性が抱える問題とに、そう大差はないように思えてきます。そしてそれはアメリカでも、他の先進国でも似たような状態なのでしょう。だからこそ、世界中で「女性の行進」が起きているのだと思います。声を大にしないとすぐに消されてしまう女性の声。ソーシャルワーカーにとっても、女性の貧困は見過ごすことの出来ない大きな問題です。なぜなら女性の貧困は子供に影響し、そして貧困の連鎖を生んでしまうからです。
さらにカナダ特有の問題として、先住民そして有色人種女性への激しい差別が上げられます。女性というだけでもすでに不利なのに、それに人種が加わることで、ジェンダーと人種の二つの差別に抑圧されることになります。大学時代、有色人種女性を差別から開放するためには、「ジェンダー問題の解決が先か?人種差別問題の解決が先か?」と言ったような議論を学生同士でしたものです。当時私は「人種差別の解決が先だ派」だったのですが、今はそんな議論自体が無駄、机上の空論なのではと思ってしまうのです。それというのも、先住民・有色人種女性の差別は:
ジェンダー+人種=抑圧状況が2倍
・・・というより、
ジェンダー×人種×(経済状況、教育などさまざまな要因)=抑圧状況100倍以上
・・・という風に二乗の関係にあるように思えるからです。
つまり、先住民・有色人種女性が抑圧されている一つ一つの要因を別々に切り取ることは出来ず、すべての要因はごっちゃに絡みついて一つの大きな抑圧となっているように私には思えるのです。
と、まぁ、こんな感じで考察するのは研究者に任せておいて、現場ソーシャルワーカーにとって出来ることは、抑圧されている女性が声を大にして問題提起できる環境を作ることではないでしょうか?そういう中での今回の「女性の行進」。草の根運動を信条にもつ私のようなソーシャルワーカー達には、心の中にある「アツい」ものが久しぶりに湧き出るような機会だったに違いありません。私の頭でっかちで理屈っぽい感情も、今日のブログに少し出てきちゃったみたいです(笑)
日本でも「女性の行進」あったのでしょうか?
PS カナダでは有色人種をVisible Minorityと呼びます。日本語では「有色人種」という言葉は差別用語になるのかもしれませんが、このブログでは非白人とはあえて使わず、有色人種としました。そもそも誰がVisibile Minorityで非白人なのかという問題と、それを定義すること自体がおかしいと個人的には思うので、ニュアンス的に強い感じの「有色人種」が今回の場合は一番ふさわしいと思いました。以上補足でした。
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