蟹とカジノと依存問題
最近、日本からのニュースで、ギャンブル依存症についての記事を目にすることが多くなりました。日本では統合型リゾート施設(IR)整備法案、通称「カジノ法案」が国会で採決され、東京オリンピックの2020年には、日本にも公営カジノが登場することが予想されています。それに伴い、ギャンブル依存症と呼ばれるギャンブル障害(Gambling Disorder)に罹る人が急増するのでは?と懸念されているようです。ただ日本にはすでに競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブルが運営されており、またパチンコのようなギャンブルも身近にあるので、ギャンブル依存症はすでに日本人にとっても珍しい精神疾患ではないように思えるのですが・・・
ここカナダではパチンコはありませんが、カジノはあります。すべてのカジノは政府によって規制を受けており、利益のほとんどは政府機関によって税金として接収され、いくらかの収益は地域NPOの社会福祉事業へと還元されています。私もかつてバンクーバーのエイズ予防NPOで働いていたとき、プロジェクトの予算を、BC Lottery Corpと呼ばれるギャンブル全般を取り仕切る政府機関から頂いたことがあります。政府もカジノからの税益は、(ギャンブル好きの)人々から嫌がられず、しかし無尽蔵に取ることが出来るので、通称Sin Tax(直訳:罪深い税)と呼ばれるこの税収を増やそうと躍起になっています。Sin Taxはカジノの他にも、タバコやお酒からの税収も含まれています。
さてこのカジノ。バンクーバー周辺には少なくとも10施設あり、ダウンタウンと呼ばれる繁華街にもカジノ施設はあります。カジノには通常バイキング(食べ放題)のお店が併設されるのが特徴で、また毎週末にショーなども開催して集客に力を注いでいます。なんと言っても、お客にはカジノに来て、お金を使ってもらわないといけませんからね~。
そんなわけで、実は私、週末にカジノに行ってきたのです。もちろん目的は、州政府にSin Taxを納税すること・・・ではなく、カニ!
はい、そうなんです!バイキングでの蟹食べ放題に釣られてカジノに行ってきたのです。週末のバイキングは$40(約3800円)。集客に力を入れてるわりには、あまり安くない・・・これは何としてでも元を取らなければいけません。制限時間2時間中、とにかく蟹しか食べませんでした。たぶん合計で少なくとも10杯は食べたはずです。蟹には目がない中国系の人たちも、蟹をてんこ盛りにした私の皿には感嘆の声をあげてました(ちょっと恥ずかしかった・・・)。
そしてその後は、冷やかし程度にスロットマシーンを除いてみたのですが、気が付いたら$40負けちゃってました。まあ、$40で2時間くらい遊べていたので悪くはないのですが、カニ食べ放題が1食分消えたかと思うと悔しくなります。さて、スロットをやりながらカジノに来ている人たちを観察してみると、色々な人がいるのに気が付きます。バーでお酒を飲むために来ている人、大勢の友人と来ている人、ただ冷やかしに来ている人、お金がありそうな人、お金がなさそうな人、アツくなって台をたたいてる人、一心不乱に同じスロットをずっと回してる人・・・ギャンブル依存が疑われる人が何人か目に付きます(私もかって!?)
さて、カジノの中にはギャンブル依存症相談室が設けられています。これはResponsible & Problem Gambling Programという公的依存症予防・対策プログラムの一環で、依存の疑いのある人、苦しんでいる人に以下のサービスを提供しています。
• 無料のヘルプライン(電話相談室)
• ギャンブル障害に関する教育や情報提供
• カウンセラーやサポートグループの紹介
• カジノへの出入り禁止リストへの加入サービス
これらのサービスによって、ギャンブル依存症の人たちの症状が悪化するのを防ごうと積極的に啓蒙活動を行なっています。
ただギャンブル依存の人が自分の問題に気づき、それを容認することは簡単ではありません。また、依存を自覚し、助けを求め、カジノへの出入りをやめようと決意しても、ギャンブルへの衝動とは一生涯付き合っていかなければなりません。これは他の依存症(アルコール依存症や薬物依存症など)と共通している点だといえます。最近の研究では、脳の機能障害との関連性や遺伝的影響も指摘されています。いずれにしても依存症は病気であり、回復支援と衝動へのコントロールが大切となります。
私も、仕事で何人かギャンブル依存の患者さんの担当をしたことがありますが、生活維持の要であるお金を散在することは、患者さんの健全な日常生活を蝕むだけでなく、患者さんの家族関係、友人関係、社会関係にも大きな影響を及ぼします。その結果、多くの患者さんは社会的に孤立してしまい、それがまたギャンブルへと駆り立ててしまうようです。自分自身でコントロール出来ない衝動に苦しむ患者さんを見ながらも、効果的な手助けがなかなか出来ないソーシャルワーカーとしては、つらく歯がゆい思いになります。このギャンブル依存症、まだまだカナダでも日本でも社会で認知されていないこともギャンブル依存者が社会的に孤立してしまう一因かもしれません。日本で話題になっている「カジノ法案」が、ギャンブル依存についても注目を浴びる機会になればいいのになぁー。
ちなみに私は、今はどちらかと言えばカジノよりもカニに依存してしまいそうで怖いです。あーまた腹いっぱい蟹が食いたい・・・カニ!
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