憎っくき!カナダの生活保護 その1


生活保護とは英語では一般的にWelfareと呼ばれます。カナダでは、それぞれの州がWelfareを管轄していて、例えばここBC州ではIncome Assistanceと呼ばれています。Welfareという言葉は少しネガティブなイメージがあるので、それぞれの州では工夫を凝らしてIncome Assistance, Income Support, Social Assistanceなどソフトな感じの、でもどれも似たような名前がつけられています。でもハッキリ言って、呼び名なんてどうだっていいんです!どうせ実態はどこだって酷いのですから(怒)・・・あらら、スミマセン。文章を書いて3行目ですでに怒りが爆発してしまいました。ではなぜ、生活保護の話をしようとすると怒りがこみ上げてくるのか?それは私たちソーシャルワーカーを困らせるからなんですよ。それでは今日は、出来るだけ冷静に、カナダのWelfare、生活保護についてお話したいと思います。


① 支給額

まず第一に、カナダの生活保護、支給額が少なすぎるんです。さっき、カナダの生活保護はそれぞれの州が管轄していると言ったのですが、それはつまり、それぞれの州が生活保護の支給額を決めることが出来るということなのです。が!どの州も談合したかのごとく支給額はほぼ同じ。自由競争社会の今日において、なぜこんなことが起きるのか?その答えは単純です。1つの州が生活保護の支給額をあげたら、カナダ中の貧困者がその州に集まって、州の財政負担が増えてしまう!とお役所的に考えたからなんです。そのため、むしろお互いの州が切磋琢磨(?)して、ぎりぎりのラインまで生活保護支給額を下げ合うという競争をしたのです。その結果、見事に生活保護支給額は最低ラインまで下がってしまったのでした。それどころか過去には、「高速バス」のチケットを生活保護受給者に与えて、他州に送り込んでしまうというような悪事までやる始末。とにかくお互いに貧困者を他州に押し付けたいと思う州政府の思惑が絡んでいるのです。


それでは気になる生活保護のお値段は・・・


月額約$700ドル(約65000円)というのが、カナダ全土における生活保護支給額の平均値だと言えるでしょう。例えばバンクーバーが位置しているここBC州では$710、トロントがあるオンタリオ州では$700です。そしてこれは住宅費も含めた額なのです。お金の価値というのは人それぞれなので、高い低いは一概に言うことはできませんが、皆さんにとって、月額6万5000円での生活ってどうでしょう?


もちろん国ごと、また都市・地方での物価の差もあるので、一言にこの額が高い・低いかを判断することは難しいのですが、現在バンクーバー市の平均家賃(アパート1部屋)が$2000ドル(約18万円)だと言われているので、そう考えるとすべて込みで$700という支給額は、どんだけ考えても「高い」とは言えないと思います。むしろ、一体どうやって生活しているんだろう!?と不思議にさえなります。


ちなみに、以下が具体的な支給額です:


  • 単身者 $710(約6万5千円)
  • 夫婦(子供なし)$972(約8万5千円)
  • 夫婦(*子供1人)$1161(約10万円)
  • 夫婦(*子供2人)$1201(約10万5千円)

*子供にはこの他に、カナダ政府から一人当たり約$500(4万5千円)の子供手当てがつく

又、生活保護受給の条件として:

• $2000(夫婦だと$4000)以上の預金は禁止

• 車は一台なら可

• 家も住んでいるなら可

• 2年間独立して(=生活保護を受給していない)生活していた期間があること

• 受給後は、最初の5週間は必ず職探しをすること

• 5週間たっても仕事が見つからなかった場合は、再度の受給審査を受けること

のようになっています。


当然ながら、ほとんどの人は月額$710では到底バンクーバーでは生活できません。でも、生活しなければなりません。


病院の患者さんの中にも、病気のために仕事を辞めなければいけない人も沢山います。失業保険を収めてなかったり、障害保険がなかったり、また貯金もないような場合は、当面の生活のため、生活保護を受けなければなりません。しかし多くの患者さんは、その生活保護の受給額の低さに愕然とします。そうなると患者さんは医療ソーシャルワーカーに泣きつくしかありません。そして医療ソーシャルワーカーも患者さんと一緒に泣くことになるのです。なぜなら、医療ソーシャルワーカーに出来ることはあまり多くないからです。それでも、何とかして患者さんの手助けをしたいと思う医療ソーシャルワーカーがこの状況で試みることは:


1) 州の障害手当てが受給できるか挑戦する

重度の病気や障害をもった人には、生活保護に加算される形で障害手当てがつきます。合算で$1100(単身者の場合)まで月額受給額が増える上、さらに交通手当て、医療給付、栄養サプリメント給付、など様々な特典もつきます。ただし、障害手当てを受給するのは簡単ではなく、重度の障害・病気と認定されないと貰えません。例えば、腎臓透析患者さんや精神科病棟に入院される患者さんなどは、障害手当てを受給しやすいですが、一般病棟に入院していたり、プライマリーケアのようなクリニックにくる患者さんだと、なかなかこの障害手当ての申請に合格することは難しいです。


2) 無料で食べ物を提供してくれるサービスの紹介

バンクーバーには、Food Bankと呼ばれるNPOが、スーパーや卸売り店から寄付してもらった食品を低所得者に無償で提供しています。またQuest Food ExchangeというNPOは安価に新鮮な食材を低所得者に売っています。さらに教会やボランティアグループも定期的に、ホームレスや低所得の人たちに炊き出しをしています。

患者さんによっては、このようなサービスを受けることに抵抗がある人もいます。恥ずかしいと思う人もいれば、プライドが傷つくと思う人もいるかもしれません。しかし「背に腹は変えられない」という“ことわざ”があるように、患者さんを飢えさせるわけにはいきません。そもそも現実離れした生活保護の受給額で生きるためには、プライドを捨ててでも今あるサービスを最大限利用しなければいけないのが、受給者の厳しい現状なのです。


3) ホームレスシェルターや簡易宿所の紹介

同じように、生活保護を受給している患者さんには、ホームレスシェルターや、SRO(Single Room Occupancy)と呼ばれる簡易宿所を紹介することもあります。ただ、どちらも住居環境は良いとは言えず、安全性や衛生面からも長期滞在は望ましくありません。でも$710以下で借りられるアパートなんて滅多にありません。


4) 患者さんと一緒に、生活保護の酷さを愚痴る

患者さんと愚痴っても仕方がないのは分かっているのですが、大きな手助けが出来ない医療ソーシャルワーカーの立場としては、せめて患者さんの不満に共感を示したいと思うのです。また実際、途方に暮れている患者さんの気持ちを思うと、役に立たない生活保護に強い怒りを感じてしまいます。ただ私は、この生活保護という制度を患者さんと愚痴ることで、患者さんにも政治や政策というものの大切さを分かって欲しいと思うのです(って言ってるお前は何様なんだって・・・お叱りを受けそうですが)。

ほとんどの人は生活保護の受給額なんて、生活保護を受けるまで知りません。それは同時に、自分の生活に関わる身近な権利、政策、政治に関心を示してこなかったことでもあります。現状の生活保護制度に不満をもって、愚痴ることは、政策・政治に興味をもつ第一歩になるのではないかと私はかってに期待してしまうのです。そして実際に、医療ソーシャルワーカーは、患者さんにご自身が住む地域の政治家事務所に行って、嘆願することを最終手段として薦めています。これは、短期的効果はないものの、長期的には政策が変わるきっかけになることがあるからです。政治家も多くの投票者の声は無視できないわけですから・・・多分。


病院に入院してくる患者さんの多くは、突然の病気で生活が一変してしまいます。なかには仕事を失い、財政的に困難になる人もたくさんいます。そうした中で、生活保護を受けないと生活が出来ないという患者さんもでてきます。でも、生活保護だけでは病気前の生活水準を保てないということに患者さんはすぐに気づくのです。その時襲ってくる患者さんの絶望感と不安を、一体どれだけ医療ソーシャルワーカーは和らげることが出来るのでしょうか・・・


って出来ないから困って、怒ってるんですよ!本当に政策って一体どうやって変えたらいいんでしょうか?もちろん私の一票を投じることが、政治・政策に影響を及ぼす一歩だってことは分かります。でも一歩しか進めないんじゃないかというフラストレーションにもなるんですよね。さらーに!私の生活保護に対する怒りは支給額だけじゃないんですよ!もっと他にもあるんです。ぜひ明日も私の怒りを聞いてください!!!


と言うわけで、書きたいことがありすぎて一回では終わりませんでした。次回も冷静にカナダの生活保護制度について語りたいと思います。なんか読者減りそうだけど。。。(涙)

つづく

↑がBC州の生活保護を担当する省庁・・・ソーシャルワーカーの敵です(笑)

カナダでソーシャルワーカー Social Work in Canada

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