仕事も倍増!カナダの生活保護 その2
ソーシャルワーカー怒りの生活保護INカナダ。ソーシャルワーカーVS生活保護。仁義無き戦いはまだまだ続きます。
さて昨日は、①生活保護の受給額の少なさに激怒したんですけど、まぁーこれはソーシャルワーカー自身が何か出来るわけでもないので、ある程度の「諦め」もつきます(諦めちゃいけないけど、とりあえず現実として冷静に受け止めるという意味で)。でも医療ソーシャルワーカーの仕事量を無駄に増やしてくれる大きな変化が、最近この生活保護にあったのです(超怒)!!!
それは、生活保護申請方法の変更。これがまた「お役所も考えたな」って具合の、敵ながらあっぱれ!な方法で、「ぜったい生活保護受給者を減らしてみせるぞ!」いう強い決意(悪意とも言う)のようなものが垣間見れるのです。それではお役所が、どんな手段を取り入れたのか見ていきましょう。
②申請手続きの変更
変更前の生活保護申請は、オンラインもしくは電話で申請することができました。さらにかつては生活保護審査を担当するBC Employment and Assistance Office (直訳:BC州職業支援事務局)で直接申請することも出来ました。ところが昨年の生活保護申請方法の変更で、すべての申請はオンラインのみ受付という風に変わってしまったのです。確かに、今はなんでもオンラインの時代。銀行口座の管理も、ショッピングも、公共料金の支払いもすべてオンラインで簡単に出来ます。でもそれは、それが出来る人に限られるという点も忘れてはいけません。
まず第一に、病気で入院している患者さんの多くはオンラインへ繋がることが困難です。これは2018年を迎えた今に至るまで、WiFiサービスが患者用に張り巡らされてないという貧素なうちの病院インフラにも原因があるのですが、病気の治療で手が使えない、脳障害がある、意識障害がある、精神疾患がある、痛みで動けない、といった理由で、オンラインでの作業が出来ない患者さんも沢山います。さらに生活保護を必要とする低所得層の患者さんの中には、コンピューターを一度も使ったことがない患者さんや、文盲の患者さんもいます。
しかし、そんなことはお役所には関係ありません。新しいオンライン申請方法では:
1)申請者はまず申請用オンラインアカウントを作らなければならない
2)アカウントからオンライン申請ページにサインインし、質問事項に答えなければならない。
3)質問事項に答えたら、「オンライン申請をする」をクリックして、申請終了。
4)その後、担当者が申請者に電話での聞き取り調査をします
という流れで、「なんだ結局は担当者が電話するんじゃん!」と思ってしまうのですが、それまでの過程をすべてオンラインに絞っています。
さて、これの何が医療ソーシャルワーカーと患者さんの負担になるのか?それを一つ一つ見ていきましょう。まず・・・
負担その1:病院にWifiがない
これ初歩的だけど致命的な問題です。ベットから動ける患者さんなら、病院内のコンピューターを見つけてオンライン申請の手伝いも出来るけど、ベットから動けない患者さんには手助けが出来ません。おまけに仮にWifiが繋がったとしても、医療ソーシャルワーカーにはタブレットなどと言う洒落たものは支給されてないのでデバイスもないのです。一応、入院患者限定で、生活保護局担当者が特例で、電話での申請を受け付けてくれることにはなっているのですが、担当者の数が少ないためか、必ずしもすぐに受け付けてはくれず、退院までに間に合わないこともあります。
負担その2:患者さんがメールアドレスを持ってない(コンピューターもない)
これも初歩的でありながら致命的です。そもそもすべての人がメールアドレスを持っているわけではありません。そこで、じゃーまずは患者さんのメールアドレスを作ろう!と思って、患者さんと一緒に入力手続きをします。すると、“身分照明のため、既存のE-mailアドレスを入力してください”って出てくるではありませんか。メールアドレスを作るためには、メールアドレスが必要って・・・これはもう堂々巡りです。
仕方がないので、既存のメールアドレスがない!って入力すると、今度は“携帯電話の番号を入力してください”と出てきます。ここで携帯電話を持っている患者さんだったら「あーよかった」で終わるのですが、電話をもってない患者さんの場合・・・この時点で終了です。
あとは既存のメールアドレスも電話番号も要求しないメールサーバーを探し続けるか、もしくは自分の職場の電話番号を登録に使ってしまう(でもこの技は1人の患者さんにしか使えない・・・)しか方法はありません。
負担その3:多言語対応がまったく出来ていない
カナダは言わずと知れた多文化・多言語国家です。カナダの公用語も英語とフランス語。しか~し!この生活保護オンライン申請は英語のみの対応なんですよ。英語を理解しない患者さんなんてざらにいます。また英語でコミュニケーションを取ることが出来る人でも、その人が英語の読み書きを満足に出来るとは限りません。とくに生活保護の申請には難解な言葉を使った質問なども多く、医療ソーシャルワーカーの私でさえも(英語にはまだ完全なる自信はないが・・・)、???これどういう意味だっけ???って戸惑う質問事項がてんこ盛りにあったりします。そうなると、唯でさえ厄介なオンライン申請に、通訳者もつけなければいけなくなって、ソーシャルワーカーの負担はどんどん大きくなり、患者さんの混乱も深まっていく、という泥沼の渦に巻き込まれていくのです。
負担その4:エラーが多すぎのオンライン申請
もうこれ、終わってません?医療ソーシャルワーカーがぎゅーっと知恵をしぼって↑の困難を乗り切り、すべての質問事項の入力を終えて、やっとの思いで“オンライン申請をする”をクリックし「あ~ついに終わったぁ~」と患者さんと開放感を楽しんでいるその瞬間・・・
「エラーが起きました。もう一度最初からやり直してください」
のメッセージを見た瞬間のソーシャルワーカー(と患者さん)の気持ち、分かってもらえますか?もう頭真っ白というより真っ赤になりますよ!しばらく脱力感から抜け出せません。そうして甚大な精神的ダメージを受けた2人は、その日の生活保護申請を諦めてしまうのでした・・・
そうなんです!これこそが敵(生活保護局)の思う壺なのです!
表向きは公共の皆様に:
• オンライン申請で、お役所の人件費カット!
• オンライン申請で、誰でも簡単登録!
• オンライン申請で、ペーパーレス!環境にもやさしい!
• オンライン申請で、お役所もトレンドに対応してます!
ってアピールしつつ、裏の顔は、数々の手間を作ることで、生活保護申請希望者に「あーもうこんなにめんどくさい手続きなら、もういい!」って諦めさせ、ソーシャルワーカーの手助け無しには申請を不可能な状態に追い込み、生活保護申請者の数を減らすのが目的で導入したオンライン申請なのです・・・と私は疑っているのです。
しかしなぜお役所は生活保護受給者削減に血道を上げるのでしょうか?もちろん州政府の財政負担を減らすというのが大きな目標であることは間違いないでしょう。しかし、それだけではないはずです。そう、それはきっと世論の影響に違いありません。
世論の影響・・・これこそが医療ソーシャルワーとして、私が一番、生活保護について心配・不安・そして怒りを感じる点なのです。
と言うことで、今回も話が長くなってしまったので、生活保護に関するカナダの世論については次回の最終章までのお楽しみ(?)です。
↑コンピューターエラー!(ムキキー)
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