ソーシャルワーカーは土曜の夜に徘徊する・・・
土曜の夜、久しぶりにバンクーバーの繁華街ダウンタウンをうろついてきました。若かりし(?)頃は、クラブやバーなどと言うものにも足を運んだのは今は昔。最近は、土曜の夜といえばマッタリ過ごすのがお約束となってしまいました。それもこれも週5日の仕事の所為です!さて私が昨夜ダウンタウンを徘徊したのは、クラブで一晩踊り明かそうと思い立ったわけでは当然無く、お腹が減って、しかもどうしても甘いものが食べたい衝動が抑えられず、何か美味しそうなものはないか探すためなのでした。
バンクーバーという街は、大きいようで小さい、都会のようで田舎のような、住みやすいけど刺激に欠ける街です。週末でも、夜10時を過ぎれば、多くのレストラン・カフェも閉まってしまうような、そんな所です。そして私が衝動的に家を出たのは夜10時過ぎ。もう何にも開いてねぇ~。でもきっと歩けば何か甘くて美味しいものに当たるはずだ。そう信じて私は夜のダウンタウンを歩くのでした。
気が付けば、30分は歩いたでしょうか、家から2キロほどのガスタウンと呼ばれる観光名所に来ていました。ここは、バンクーバーの古い町並みが保存され、スチーム時計が有名で、あたりはお土産屋さんばかりという所なのですが、最近はお洒落なバーなんかも出来て、ちょっとした「とれんでー(流行)」スポットになっているのです。さらにこのガスタウンを進むと、バンクーバーで悪名高い「ダウンタウンイーストサイド」という地域に出ます。
(↑有名なガスタウンのスチーム時計)
ダウンタウンイーストサイドは、きっと「地球の歩き方」などのガイドブックを見れば、絶対に夜中に行ってはいけない場所!って言われるような所で、私が20年前に初めてバンクーバーに来た時などは「カナダ唯一のスラム街」とまで言われていました。当時は、薬物依存の人たちがたむろい、下を見れば使用済み注射器だらけ。通りには酒と尿の臭いが立ちこめ、SRO(Single Room Occupancy)と呼ばれる簡易宿所が所狭しと立ち並ぶ雑多な地域で、私もこの地域を通る時は緊張して、鼻から息を吸わないようにして足早に歩いたものでした。
(↑ダウンタウンイーストサイド)
しかしその後、大学のソーシャルワーク(社会福祉)学部で勉強する中で、このダウンタウンイーストサイドで実習をする機会もあり、頻繁にこの地域を訪れるようになりました。確かに、この地域の見た目は「うわ、すご!」って感じで、薬物依存でボロボロに痩せ細った人たちが目もうつろに歩いていたり、叫んでいたりするのを見ると、まるでこの世の現実とは思えない光景でした。でも数ブロック歩けば「あら不思議」綺麗なビルが立ち並ぶ美しいバンクーバーに戻るのです。このギャップが当時私にはとても不快でした。
ダウンタウンイーストサイドで実習してみると、巷で言われているほど危険ではないことに気が付きます。実習を通して、ダウンタウンイーストサイドの住人には、住人たちのサポートコミュニティーが存在していることも分かりました。傍目には無秩序に見える中にも、やはりお互い助け合って生きているのです。キョロキョロせずに、まっすぐ歩いていれば、誰もちょっかいなど出してきません。夜中も実習の帰りなど独りで歩くこともありましたが、特に怖い思いはしませんでした。むしろダウンタウンイーストサイドよりも、バーが立ち並ぶ繁華街の方が、羽目を外した酔っ払いが多くて怖い思いをします。
さて、昨夜はこのダウンタウンイーストサイドまで甘いものを探しにやって来てしまったのですが、20年前と比べるとまったくお洒落な地域に変貌を遂げているのに気づかされます。確かにまだ薬物依存やホームレスの人もいるのですが、その数は激減、さらにたむろっているエリアもかなり限定的になっていました。その代わりに、お洒落なカフェ、レストラン、バー、クラブなどが、かつて簡易宿所だったところに出来ているのです。そして今やこの辺りを我が物顔で闊歩しているのは、薬物依存の人ではなく、身なりの良い若者たちなのでした。
このような低所得者層が住んでいた地域が、いわゆる流行の中心になり、高級化していくことをジェントリフィケーション(Gentrification)と北米では呼ばれています。特にバンクーバーは昨今の不動産バルブで、開発できる所はすでにマンションが建てられ、事業者は次なる開発場所を血眼になって探している最中。そんな中で、不動産業界がダウンダウンイーストサイドに目を付けないわけがありません。そうして、かつて住んでいた低所得者層を押し出す形で、カッコいいマンション、お店、レストランがどんどんと出来上がっていきます。
もちろんバンクーバーに住んでいる者としては、ダウンタウンがどんどん洗練されていくのを見るのは嫌な気はしません。でもソーシャルワーカーとして世界を見るとき、このジェントリフィケーション(Gentrification)には大きな問題が潜んでいることを見逃すことは出来ません。それは、ジェントリフィケーション(Gentrification)によって追い出される社会的弱者の人達の暮らしです。例えば、このジェントリフィケーション(Gentrification)によって地域を追い出された人達はどこへ行くのでしょうか?また、今まであったコミュニティーサポート・「助け合い」の絆を失った彼ら・彼女らは、これからどうやって生きていくのでしょうか?これこそが今バンクーバーが直面している大きな社会問題なのです。綺麗になってゆくダウンタウンイーストサイドの影で、ちりじり・ばらばらにされてしまう社会的弱者の元住人たち・・・その多くはホームレスになってしまうのです。
さて、そんなソーシャルワークな想いにしばし浸っていた私でしたが、そもそもの目的は「甘く美味しいもの」を見つけることだったはず。でもバーしか開いてないこの時間のこの街では、「甘く美味しいもの」を見つけることなど、出来るわけもなかったのでした。結局、ただ夜の街を徘徊しただけで終わってしまった土曜の夜。街の変貌を目の当たりにし、そして美味しいものにも出会えなかったその夜は、裏寂しい、悲しい気持ちで閉じたのでした・・・おまけにお腹も減ったままだしグー(涙)。
(↑のように、ジェントリフィケーションによってお洒落化・高級化が進むダウンタウンイーストサイド)
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