やさしい人に弱いソーシャルワーカー


もうすでに皆さんご存知の通り、うちの病院の腎臓透析の患者さんの多くは、ハンディーダートという乗り合いバスで、週3回病院の透析科と家とを往復しています。そして腎臓ソーシャルワーカーがこのハンディーダートの手配にてんてこ舞いさせられている話も、すでに何回もこのブログで出てきましたね(笑)。



ところが、そんな腎臓透析の患者さんの中には、さまざまな事情でハンディーダートを使えない患者さんもいます。例えば、ストレッチャーでの移動が必要な寝たきりの患者さんや、認知症の患者さん、さらには車椅子から落ちてしまいそうなくらい虚弱な患者さんはハンディーダートを使うことが出来ません。ハンディーダートにはストレッチャーを乗せる設備はないし、認知の患者さんはバス降り場から徘徊してしまいますし、車椅子から落ちそうな患者さんはハンディーダートバス運転手の負担が大きすぎます。それでも透析を受けなければ患者さんは死んでしまうので、ハンディーダートが無理でも、なんとかして病院に送り迎えさせなければなりません。



そこで最終手段として使われるのがSNTとよばれる交通手段です。このSNT、私はいまだに何を略しているのか分からないのですが、形態としては緊急でない救急車のようなものだと考えてください。例えば、ストレッチャーが必要な患者さんには、2人のSNT職員が患者さんを自宅のベットから病院の透析用ベットまで運んでくれます。また認知の人や虚弱な人も、車一台につき最大4名ほど(+2名のSNT職員)で運ばれてきますので、管理がしやすく、また自宅から透析科のベットまで直接運んでもらえるので安心です。

(↑SNTの車たち)

ただこのSNT、お値段が高いんです。片道約5000円。週に3回透析にSNTで通ったら往復1万円x3回x4週で、月に12万円も交通費がかかってしまいます。ハンディーダートが片道250円なので20倍の料金です。当然ながら、ほとんどの患者さんはこのような高額な交通費を払うことは出来ません。そこで腎臓ソーシャルワーカーは、病院内の交通課担当者と交渉し、患者さんにかかるSNT費用を病院負担にしてもらうようお願いすることになるのです。



病院だって余計な財政負担はお断りなので、本当はSNT費用の肩代わりなどしたくないはずです。しかし、公的病院の使命として、そして患者さんの命最優先という倫理に基づいて、渋々ながら「どうしてもハンディーダートが使えない患者さんのみ」という条件で透析患者さんのSNT使用を許可してくれています。どの患者さんがSNT使用にふさわしいかは現場の腎臓ソーシャルワーカーの判断に任せられているのですが、それでも交通課担当者の最終許可がないとSNTの手配は出来ません。ですので、如何に交通課担当者を説得するかが、腎臓ソーシャルワーカーの腕の見せどころなのです。



と言っても実は、許可を得るのはとっても簡単なんです。ハンディーダートの手配の100倍くらい楽なんです。でも・・・それがかえって精神的な苦痛になろうとは、誰が想像したでしょうか?(涙)


え?意味が分からないって?あはは、そうですよね。楽なのに苦痛って。でもその理由は下記を読めばお分かりいただけると思います。



それではこの交通課担当者の名前を仮にLさんとしましょう。彼は、とにかく、とってもフレンドリーで人が好いんです。Lさんは、いつだって腎臓ソーシャルワーカーの味方。いつでもSNT要請を快く許可してくれて、今まで「ダメです」などと拒否したことは一度もありません。そんな訳で、ちょっと患者さんがハンディーダートで問題があったらお気軽にLさんに連絡してSNTの許可を貰っていたんです・・・が、最近ちょっと雲行きが怪しくなってきたのです。ここんとこ、あきらかにLさんの声に元気がないのです。とくに腎臓ソーシャルワーカーが患者さんの長期のSNT利用を要請する時などは、「うっ」と詰まるような、変な間があるのです。先週などは、「う~ん、その患者さんて、どうしてもハンディーダート使えないのかな~?とりあえず、3週間SNT使ってみて、それからまた状況教えてくれませんか?」と、昔なら二つ返事でOKだったはずの要請が・・・渋られてしまったのです。ショーック!



私が推測するところによれば、おそらく病院側からの交通課への予算がけっこう減らされたか、もしくは減らすように厳命されたんじゃないかと思うのです。それで今までなら明るくオッケー!だったのが、「3週間ではダメですか?」に変わってしまったのです。そんな事情が分かると、これまで通りお気楽にSNT許可を頼むのも申し訳なくなります。でも患者さんのために要請しないわけにはいかないので、またLさんに電話をかけることになるのです。Lさんは「う~ん」と言いながらも、結局は腎臓ソーシャルワーカーの言いなり(?)になって許可してくれるのです。こんなことが続くと、なんだかまるで自分たちソーシャルワーカーが人の好いLさんを困らせているような錯覚に陥ってしまうのです・・・って実際困らせてるけど。



一応・・・ではなく、絶対に患者さんのために必要だからこそ腎臓ソーシャルワーカーもSNT使用許可を要請しているんですが、Lさんの明らかに困った声音を聞くと、まるでNoと言えない友達に返す当てのない借金を頼んでいるような気持ちになるのです。これが無愛想なおじさんや、意地悪なおばちゃんが担当者だったら、こっちも正義の仮面をかぶって戦闘モードになって「なんでもいいから許可しろぉー!」ってな感じでガガガーと気持ちよく交渉(?)できるのですが、しかし、これが最後は必ずYESと言ってしまう、やさしく人の好いLさんだと:


「あ、あの・・・ほんと申し訳ないんですけど、これそれの事情で、どーしてもこの患者さんハンディーダート使えないんですよ。これウソじゃないんです、信じてください。それであの、相談なんですが、ちょっとでもいいのでSNT使用の許可出してくれませんかね?いいんですか?いやほんとスミマセン」


って、やっぱり借金申し込んでるみたいになるんです。そのあとLさんが:


「それは患者さんも困りましたね・・・う~ん、はい、分かりました。許可します」


と言ってくれるのですが、「ハァー」と心の中でLさんが付くため息がなぜか聞こえてきて、一気に私の気分も暗く、苦しくなるのです。



いっそのことLさんも「ダメです、許可できません!」って言ってくれれば、こんなに苦しまなくても済むのになぁー・・・などと意味不明なことまでつい考えてしまう今日この頃。今週も、3人の患者さんのSNT使用許可をLさんに頼まないといけないかと思うと、気が重い。だれかもっと意地悪な人に担当者を変えて欲しいと真剣に思うのでした。


P.S ちなみに私は、友人に借金など頼んだことありませんよ、念のため(笑)

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