医療ソーシャルワーカーと書類業務


ペーパーレスが進んでいるこの時代に、医療ソーシャルワーカーのデスクは常に書類で埋め尽くされています。私の同僚などは、書類の山がもうすでにパソコン画面の半分くらいにまで達しそうで、さしずめ噴火で広がる西ノ島のごとく、日々書類が横にも縦にも広がっているのでした。私はそこまでズボラではないので、とりあえず終わった書類は捨てるようにしているのですが、それでも油断をするとすぐにデスクは書類で埋め尽くされます。


(質問)一体なぜ、医療ソーシャルワーカーのデスクは書類で一杯なんですか?

(回答)はい、それは書類業務が多いからなんですよ。


(質問)一体なんの書類を医療ソーシャルワーカーは書くんですか?

(回答)よく聞いてくれました。いっぱいあるんですよ、これが・・・


医療ソーシャルワーカーの仕事をする前は、医療ソーシャルワーカーの業務に「書く」という作業がこんなに多いとは思いませんでした。どちらかと言えば、「聞く」「話す」商売だと思っていたのに、ふたを開けてみれば大半の時間は何らかの「書き」仕事に追われています。いつもは無意識に淡々と書類を書いていることもあって、実際どんな書類に時間を費やしているのかさえも分からなくなってしまいます。ですので今回は、この機会に、改めて医療ソーシャルワーカーがどんな書類業務を行っているのかご紹介したいと思います。



まずは、ハンディーダート乗り合いバスの書類(また出た!ハンディーダート!)。そうです、腎臓ソーシャルワーカーはハンディーダート(乗り合いバス手配)業務から逃れられないのです、たとえそれが書類業務であっても・・・

新患さんには、ハンディーダートの登録書類のお手伝いをし(って言っても、患者さんはサインするだけで、あとはぜ~んぶソーシャルワーカーが書く)、さらにバス手配のために、患者さん透析スケジュール情報も書いてハンディーダートにファックスします。患者さんのスケジュールが変わるたびに、書類を書き直してハンディーダートにファックスしなければいけません。毎週担当の120名の患者さんの何人か(時には何十人)が透析スケジュールを変更するので、このファックスする書類も結構な量になるのです。


どうしてメールで出来ないの?


と思いますよね!私も思います。でもこれが出来ないんです。まず第一に、うちの病院の規則で、患者さんの名前や個人情報はメールで外に送ってはいけない決まりになっているのです。セキュリティー管理と患者情報漏えい防止の一環らしいですよ。じゃーファックスなら安全なのか?・・・って疑問はどうか持たないでください。そして第二に、ハンディーダートはそもそもメールでの受付をしていません。以上(笑)



障害手当ての申請に関わる書類も、医療ソーシャルワーカーが書かなければいけないものの一つです。障害手当ての申請書は、患者さんが書く項が10ページ、医師が書く項が10ページ、ソーシャルワーカーが書く項が10ページ、あわせて30ページもある大作です。大概は、患者さんの欄もソーシャルワーカーが書くことになるので、そうなると20ページは書類を書くことになります。また申請書はコピーを取って、申請が認められるまで念のため保管します。そうなるとすでにデスクには30ページx2冊の書類が積み重なっている状態になります。さらに忙しい時だと、3人の患者さん同時進行で障害手当て申請をすることもあり、そうなると30ページx3人x2コピーで合計180ページもの書類がデスクの上に散らばることになるのです。おまけに合計60ページもの書類をソーシャルワーカーは書く羽目になるのです(涙)。


でも、まだまだこんなんじゃ書類地獄は終わりません。


患者さんのために、入院証明書や嘆願書を書くのも医療ソーシャルワーカーの仕事です。例えば、突然の入院で仕事を休まなければならない、学校を休まなければならない、旅行をキャンセルしなければいけない、そんな患者さんのために「病気のためお休みさせてあげてください」の手紙や、「どうか旅行代金の返還をお願いいたします」の手紙を書きます。また患者さんをお見舞いしたいという海外在住の家族には、カナダの渡航ビザを出してもらうよう嘆願書を移民局に書くのも医療ソーシャルワーカーのする書類業務の一つです。その他にも、各種保険・障害手当てに必要な診断書や申込書を書く作業も医療ソーシャルワーカーが行います。だいたい、これらの書類はそもそも医師が書くことになっているのですが、医師は忙しく、また医師が書類を書くのを待っていたら、いつまでも経っても書類が出来上がりません。そういう訳で、複雑な医療書類で無い限りは、医療ソーシャルワーカーがカルテを見ながら書類を作り、医師に確認とサインをもらい、患者さんに書類を渡すというのが暗黙の了解になっています。ただし医師によってはこれに味を占め、医療ソーシャルワーカーを秘書代わりに使うような人もいるので、なんでもやっちゃわないようにするのも大切で、そのバランスを取るのが・・・なかなか難しいんだな~。



この他の書類業務に、Home Health(地域支援センター・保健所)へ患者さんへのサービス要請書を送ったり、車椅子や歩行器の手配要請書を医療機器サービス機関に送ったり、管轄外の保険局に患者さんの申し送り書類を送ったりと、書類を書いて送る作業がいっぱいあります。こういう事こそなぜオンラインで出来ないの???と思ってしまいます。これらのペーパー書類作業に加えて、一件一件患者さんのケースについても電子カルテに書かなければなりません。これはオンライン作業ですが、「書き業務」であることには変わりません。これがまた、結構時間がかかるんだな。おまけにその後、統計作業と呼ばれる、その日何人の患者さんにどんな用件のケースを扱ったかを数値化する作業もあったりして、「あ~めんどくせ~」ってなります。



最後に、これは手作業でなければいけない「書き業務」に、お悔やみの手紙があります。腎臓透析科では毎年50人ほど患者さんが亡くなられます。その患者さんたちのご家族にお悔やみの手紙を書くのも医療ソーシャルワーカーの仕事です。この作業は大変ですが、数年間苦楽を共にしてきた患者さんが亡くなった悲しみに区切りをつけるという点で、私たちにとっては大切な作業です。



さてこのように医療ソーシャルワーカーは様々な書類業務に追われます。ともすれば、患者さんの相談にのる時間も書類業務のために削られてしまいかねません。そうならない為に、医療ソーシャルワーカーは、色々な用途に使えるテンプレートを日々の業務の中で作り貯め、書類作成にかかる時間を少しでも減らそうと工夫しています。この点においては、経験を積めば積むほど、書類のテンプレートも増えていくので、ソーシャルワーク業務が効率よく進むということになります。ですのでベテラン医療ソーシャルワーカーほど、患者さんと接する時間が作れるようになるのです。


ちなみに私は、まだまだ書類作りに追われている中堅だけど新人に近い医療ソーシャルワーカーですよ(笑)

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