カンファレンスでの医療ソーシャルワーカーの役割とは?
カンファレンス(英語ではPatient Rounds/Multidisciplinary Rounds)とは、医療ソーシャルワーカーにとって医療チームにおける自分の立ち位置を知る一番の機会と言えるでしょう。カンファレンスで、どれだけチームに自分の声を聞いてもらえるかは、どれだけチームに自分の専門性を認めて・理解してもらえているかの判断基準になるからです。ではそもそもカンファレンスとはどういったものなのでしょうか?
私が勤める腎臓透析科では、毎週水曜日にチームカンファレンスがあります。腎臓透析科のカンファレンスでは、腎臓医、看護師長、薬剤師、栄養士、そして医療ソーシャルワーカーが参加して、患者さんのケアについて話し合います。約250人ほどいる透析患者さんの内、まずは入院している患者さんの容態・ケアプランについて話し合います。例えば今週だと、約20名ほどの透析患者さん(新患を含む)が入院されていて、心臓の手術や、動脈閉塞性疾患による両足の切断、急性腎不全など、腎臓病に関連する様々な病状で入院されています。
入院患者さんのケアは基本的に病棟チームが行うので、腎臓科チームが直接関わることはないのですが、多くの患者さんの病状および社会背景を熟知している腎臓科チームなので、このカンファレンスの情報を基に、それぞれの専門要員が病棟チームと情報共有して患者さんへのケアを潤滑に行っています。例えば腎臓ソーシャルワーカーは、病棟のソーシャルワーカーに患者さんの家族構成や住宅環境などの情報を共有することによって、病棟ソーシャルワーカーが効率よく患者さんの退院プランを立てられるように協力するのです。
また腎臓透析科のカンファレンスでは、毎回3~5人ほど外来患者のケースを選んで、医師、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーのそれぞれの観点から、患者さんに関わる問題を共有し、全体としてのケアプランを話し合います。例えば、薬物依存で透析治療をよくサボってしまう患者さんのケースでは、医師は患者さんの予後(このまま透析をサボり続けるとどのような病状に陥っていくか)をチームに説明し、薬剤師にはメサドンのような依存症に対処する薬の相談をし、栄養士は患者さんの栄養状態の悪さを報告し、看護師長は患者さんの意識障害の情報を共有します。これにより参加者全員が患者さんの全体的な問題を見ることが出来るのです。そしてこのケースでは、医師はソーシャルワーカーに患者さんの家族構成・住宅環境・薬物依存暦などを聞き、どのように患者さんを説得して透析に来てもらうかを相談します。ソーシャルワーカーは専門性を生かした意見を述べつつ、チームにもどうするのがいいか疑問を投げかけます。こうすることにより、チームが一体となって患者のケアについて専門性を超えて意見交換することができるのです。
これは私が理想とするチームカンファレンスの一例です。毎回このようにカンファレンスが進むわけではなく、どちらかと言えば、医師と看護師長中心のカンファレンスになるのが通例です。また医療チームによってカンファレンスのスタイル・雰囲気はまった違います。私が大学院の実習を行った血液内科・造血細胞移植科では、カンファレンスは医師による患者の容態に関する医学的説明が延々と続くだけで、他の参加者(看護師長、作業療法士、理学療法士、ソーシャルワーカー)はただ黙って聞いているだけというスタイルでした。それに対して精神科の毎日のカンファレンスでは、ソーシャルワーカーが一人一人の入院患者さんの社会背景を説明させられたり、退院プランの進捗状況を発表させられたりして、チームカンファレンスの中心に立つことも頻繁にありました。
このように医療チームによってカンファレンスの雰囲気は違うのですが、私の経験では、ソーシャルワーカーが気軽に意見を言えるようなカンファレンスを行っているチームは、必ずと言っていいほどチームもまとまっていて、結果的に患者さんへのケアの質も高くなります。逆に、ソーシャルワーカーが意見を言いにくいような、言っても黙殺されてしまうようなカンファレンスを行っているチームは、権威・封建的で、患者さんよりも医療従事者中心に物事が進むため、患者さんへのケアの質・満足度も低くなる傾向にあります。またこのようなチームでは、職員同士の関係もギクシャクすることが多く、うまく情報共有することも出来ません。結果、医療ソーシャルワーカーも仕事がやりにくく、仕事へのやる気を維持し、達成感を得ることが、かなり難しくなります。少なくとも私がそのようなチームにいた時は、カンファレンスに出る度に、自分の存在価値がないような気持ちにさせられて、かなり労働意欲・・・というか医療ソーシャルワーカーとしての自信と誇りを失いそうになりました。
医療ソーシャルワーカーという仕事を楽しむためには、封建的なチームを避けるというのも一つの手です。私もそういうチームは出来る限り避けてきました。ただ、チームの雰囲気というのは変えることも出来ます。私が尊敬するベテランソーシャルワーカーの中には、自分の力で封建的だった医療チームの雰囲気を、参加者全員が気軽に意見を言える雰囲気へと変えた達人もいるのです。何度意見を黙殺されてもめげず、患者さんの声を届け続け、また医師や看護師長、チームメンバーとさりげない日常会話、ちょっとした冗談、また患者さんに関する相談をマメに行い、柔らかい関係を築き、少しづつ少しづつ努力してチームの雰囲気を変えていく。そうして気が付くと、そんなソーシャルワーカーがカンファレンスで補佐役的な立場に立っていた。そんな達人ソーシャルワーカーを何人も私は見てきました。そしてそんなソーシャルワーカーがいるチームは、一概に和気あいあいとした雰囲気で、参加者全員がまるでカンファレンスの時間を楽しんでいるかのようにまで見えるのです。これぞ私の理想のソーシャルワーカーの姿!理想のチームなのです!
しかし私はまだまだ未熟者。自分の意見が黙殺されたらすぐに凹んで寝込んでしまいます。幸いなことに今の腎臓透析のチームは、ほど良いくらいにまとまっていて、でもちょっとだけまだ封建的です。つまり私がベテランソーシャルワーカーのように、チームの雰囲気を変える兆戦をしてみるにはちょうどお手ごろな感じのチームなのです。ということで、これからも少しづつチャンスを作っては、カンファレンスで「患者さんケアに役立つ医療ソーシャルワーカーが教える10のコツ」のようなものを披露し、チーム内でのソーシャルワーカーの地位をあげ、いつか影のリーダーになってやるんだ!と密かに目論む中堅ソーシャルワーカーなのであった・・・つづく。
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