ディブリーフィング① その大切さ
日々病気に苦しむ患者さんのケアをする中で、医療ソーシャルワーカーを含め医療従事者は、時に患者さんやご家族からの厳しい言葉、不条理な態度に傷つけられ、人手不足の中で積み重なる責任の重さに押しつぶされそうになり、また過重労働で肉体的にも精神的にも疲弊したりと、いわゆる「燃え尽き症候群」(英語ではBurnout)のリスクが殊の外高い環境下で働いています。さらに医療業界には「医療従事者は常に冷静沈着でいなければいけない!弱音は吐いてはいけない!」という文化が根強く存在していて、この文化がさらに医療従事者の「燃え尽きリスク」を助長しているように思えます。
でも医療従事者だって人の子ですから、悲しい時もあればムカつく時もあり、また元気が出ない時や疲れを感じる時だってあります。しかし私が医療現場で働いてきて気がついたのは、多くの医療従事者には、仕事場や私生活における悩みや苦しみを吐き出す場が医療現場にはまったくないということ。すなわち、職場内でディブリーフィングをする機会が圧倒的に不足しているという現実なのです。
ディブリーフィングは、ソーシャルワーカーが大学教育、実習、実務経験を通して学ぶ重要なスキルの一つです。これはソーシャルワーカー達が「燃え尽きてしまう」のを予防する上で重要な役割を果たします。ではそもそもディブリーフィングとはなんなのでしょう?
ソーシャルワーカーにとってのディブリーフィングとは、自分の関わったケースを仲間(同僚)と共有して、サポートしてもらうこと。それでは具体的な例を、私の独断と偏見に基づいた「ディブリーフィング7つの効果」から見ていきましょう(笑)。
1.心のモヤモヤを理解する
医療ソーシャルワーカーの扱うケースに「OOすれば患者さんの問題も簡単解決!」などというものは圧倒的に少なく、多くは「ホントどうしたらいいんでしょうね~」と患者さんと一緒に悩むしかないようなものばかりです。そういうスッキリしないケースを言葉に出して語ることで、自分の中で“どんよりモヤモヤ”していたものが何だったのかを理解することが出来るのです。
2.心のモヤモヤを和らげる
スッキリ解決できなかった、わだかまりが残ったケースを仲間(同僚)に話すと、あら不思議、「それ私のケースに似てるわ」とか「俺、今その状態」とかいった様な共感が皆から返ってくるではないですか!そりゃそーですよ、だってスッキリ解決できないケースを抱えるのは、ソーシャルワーカー共通の普遍のチャレンジなんですから。こうして、みんなも同じようなケースを抱えてるんだと知ることは、心のもやもやを和らげてくれます。
3.自信を取り戻す
みんなも自分と同じようなケースに悩まされているんだ!と気づくことは、ケースがスッキリ解決できなかった原因は、必ずしも自分の力不足だけにあった訳ではなかったんだ!と言うことへの気づきにもなります。この気づきと仲間からの共感は、ソーシャルワーカーが自己疑心に陥るのを防いでくれ、また自分が取り組んできた仕事を肯定・正当化してくれるので、失いそうになった自信を取り戻させてくれます。
4.心を落ち着かせる
関わったケースによっては、心が大きく乱されることもあります。例えば、患者さんに不当に怒鳴られて怖い思いをしたり、患者さんの家族にネチネチ文句をつけられて腹が立ったり、大好きだった患者さんが突然亡くなられて悲しく泣きたかったり。こんな風に心が乱れてる時に患者さんの相談業務にのるのは簡単ではありません。酷いときには声や手が震えて、患者さんの話に集中することも出来ません。こんな時、自分がケースで感じたこと・思ったことを信頼できる仲間(同僚)に打ち明け、理解してもらい、共感してもらうことで、心を落ち着かせることができます。そうして患者さんとの相談業務にも戻ることが出来るのです。
5.アイデアを拾う
ディブリーフィングは自分では気がつかなかったアイデアを拾う良いチャンスです。仲間(同僚)にケースで直面した問題を話すことで、仲間それぞれが持っているアイデアを持ち寄って「どうすれば上手く解決できるのか」を話し合ってくれるからです。そんな話し合いの中から、こんな事も、あんな事も出切るんだぁ~、と目からウロコの瞬間もしょっちゅう生まれます。特に新人だった頃の私は、ベテランソーシャルワーカーと頻繁にディブリーフィングをやって、使える社会資源や技なんかを先輩達から「盗み」ました。
6.チームワークを強める
ケースを通して、自分が直面した問題、悩み、感情を仲間(同僚)と共有することで、仲間と一体感を強めることが出来ます。それはお互いにお互いが同じ仕事をする者として共感することが出来るからです。そして、問題を共有することによって信頼感も生まれます。このような理由から、私の経験では、ディブリーフィーングを頻繁に行うチームほど、その結束力は強いと言えます。
7.仕事の問題を家に持ち込まないで済む
職場で生じた心のモヤモヤ&イライラほど家に持ち帰りたくない物はありません。もしそんな心のモヤモヤ&イライラを家に持ち帰ってしまったら、今度はそれが引き金となって家族関係にも悪影響を及ぼし、そのせいで次の日は職場でますますイライラする・・・なんていう負のスパイラルに陥りかねません・・・恐らく皆さんも経験あるはず。職場の仲間(同僚)とディブリーフィングすることで、仕事上の問題は職場でスッキリと置いていく事が出来ます。だって家族や友人には、守秘義務があるからあまりケースの話は出来ませんしね~。
このように、ディブリーフィングとはソーシャルワーカーに知恵と自信と平穏をもたらしてくれるものなのです。ディブリーフィングをするからこそ、患者さんが抱える精神的にもシンドイ難問の数々に、ソーシャルワーカーは日々、燃え尽きずに対処・対応することが出来るのです。逆に言えば、もしディブリーフィングできる環境が無ければ、そのソーシャルワーカーは自分に圧し掛かる責任や感情をすべて自分一人で処理しなければなりません。毎日溜まり続ける心のモヤモヤはどこかで解消しなければ、いつか必ずそのモヤモヤに飲み込まれて、いずれ自信を喪失し、燃え尽きてしまうでしょう。これこそが人を助ける仕事をする者にとっての最大のリスクなのです。おぼれる人を助けるには、まず自分の安全を確保しないと、2人とも溺れてしまいます。つまりディブリーフィングとは私にとってソーシャルワークをする上での命綱なのです!
・・・という風に、医療従事者におけるディブリーフィングの大切さを熱く語ってみたのですが、では実際どういう風にディブリーフィングをするのか?という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。それは次回「ディブリーフィング② その使い方」にて、私の職場でのディブリーフィング例を使ってお話してみようと思います。つづく
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