ディブリーフィング② その使い方
私は現在、一つの事務所を私を含め4人の医療ソーシャルワーカーと共有しています。この事務所、そんなに大きくないので4人一斉に電話をしたものなら、うるさくて何にも聞こえなくなります。窓も無い部屋なので息苦しさを覚える時もしょっちゅうです。でも利点もあります。それは「いつでもどこでも誰とでも、好きなときにディブリーフィングが出来る!」こと。ちょっと難しいケースを抱えて解決方法を教えて欲しい時、患者さんの態度にムカついた感情を誰かに聞いて欲しい時、私生活の悩みを打ち明けて仕事に集中したい時など、3人同僚がいれば誰かは私の話を聞いてくれます。また複雑なケースを抱えた時、泣きたいほど腹が立った時、面白そうな他人の噂話を聞いた時などは3人全員がわざわざ私とディブリーフィングをしてくれるのです。こんなに恵まれた環境は、医療ソーシャルワーカーの仕事多しと、そう簡単に見つかるものではありません。そして恐らくこれが私が腎臓ソーシャルワークを長くやってこれた理由の一つであることは間違いありません。
さて、ここ「ソーシャルワーカーの部屋(事務所)」では毎日何十件ものディブリーフィングが行われています。折角ですので実際どのように私たちがディブリーフィングをしているのかを、具体的なケースで挙げて見てみましょう。
ケース1:薬物依存だった患者さんが自宅で亡くなった
これは私の同僚のRさんが担当したケースで、薬物依存を患っていたシングルマザーの患者さんが、透析後自宅で死亡しているのが発見されました。どうやら自殺だったらしく、彼女を発見したのは彼女の12歳の息子でした。先日この患者さんを励ましたばかりのRさんはショックで落ち込んでいます。
(ディブリーフィング)
Rさん以外の私たち同僚3人はまずRさんの心理サポートをしました。Rさんがどのような気持ちになったのか、どのような思いを持っているのかをじっくり聞きます。するとRさんは自分がもっとサポートしてればこんな事にならなかったのではないか?という自責の念に苛まれていることが分かりました。そこで私たち3人はRさんの責任ではないこと、Rさんは出来るだけの事をしたこと、患者さんはRさんのサポートに感謝していた事実を何度も何度も強調し、Rさんの気分が少しでも救われる方法を話し合いました。その結果、Rさんはこの患者さんのお葬式に参加することを決断し、そこで児童保護ソーシャルワーカーとも話す機会があり、この患者さんに関わったすべての人たちが後悔の念を抱いてることを知って、ちょっとだけ心の重石が軽くなったと後で私たちに話してくれました。
ケース2:もう私たちに関わらないで!と患者さんの家族に言われた
私が担当していた患者さんが危篤状態となり、透析治療を辞めるかどうかの医療カンファランスを開く準備をしました。この患者さんとは長らく関わってきて彼女の人柄も良く知っていたので、私も出来るだけ彼女の役に立ちたいと思っていたのですが、カンファランス直前、ドクターからソーシャルワーカーはカンファランスに来ないで欲しいと言われてしまったのです。ドクターによるとこれは患者さんのお兄さんからの要請だと言われました。
(ディブリーフィング)
私の青ざめた顔(真っ赤だったかも・・・)を見て、私の3人の同僚がどうしたの?と声を掛けてくれました。同僚達は私の話を聞くと「う~ん?なんでその患者さんのお兄さんはソーシャルワーカーにカンファランスに参加して欲しくないんだろうね?」という点について話し合いを始めました。そこで私は、患者さんの恋人とお兄さんとは仲が悪く、患者さんの治療方針をお兄さんはその恋人に決めて欲しくないと思っているという話をしました。そこから同僚達は、「そうか!それでお兄さんはソーシャルワーカーが恋人の味方をするんじゃないかと疑って、あなたをカンファランスから締め出したんだ。」と結論付けました。なるほどね~、そうだったのか!と私も目からウロコ、同僚のお陰で事情が掴めました。
すると同僚の一人が「そうだとしても、それでソーシャルワーカーをカンファランスから締め出すことに同意したドクターもおかしくない?」と言いました。その時、それだ!と私は私の心の中にドヨ~ンとわだかまっていたものの正体に気が付いたのです。私は患者さんの家族にカンファランスから締め出されたことよりも、医療チームにソーシャルワーカーはカンファランスに来なくてもいいよと決められた事にショックと腹立たしさを感じてたのだと分かったのです。そしてチームから裏切られたような、見捨てられたような悲しい気持ちになりました。そんな気持ちを察したのか、私の同僚達は「でも、あなたと患者さんは良い絆を築けていたんだから、きっとカンファランスの準備をしてくれたことや、今までのあなたの仕事、すごい感謝しているはずだよ。」と言ってくれて、私はずいぶん慰められたのでした。
ケース3:朝から夫と喧嘩した!
同僚の一人Tさんは去年産休から仕事に復帰しました。そのTさん、なんと泣きながら出勤してきたのです。まずは同僚全員で事務所のドアを閉めてプライバシーを確保。そしてティシュをTさんに渡して落ち着くのを待ちました。Tさんは涙を拭うと、朝から夫と喧嘩をしたことを話し始めました。いつも子供の世話をしてくれるTさんのお母さんが一昨日からインフルエンザにかかってしまい、子供の世話をしてくれる人がいません。一昨日、昨日とTさんが仕事を休んで子供の世話をしたのですが、今日は溜まった仕事も整理しないといけないので、夫に仕事を休んで子供の世話をしてくれるよう頼みました。しかし夫は「俺、今重要な案件に関わってるから仕事なんて休めるわけないじゃん!」と言い放ったのです。それで「じゃー私の仕事は重要じゃないって言うの!?だいたい、いつも休むのは私で、あなたは一度だって仕事を休んで子供の世話したこと無いじゃない!あなたって全然子育てに協力しないわよね!」と、売り言葉に買い言葉、大喧嘩してしまったのです。結局夫は仕事を休んで子供の世話をすることになったのですが、口を利いてくれないとTさんは愚痴りました。
(ディブリーフィング)
なんだ朝から痴話喧嘩か、勝手にすれば?・・・なんて冷たいことは私たちソーシャルワーカーは思いません(とは言い切れないけど)。だって朝から家族と喧嘩して嫌な気分になったら、そのあと患者さんと相談業務をしても、気分が悪くなることはあっても良くなることは無いからです。おまけにソーシャルワーカーの仕事は「共感」すること、感情を使うのでなおさら心の平穏は大切です。そんな訳で、私たち同僚はとにかくTさんの気持ちを理解してあげ、どうすればTさんの気持ちが落ち着くかに焦点をおいて話を聞いたのでした。そして最後はみんなでコーヒー・お茶を飲んで一息ついて、気持ちへのメリハリをつけます。こうして朝のイライラを聞いてもらったTさんは気分を切り替えて仕事を始めることが出来ました。
・・・とこんな風に、私の在籍する「ソーシャルワーカーの部屋(事務所)」ではディブリーフィングをしているのです。え!?な~んだ、ディブリーフィングって単なるおしゃべりのことなのねっと思ったあなた!それは違わないようで違います(どっちだよ!?)。ソーシャルワーカーが行うディブリーフィングには、話し手に「自己肯定させる」という大切な最終目的があり、それを達成するために聞き手は様々なスキルや技を使い慎重に会話をリードしなければいけないのです。なぜなら、デブリーフィングには利点ばかりではなくリスクも存在するからです。それでは、ディブリーフィングにはどのようなスキル・技が必要で、どんな副作用(リスク)があるのでしょうか?それは次回の「ディブリーフィング③ 失敗から学ぶリスク」でお話したいと思います。と言うのも、私、先日ディブリーフィングで大失敗をやらかし、改めて中途半端なディブリーフィングが及ぼす害・怖さを身をもって知ったからです。ついでに私はこの件で結構凹んだので、その後、同僚達と30分以上もディブリーフィングについてのディブリーフィングをしなければいけませんでした(涙)。まぁとにかく私は皆様に、ディブリーフィングがその辺のおばちゃんたちの立ち話とは(ちょっとだけ)ちが~う!!って事を理解して頂きたいのです!!!!!!笑
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