ディブリーフィング③ そのリスク(私の大失敗から学ぶ)
透析科部長の厳命により、私は先週から腎臓透析科の看護師たちのディブリーフィングを毎週3日30分ずつ担当するようになりました。
なぜソーシャルワーカーが看護師のディブリーフィングをするの???
そうですよね、そう疑問持ちますよね。私も最初はなぜ???と思ったのですが、これには深~い訳があるのです。
現在この透析科には「重度」の境界性人格障害を患っている患者さんがいます。またいつか詳しく境界性人格障害については書きたいと思うのですが、境界性人格障害の患者さんとの相談業務はソーシャルワーカーにとって最も困難な仕事であると言い切れます!また同時に、ソーシャルワーカーの絶対負けないぞ!というチャレンジ精神を触発させてくれる患者さん達でもあります。境界性人格障害を持つ患者さんを一言でまとめれば、衝動的、好戦的、操作的という言葉で表すことができます。特徴としては、とにかく他人を自分のコントロール下に置くことに全神経を使い、そのためには様々な手段(例えば:甘え、恫喝、尊敬、脅迫、操作)を使いこなします。もちろん本人も好きでやっているわけではなく、それなりの理由があるのですが・・・しかしそんな彼ら・彼女らに振り回される周りの人達はたまったものではありません。医療従事者を精神的にグッタリと疲弊させてしまうのが境界性人格障害の患者さんの特徴なのです。
さてうちの透析科にいる患者さんJさんは、私が今まで会ってきた境界性人格障害の患者さんの中でも超(スーパー)の称号がつくほど重症で、私も彼に自己紹介して6分後には「てめぇーの顔なんか見たくもね~んだよ!あっちいけぇー!!!」と怒鳴られ、退散させられてしまいました。最初の5分間彼はすっごい(不快になるほど)愛想が良かったのに、私が「透析科でのルール」を説明しようとした瞬間ぶち切れてしまいました(・・・これも彼がルールに従わないために使った恫喝という技なんだけどね)。こんな難しい患者さんなので、透析科の看護師はみんなJさんに泣かされています。最初はJさんも愛想が良くて「な~んだ、楽勝じゃん!」って思ってた看護師達も、一度でもJさんの不当な要求を拒んだら「おめーみてーな下手糞な看護師は、俺に透析なんかすんなよ!」と怒鳴られ、看護師チェンジを要求されてしまうのです。そんなJさんと口論する気の強い看護師もいるのですが、口論などしたらそれこそ彼の思う壺で、ボロクソに言われて自己否定に陥る看護師も多数。しかしだからと言ってJさんの不当な要求を飲み続けたら仕事になりません。そんな訳で、Jさんを避けたい看護師達は、Jさんの透析日には一斉に病欠を取るようになったのです。
こんな事態に頭を抱えた透析部長、とうとう「なんでも相談業務」のプロであるソーシャルワーカーに助けを求めたのです。医療ソーシャルワーカーの地位を高めるチャンスとばかりに、私は張り切って、境界性人格障害の患者さんと渡り合うには看護師同士のディブリーフィングが絶対必要だと熱弁しました。なぜならディブリーフィングすることで:
• 看護師全員が足並みを揃えられ、不当要求を企むJさんの看護師操作を予防できる
• 恫喝や恐喝で味わった恐怖を共有することで仲間からのサポートを得られる
• Jさんの人格障害による言動を変えることは出来ないと悟れる
• しかし、看護師自らの感情反応はコントロールする事ができると分かる
• 感情のコントロールの仕方を仲間と一緒に学べる
• 問題を共有することでチームワークが強化される
と言う感じで、私は看護師にディブリーフィングの機会を与えるよう、透析部長に強くお勧めしたのです。そもそも、看護師って休憩室で噂話はするけど、きちんとしたディブリーフィングをしているとこ私は今まで見たこと無かったんです。でもチームの一員として働く中で、看護師が常日頃大きなストレスと直面していて、とくに感情的に苦しんでいることは知っていたので、これはディブリーフィングを正式導入する良いチャンスだと私は思ったのです。透析部長も私のアドバイスに大いに乗り気になったみたいで、「そうね!それがいいいわ!じゃーあなたたちソーシャルワーカーがJさんが透析する月水金の週三回、看護師たちの話を聞いてあげて頂戴ね~」ってなったのです・・・あれ!?でもこれって私たちの業務なの???
変なことアドバイスすんなよ!仕事増やすなよ!って同僚のソーシャルワーカー達から睨まれたので、私が率先して看護師ディブリーフィングをすることになりました。でも透析チームの役にも立つんだし、医療ソーシャルワーカーの地位向上にも役立つんだからいいじゃん・・・ってちょっとムッとしながらやったディブリーフィングWITH看護師。ところがこれが大変な事態になってしまいました(汗)。
最初私は、てっきりその日Jさんを担当した看護師だけにディブリーフィングをするもんだと思って準備していたのですが、なんと透析部長はその日の看護師全員を集めてグループでディブリーフィングしますと宣言したのでした。それもナースステーションの前で!患者さんも職員もひっきりなしに通る雑多なナースステーションで、12人以上の看護師を集めてディブリーフィング・・・なんて上手くできるわけないだろぉー!と心の中で私は叫んだのですが、すでに時遅し、ディブリーフィングは始まってしまいました。とりあえずディブリーフィングのまとめ役として、「このディブリーフィングの目的は、どうやってJさんの言動を変えるかではなく、私たち一人一人がどうやってJさんの言動に自分たちの感情を左右されないようにするか、そしてJさんの言動によって影響を受けてしまった心の傷をみんなと共有することで癒し、仕事が終わった後、Jさんの言動によってイライラ・モヤモヤした気持ちを家に持って帰らないようにする事です」と私は説明しました。
でも、12人以上もいる看護師が、一斉にJさんからどんな酷いことを言われたか、どんなに傷ついたか、どんな怖い思いをしたかを共有し始めたら、怒りと恐怖があっという間にこのグループ全体を支配してしまい、私一人ではどうにもコントロール出来なくなってしまったのです。そしてその結果、看護師全体のムードが「もうこんな仕事続けてられない!」「Jさんをこの透析科から追い出して!」「看護師や部長がしっかりしないからJさんの言動が助長するんだ」とどんどん負の方向に進み、自分の感情を見つめるという本来の目的から、誰かが責任を取ってJさんの言動を止めさせろ!っという怒りに支配された解決不可能な方向へと進んでしまったのです。さらに、そこに透析部長も参加してそんな看護師たちに応戦するので、これはもうディブリーフィングではなく、唯の議論です。私は困り果てました・・・
そもそもこのような大きなグループでディブリーフィングをする際には、1)プライベートな静かな空間、2)事前の目的確認、3)グループルールの設定、4)グループをリードするファシリテーター(facilitator)の擁立、5)十分な時間、といった全ての条件が揃わなければ、効果が出ないどころか、逆に↑のように混乱と害をもたらしてしまうのです。今回のケースでは、まずディブリーフィングの場所と人数が適当でなく、透析部長が登場したことで誰がリード役なのかぼやけてしまい、おまけに15分程度しか時間が取れなかったという最悪の条件下で、最悪の結果が出てしまったという感じです。
これには私にも責任があります。中途半端なディブリーフィングがもたらすリスクを知っておきながら、透析部長の命令通りにディブリーフィングを行ってしまったことがそもそもの間違いでした。感情を共有すると言うことは、負のエネルギーを集めること。これをコントロール出来ないファシリテーターは失格です。なぜならディブリーフィングは集めた負のエネルギーを正(前向き)のエネルギーへと変え、参加者全員が自己肯定できるようにするのが目的だからです。そのため参加者同士に負の感情・体験を共有させながら、その中からなポジティブなものを引き出させるのがファシリテーターの腕の見せ所なのです。そういう意味でも今回の私のディブリーフィングは大失敗で、ポジティブなものを引き出すどころか、参加者全体に負の感情を蔓延させてしまったのです。
この苦い経験から、私は透析部長に、次回からのディブリーフィングでは、その日担当した看護師だけ、最大でも3人までとして欲しいこと、そして適切な場所と時間を与えてくれるようお願いしました。次回こそ、私たちが普段ソーシャルワーカー同士でやっているような自己肯定的なディブリーフィングを目指したいと思います。それにしても、やはり疑問に思うのは、看護師のディブリーフィングを行うのは、医療ソーシャルワーカーの役割なのかってことです。おまけに週3回と言うのは大きな負担となります。もちろんチームの一員としてサポート出来る事は嬉しく思いますが、継続性に不安を感じます。まぁ、いずれにしてもしばらくはこの看護師ディブリーフィングをやりながら様子を見ようと思います。
さて、今回はディブリーフィングの注意点と題し、私の大失敗ケースからディブリーフィングのリスク・危険性というものを書いてみました。正直、次回の看護師達とのディブリーフィングとっても不安です・・・看護師けっこう強くて恐い人多いし。。。恐らく次回の看護師ディブリーフィングの後、私はソーシャルワーカーの同僚達とディブリーフィングのディブリーフィングを行い、そしてまた違う同僚とディブリーフィングのディブリーフィングのディブリーフィングをしなければいけないでしょう(まぎらわしい!?笑)。だってそうでもしないと、私がスッキリ家には帰れそうにないんだもん・・・(涙)。でもそれだけ私にとってディブリーフィングとは心の平穏の為に大切だと言うことでもあるのです。完。
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