看護師長の実力
白い巨塔である医療現場では医者の権限が絶対である!といイメージが根強くあります。実際、前回のブログで書いたように、医者はチームの最終責任者であり、医療チームの指揮を執るという役割があるので、そのための権限が存在します。しかし、現場での真の独裁者・・・じゃなかった実力者は、医者ではなく看護師である!というのが、医療ソーシャルワーカーとして働いている私の持論です。それはなぜなのか?↓の三つの点で分かります。
1. 看護師の職業は母体が大きい
2. 看護師なくして病院は回らない
3. 団結力が強い
看護師は医療現場における基幹要員であると共に、どの医療専門職よりも多くの職員を擁しています。それに加え看護の仕事は基本チームワーク。そのため団結力の強さも半端ありません。医療業界では「看護組合最強伝説」が語られるくらい、ここカナダの看護組合の力は強く、私が聞いた話では、医療ソーシャルワーカーが属している「その他大勢医療組合」(OT,PT,SW,薬剤師、栄養士が属している)を飲み込んで、医療業界唯一の組合にする、つまり天下統一を目論んでいるらしいと巷では噂になっているそうです。恐るべし看護組合。
そんな陰の支配者(?)であるナース達を率いるのが看護師長、うちの病院ではPCC (Patient Care Coordinator)と呼ばれるベテランナースです。彼女ら・彼らこそ、医療現場における真の実力者なのだ!と毎日の業務で私は実感しています。
うちの病院では、それぞれの医科に看護師長(PCC)がいて、主に看護師の統括を行っています。ただ看護師長の役割は、看護師の管理だけではなく、病棟全体の実務管理者でもあるので、私たち医療ソーシャルワーカーやOT,PT,栄養士、薬剤師、そして医師にも指示を出すことも普通にあります。つまりそれぞれの病棟は、看護師長の手腕で廻されていると言っても過言ではありません。そんな看護師長に喧嘩でも売ったらどうなるか・・・それは過去の伝説を聞けば火を見るよりも明らかです。
(看護師長を怒らせた医者のお話)
むかしむかし、ある村(病棟)にプライドの高いお医者様がおったとさ。このお医者様、人から指示されることが大嫌いで、いっつもつっけんどんな態度で村人(医療職員)と接しておったそうな。そんなある日、このお医者様、村長(看護師長)さんと病人の世話を巡って大喧嘩。興奮したお医者様は不覚にも「村長ごときが口を挟むな!」と言ってしまったそうな。その後、村人たちはお医者様を村八分にし、おまけにお殿様(病棟部長)にまで陳情し、とうとうそのお医者様を村から追い出してしまったとさ。
・・・て感じの「おとぎ話」が一つや二つどころではないのが、真実を物語っています。大抵、看護師長を怒らせた医師に待っている運命は、ナース達による一斉無視、情報隠蔽、誹謗中傷、などpassive aggressive attack と呼ばれる受動的攻撃行動で、これにより医師が極端に仕事がやり難くなり、その結果、病棟内のその医師の評価も下がり続け、いたたまれなくなった医師本人がその病棟を去るか、もしくはクビになるか、の二つに一つとなってしまうのです。
恐ろしや~看護師長!と権威も力も0%の医療ソーシャルワーカーの私はそんな話を聞くたびにブルブルするのですが、でもよく考えてみれば、チームプレーが絶対条件の医療現場で、チームワークを乱すものが追い出されるのは自然の摂理かもしれません。だってチームワークが乱れたら患者さんのケアにも影響出るしね。それに、チーム内でケア方針に関する意見の相違はよくあることなので、そんなことではみんな大人なんだから普通は怒りません。看護師長を怒らせたという事は、きっと業務とは関係ない事柄、例えば人格を否定したりしない限りはあり得ないと思うんです。そう考えると、まぁそんな医師が追放されるのも仕方ないかな~と思います。また追放された医師も、多分そこのチームとの相性が悪かったってことなので、逆に相性の良いチームとめぐり合うチャンスだと思って頑張って欲しいものです。
さて↑と似たようなケースで、私の元同僚がこんな話をしてくれました。彼女の恋人は医学部で勉強しているのですが、あるクラスで講師が「もし医療チームカンファレンスで、あなたの治療方針に看護師長が反対したらどうしますか?」と学生たちに質問したそうです。そこでクラスメートの一人が「私だったら、あとで看護師長を呼び出して説教します。人前で私の意見にケチをつけるなんて失礼だと!」。これを聞いた元同僚も恋人もビックリ仰天したそうです。今時の若い医学生にもこんな考えの人がいるんだと。この話を聞いた私は「うわぁははは」と大笑いしてしまいました。無知って怖いですね~。もしこんな事インターンの研修医が看護師長に言ってしまったら一体どうなるんだろう?と想像しただけで、背筋がゾッとしました。
こんな絶対的力を保持する看護師長なので、病棟の雰囲気も看護師長の人柄で大きく変わります。私が働くある病棟の看護師長は超がつく意地悪な女で、周りからも嫌われています。私は正直、彼女は「燃え尽き症候群」に陥っているんじゃないかと疑っているのです。というのも、いつもイライラしていて、でも時に自信の無さも見せたりするからです。でもそんな彼女、ある日私を怒らせました。彼女に頼まれた仕事をして報告した時「Robert(ロバート)さんの件ですけど・・・」と言った私に、「え?ロボット(Robot)なんて名前の人いたかしら?」って私の英語の発音を馬鹿にして嫌味を言うのです(Rの発音、日本人には難しいんだもん 涙)。とりあえず無視したけど、「今までお前ロボットって名前の人に会ったことあるのかよ!?ばっかじゃねーの!」と心の中では叫んだのでした。これ以降、この看護師長には最低限のお手伝いしかしなかったのは言うまでもありません。もちろんこの病棟の雰囲気は真っ黒でナースも事務のおばちゃんも意地悪な人ばかりです・・・つまり類は友を呼ぶってことですね!
ハッピーな事に、私が働くここ腎臓透析科の2人の看護師長は、まるでお母さんのように優しく抱擁力があって、そのため職員から絶大な信頼と人気を誇っています。私もこの二人が大好きです。この看護師長2人の人柄で、うちの透析科のチームはいつも和気あいあい、この雰囲気が好きで私はここで腎臓ソーシャルワーカーをしているようなものです。腎臓医達もこの2人の看護師長を尊敬していて、看護師長からの患者ケアに関するアドバイスは真摯に聞きます。またこの看護師長達、医療ソーシャルワーカーの仕事にも非常に理解があって、尊重してくれるので、私たちにとってもすごく仕事がしやすいのです。看護師長とのコミュニケーションも円滑に進むので、患者さんの満足度も他の病棟と比べると抜群に良いのです。
このように看護師長によって病棟内の患者ケアの質も、患者の満足度も、職員のチームワークもすべて左右されてしまうという事実が、私が看護師長を医療現場の「真の実力者」と呼ぶ所以なのであります。固い絆で結ばれているパワフルな看護師達を見るにつけ、怖いような羨ましいような気持ちになるのですが、同じように固い絆で結ばれているソーシャルワーカーにも、いつか「真の実力者」になるチャンスがやってくるのだろうか?と思ってしまいます。いやそれとも、看護組合による「天下統一」で、職業もろとも滅ぼされてしまうのか・・・医療現場における群雄割拠は今日も続くのです。
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