医師とソーシャルワーカー 「傾向と対策」の必要性
腎臓ソーシャルワーカーとして働く私にとって、腎臓医とどう上手く付き合うかは、私の仕事の出来を大きく左右する一大事項です。腎臓医の先生たちには、患者さんの障害手当ての診断書を始めとして、さまざまな申請書・診断書を書いてもらわないといけません。また、医療カンファレンスの準備をするのもソーシャルワーカーの仕事なのですが、出来る限り腎臓医の先生たちには、患者さんと家族の都合の良い時間に合わせてフレキシブルにカンファレンスに出席して貰いたいのです。でも腎臓医との仲が悪かったり、信頼関係が築けていないと、無理をお願いすることも、融通をつけて貰うことも難しくなって、ソーシャルワーカーの仕事も滞ってしまいます。それはすなわち患者さんの不利益になってしまうことにも繋がるのです。ですので、どう腎臓医と対応して信頼関係を作っていくかは、医療ソーシャルワーカーにとって死活問題なのです。しかし腎臓医と上手く信頼関係を築くのは、そう簡単ではありません。なぜなら、島倉千代子の歌にあるように、「患者もいろいろ~、腎臓医もいろいろ~、ソーシャルワーカーだっていろいろ咲き乱れるの~♪」なんて感じでみな個性豊かだからです!(とは我ながら良い言い方をしたもんだ・・・)。
現在は私の腎臓透析科には5名の腎臓医が働いています。この5人それぞれ個性的なので、腎臓ソーシャルワーカーが上手くドクターの心を掴むには、それぞれの性格を把握し、そしてその傾向と対策を綿密に練らなければいけません。そこで今回は、私自身のためにも、この5人の腎臓医の性格的特長をここで赤裸々に曝し、そしてそれぞれにあった対策を練ってみようと思います。皆さんも何かよいアドバイスがあったら、ぜひ私に教えてください。それではまず腎臓医グループリーダーであるS先生から始めましょう。
S先生の傾向
40代半ばのS先生は、うちの保険局腎臓透析部のリーダーを勤めるなど、出世街道をまっしぐらなエリート医師です。彼は自宅で出来る腹膜透析を強く推し進めてきて、血液透析の患者さんを少しでも腹膜透析に移行させようと躍起になっています。でも、ちょっと強引過ぎるところもあって、90歳の血液透析の患者さんを腹膜透析へと変更させたこともありました(これはすぐに失敗に終わりましたけどね・・・さすがに90歳のおじいさんが自宅で自分で透析するのはちょっと無理でしょう)。S先生はソーシャルワーカーがお願いする患者さんの診断書や申請書は、手早くパッパと書いてくれ、ソーシャルワーカーにも適度に(これ大事!)患者の援助を要請します。ただ、いつも忙しくてセカセカしているので、捕まえるのが凄く大変です。
対策
私個人的には、冷静でブレないS先生はお気に入りです。でもいつも忙しいS先生の手間を煩わせないために、頼む診断書や申請書の書けそうな部分は事前に書いてS先生に渡します。そして用件は手短に話し、事務的に対応することを徹底しなければいけません。間違っても、ソーシャルワーカーの同僚達と話すように、ダラダラと回りくどくしたり、感情論を持ち出したりしてはいけませんよ!(って誰に言ってるんだ?はい、自分にです!笑)。
D先生の傾向
うちの腎臓医で一番若いD先生。ハキハキと元気良く、たまに透析科の職員にピザを奢ってくれるなどスタッフへの気遣いも出来るやり手です。D先生は、必要な時はきちんとソーシャルワーカーに患者さんの援助要請や相談をしてくれ、ソーシャルワーカーの役割も理解しています。ただ、D先生は効率重視の傾向があるので、時間のかかる作業を嫌がることが多いです。D先生は基本的に障害手当て申請書のような5ページ以上に渡る申請書を書くことを拒みます。
対策
D先生、とっても良いドクターなんですけど、障害手当て申請書を書いてくれないのは、ソーシャルワーカーからすると失点です!仕方が無いので、彼が担当の患者さんの障害手当て申請をする時は、まず患者さんの家庭医(General Doctor)にアプローチをかけます。もし患者さんが家庭医を持っていなかったり、家庭医が拒否した場合は、ソーシャルワーカーは粘り強くD先生に申請書の必要性を説く必要があります。D先生には「とりあえずこれお願いしま~す」のような説明のないお願いは基本的に通らないので、毎回どうしてこれが必要か説明することが大切です。
T先生の傾向
T先生は40代半ばの知性が光るアジア系のドクター。でも同時に彼女は、この透析科で一番の「こまったちゃん」先生でもあります。T先生はプライドがとても高くて負けず嫌いなので、他人に指示されたり諭されるのが苦手です。でも人に指示を出すのは大好きなので、彼女が担当する週は、看護師もソーシャルワーカーもてんてこ舞いさせられます。またこのT先生、職員から「死神」とあだ名が付くくらい患者さんに透析を止めるよう説得することに熱意を燃やし、彼女のカンファランスでは必ず透析中止の話があがります。私は彼女のハッキリ物言う態度は、透析を止めようか迷っている患者さんや、透析をしても生活の質の改善が見られない患者さんには、とっても有効だと思います。ただあまりにもハッキリ物を言うので、患者さんや家族には冷血な女だと顰蹙を買うこともよくあります。またソーシャルワーカーの価値を認めてはくれるものの、過剰使用によりソーシャルワーカー達を疲弊させる傾向があります。
対策
T先生への対策を練ることはソーシャルワーカーの精神安定の為にも必須です(笑)。まず第一に、彼女とは口論をしないこと!口論すると根に持ちます(これは元同僚で証明済み)。T先生が間違っていた場合は、プライドを傷つけないよう細心の注意を払ってやんわり伝えましょう。またT先生は短気なので、頼まれた仕事はすぐやるようにしましょう。そうしないと、何度も何度もソーシャルワーカーを呼び出しては報告させるので、仕事になりません!そして、カンファレンスの後は、必ず患者さんと家族の心のケアをしましょう。繊細な患者さんや家族だった場合、T先生のハッキリ発言で心が傷ついてしまう人もいるからです。最後に、嫌味を言われたり、怒鳴られたりしても、T先生には悪気はないんだって事を自分で自分に言い聞かせましょう。実際、彼女は意地悪なときもあるけど、基本的には彼女なりに患者さんのことは考えているのだから・・・
B先生の傾向
理知的で滅多に笑わない美人で有名なB先生。ちょっと古いけどXファイルのスカリーみたいな冷静沈着を絵で書いたようなドクターです。職員には喜怒哀楽を出さないB先生も、患者さんにはやさしく微笑みます。ですので患者さんからの評判もよく、私たちからはミステリアスな美人女医として有名です。私が思うに、彼女はシャイ、人見知りな人なんだと思います。ソーシャルワーカーには必要なとき意外は、ほとんど接触しません。でも患者さんの診断書・申請書などは嫌がらず、そしてどの腎臓医よりもきちんと細かく書いてくれるので、いままで申請失敗率0%で仕事に信頼できるドクターです。
対策
とくに必要な対策はなし!いつも無表情なので、たまに笑顔になるとドキッとします。一体何を考えているか分からないけど、でもソーシャルワーカーには実害がないのでオッケーです。
R先生の傾向
とってもフレンドリーで、いつもニコニコと職員・患者さんの話を聞いてくれます。腎臓医、いや私が今まで働いてきたすべてのドクターの中でも、こんなにセカセカしない人は見たことがありません。だから患者さんウケは腎臓透析科ナンバー1です!いつでも患者さんは自分の話を最後まできちんと聞いてくれる医者が大好きです。私も腎臓病になったら絶対R先生を指名します!!!でも一緒に働くソーシャルワーカーの立場からすると、このフレンドリーさが凶となる時もあるんです。誰の話もじっくり聞くR先生なので、とにかく彼の診察時間は長い!カンファレンスを準備しても時間通りに来ないし、スタッフミーティングも彼の診療が終わるのを待たされて待たされて終業時間間際になるなんてことも珍しくないのです。おまけに、診断書や申請書の依頼は快く受けてくれるものの、出来上がるまでの時間が長い・・・酷いときなど、患者さんの申請書を書いてもらうまでに3ヶ月かかった事もありました(涙)。
対策
頼んだ診断書・申請書を少しでも早く書いてもらうために、とにかくR先生に何度も催促の電話を入れること!そして患者さんにも直接R先生のクリニックに電話を掛けさせ、とにかくプレッシャーを与えることが大切です。でもそんなR先生に「遅れちゃってゴメンネ」と言われると、それが3ヶ月遅れでも許してしまうのは、彼の人の良さなのでしょう。
このように、私が働く5人の腎臓医についての私評をさせて頂きました。いい気分ですねドクターを私評するのって(笑)。なんだ、結局どこも医療業界はドクターに気を使わなければいけないのか・・・とガッカリされた方もいるかと思いますが、現実、医療業界においてドクターの持っている力は甚大なのです。実際、医療ソーシャルワーカーが患者さんの財政援助する為の書類の殆どは、ドクターからの診断書・申請書を必要とするので、医療ソーシャルワーカーだってドクターを無視して働くことなど出来ないのです。またドクターは患者さん治療の最終責任者として、リーダーとして行動・指示しないといけないので、どうしてもある程度の権威を持ってしまうのは仕方がないことだと私は思います。だからと言って、医療ソーシャルワーカーがヘコヘコとドクターに媚びへつらう必要はありませんが、しかしドクターと良い関係を築くことは即ち患者さんのためになる事なので、そう考えればソーシャルワーカーがドクターが仕事をし易いように気を使っても、ソーシャルワーカー自身のエゴは傷つかなくて済むと思うのです。
まぁー今のところ、私は5人の腎臓医とはそれなりに上手く対応できているんじゃないかと思います。ただT先生が来る週だけは通常の5倍緊張し、10倍忙しくなります。そしてそれが今週なんです!!!T先生、ソーシャルワーカーの価値を分かってくれるのは嬉しいですが、お願いです、使いすぎないで・・・もうすでに私、疲れちゃってます(涙)。
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