第一回ソーシャルワーク講座「システム理論」


いきなりのお堅いソーシャルワーク講座登場!なぜ?なぜ?それはソーシャルワーク理論を知っておくことは、私にとっても皆さんにとっても大切だからです!!!


カナダの大学では実践よりも理論を中心に教えるのが一般的で、ソーシャルワーク(社会福祉学)も例外ではありません。さらに大学院ではずっと理論ばかり習っていた記憶があります。でもいまだ持って私「理論とはなんぞや?」の原点から抜け出せないのです。そうなんです、私ずっと昔から理論が苦手なんです。だから今回、ソーシャルワーク理論をブログの記事にしてみようと思ったのも、自分自身の為なのです。とくに学校を卒業してから月日も流れ、大学で学んだ理論など頭の片隅にも残っているかどうかのトホホな状態。しかし大学で学んだ理論は、医療ソーシャルワークの仕事をする上で実はとても大切なのです。



例えば、患者さん(クライアント)が抱える複雑な問題の解決を図るには、理論というレンズを着け多角的・包括的に患者さんの置かれている状況を見なければいけません。なぜなら患者さんを苦しめる問題の多くは、患者さん個人だけではどうにも出来ないもっと大きなもの、つまり社会的なものが関与しているからです。この個人と社会との繋がりを探るとき、私たちソーシャルワーカーはさまざまな理論を必要とし、意識的・無意識的にそれらを使って患者さんの問題解決に取り組んでいるのです(多分)。



・・・と言うような難解なアカデミックな理由以外にも、もっと現実的に理論を知っておかなければいけない理由がカナダの医療ソーシャルワーカーにはあるのです。それは、まず第一に、採用面接で「あなたのお気に入りの理論はなに?」って絶対に聞かれるからです。さらに面接官によっては「その理論をどうやって実践しているか例をあげてみて?」なんていう意地悪(?)なことを聞く人もいます。だから最低でもソーシャルワーク理論の一つや二つは胸を張って言えるようでないとダメなのです。第二に、医療ソーシャルワーカーのカルテには、それぞれのケースで使った理論的考察や実践について書かないといけない欄があるのです。私、これ大の苦手なんですが、年に一度の査定で怒られない為にも、適当な理論をケースごと当てはめてカルテに記さないといけないのです。その為に、常日頃、ソーシャルワーク理論についてのおさらいが(私には)必要なのです。



という訳で、さっそくソーシャルワーク理論について、誰にでも分かるように簡単に解説してみたいと思います・・・って私に出来るでしょうか 汗。



まずそもそも、「理論とはなんぞや?」(やっぱりここからスタート!?)


私なりに解釈してみると、理論とは「どのようにして物事が成り立っているのか」を科学的に説明するもの・・・つまり、AがAである理由を体系的に説明しようとするもの、ではないかと思うのです。え?もうすでに簡単じゃなくなってるって?そうですね、私もすでに混乱してます。なので具体的に実際の理論をひとつ挙げて見ていきましょう。



とりあえず今回は一番簡単そうなソーシャルワーク理論を選んでみたいと思います。それは「システム理論(Systems Theory)」。システム理論とは、人は一人で孤立して生きているわけではなく、その人のいる環境すべてから影響を受け、また同時に影響も与えているという考えです。分かりやすく例にたとえると、私たちの持つ性格や考え方というのは、多かれ少なかれ家族からも、学校教育からも、生まれ育った地域文化からも、そして私たちが属している日本という国・文化からも影響を受けていますよね。それと同時に、私たちもまた家族や学校の友人&先生に影響を与え、また選挙によって地域や国政レベルにおいてもなんらかの影響を与えています。つまりシステム理論では、個人から社会に至るまですべてが密着に繋がっていて作用しあっているという事を強調しているのです。



つまりこの理論をソーシャルワークという背景で見てみれば、例えば国の政策が変われば、それが地域社会に影響を与え、地域社会が変わることによってそこに住む住人の生活も変わる。また同時に、個人個人が集まって地域社会を変えれば、今度は地域社会の変化が国をも変えていく、と言うように、ひとつに変化を起こせば、それが上にも下にも波及していくという事なのです。それでは、どうこのシステム理論を医療ソーシャルワークの現場で実践するのか、ケースを例にとって見てみましょう。


ケース事例

AさんはFirst Nationsと呼ばれる、先住民族のコミュニティーで暮らしています。Aさんは14歳なのですが学校を中退し、薬物依存、アルコール依存に苦しんでいます。そんなAさんのボーイフレンドは付き合い始めてからずっとAさんにDV、暴力を振るっています。先日も酔っ払ったボーイフレンドがAさんに殴る蹴るの暴力をふるって、Aさんは病院のER(緊急外来)に肋骨&腕の骨折で運ばれてきました。Aさんは今すぐ退院してボーイフレンドの元に帰りたいと言っています。



システム理論を実践

それではAさんが置かれている状況をシステム理論のレンズを通して見てみましょう。まずは、Aさんの個人的な状況(ミクロ)から始め、それからAさんが関係している身近な環境(メゾ)の状況に焦点をあて、最後はさらに大きな視点(マクロ)からAさんに直接・間接的に影響を与えているものを探ります。その結果↓のようにまとめる事が出来ました。


ミクロ Micro(個人レベルでの問題):未成年、依存問題、DV被害、未就学

メゾ Mezzo (中間レベルでの問題):コミュニティー内の貧困、治安問題、サポート資源不足

マクロ Macro(大きいレベルの問題):先住民への差別、隔離政策、同化政策の歴史



こうして見ると、Aさんの問題はAさんの住むコミュニティー全体の問題、そしてさらにコミュニティーの問題はカナダの政策的・歴史的背景が大きく影響を及ぼしている事が分かると思います。実際、Aさんのような問題を抱える女の子は、彼女のコミュニティーには大勢いて、また差別による貧困によってコミュニティーの住人も疲弊し、その抑圧のはけ口として薬物依存や弱者への暴力がコミュニティー内で蔓延しているのでした。



このようにシステム理論を使ってAさんの状況がどう社会全体と繋がっているのかが分かりました。それでは今度はシステム理論を使ってどう解決策を探るのか?↑のまとめを使ってやってみましょう。


ミクロ Micro(個人レベルでの解決策):カウンセリング、家族・友人からのケア

メゾ Mezzo (中間レベルでの解決策):児童保護と警察の関与、女性サポートNPOの紹介

マクロ Macro(大きいレベルの解決策):正しい政策の支持(By投票)



医療ソーシャルワーカーがマクロレベルでAさんに出来ることは少ないのですが、でもミクロ&メゾレベルでは、カウンセリングやグループワーク、コミュニティーサポートグループやNPOの紹介、そして児童保護・警察・保健所・学校・福祉事務局などの公的団体との連携など、色々と出来る事はあるのです。そして、これらのサポートによってAさんの問題が解決され、それが将来、同じような問題を抱えた人たちも救えるようになれば、いずれはコミュニティーの意識も高まり、それが社会が持つ先住民への差別偏見をも変えていく・・・または、正しい政党・政策を支持することで、それが先住民の差別・偏見を助長している悪政を変える機会となり、その結果、先住民のコミュニティーの貧困問題も解消され、そこに住む住人の生活も向上、その結果、依存や暴力の問題も解消する・・・という方法もシステム理論を適応すれば考える事が出来るのです。



もちろん理論どおりに行かないのが人間社会の複雑で困ったところで、これはあくまでも理論上の話。しかし、システム理論を使う事で、一つの変化は大きな変化をもたらすきっかけとなるんだ!と知る事は、普段ミクロ・メゾレベルでの仕事しかしていない医療ソーシャルワーカーも、「社会全体を良くして行く為の一因を担っているのだ!」と言う誇らしい気持ちにさせてくれるのです(かな?)。



以上、第一回ソーシャルワーク講座を終わらしたいと思いますが、次がいつになるかは分かりません(だって難しいんだもん 笑)。でも、近いうちにまた違う理論について書いてみようと思います。乞うご期待!?

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