医療ソーシャルワーカーが「椅子取りゲーム」をする時・・・
カナダの病院はどこも公立・州立で、また組合の力も強いので、一度医療ソーシャルワーカーとして採用されれば、よっぽどの事(例:反則や犯罪行為)がない限りクビになることはありません。つまりカナダの医療現場で働く職員は、ほぼ公務員に近い状態と言っても過言ではありません。しかしいつの世も「絶対に安泰~!」なんてオメデタイ環境が続く事は稀であり、残念ながら「不意の予期せぬ出来事」が起きるのも世の常なのでございます。
さて、普段は失業の危機など考えもせずのほほんと働いている医療ソーシャルワーカー達にも、ピリピリする時があります。それは「どこかの病院のどこかの科の医療ソーシャルワーカーの職が無くなってしまった・・・」なんていう不幸の風の便りを聞いてしまった時。たいてい、医療ソーシャルワーカーの職が無くなってしまう時は、1)その医療科自体が予算の関係で閉鎖されてしまった、もしくは、 2)その医療科の職員数が予算の関係で減らされてしまった、のいずれかになります。そうしてこんな「風の便り」を聞くと、うちの病院の医療ソーシャルワーカー達は自分の身に降りかかるかもしれないであろう不幸に怯え始めるのです。でも、同じ保険局だけど自分の病院じゃないんだから、そんなに心配する事ないんじゃない?と思ったあなた・・・そんなに甘くないのがここの組合事情なのです。
私は基本的に組合賛成派です!医療組合のお陰で、医療ソーシャルワーカーの地位と給料、そして福利厚生が保証されているのです。それは疑いのない事実です。しか~し、この組合には(特に新入りには)厄介な規則もあるのです。それがSeniority (年功序列)制度です!このSeniorityとは入局した日を元に計算され、入局以来、何日・何時間働いているかを数値化したものです。当然ながら長く働いている人ほど優遇されるシステムが組合によって作られています。
例えば、先ほどの「医療ソーシャルワーカーの職が無くなってしまった」件では、そこで働いていた医療ソーシャルワーカーは、もちろん一時的に職を失うのですが、それも彼女・彼のSeniorityしだい。と言うのも、自己都合でなく保険局都合で職を切られた医療ソーシャルワーカーは、自分よりSeniorityが下の医療ソーシャルワーカーの職を奪い取る権利があるのです!そしてそれは同じ保険局内の病院、地域、施設を含めすべての医療ソーシャルワーカーの職が対象となるのです。ですので、A病院の医療ソーシャルワーカーがリストラにあったら、B病院の医療ソーシャルワーカーもC病院の医療ソーシャルワーカーもA病院で起きたリストラの火の粉をかぶる可能性が十分あるという事なのです。
こうなった時、医療ソーシャルワーカー達がすることと言えば・・・
• Seniorityリストをみて、リストラにあったソーシャルワーカーの年功序列が自分より上か下かを確かめる(=相手が上だった場合パニックと被害妄想に陥る)
• リストラにあったソーシャルワーカーが同僚・知り合いだった場合、しばらくは一緒にランチをしたり会話をしたりするのを避ける(=自分に目をつけられないため 笑)
• リストラされたソーシャルワーカーに自分の仕事を奪われる事を想定し、Seniorityが自分より下のソーシャルワーカーが働いていて自分が奪えそうな仕事を探す
と、こんな風に小賢しい行動を取って、なんとか心の平穏を保とうとするのでした。しかし、さらに物事をややこしくするのが、通称Bumping Game (だるま落とし)と呼ばれるものです。例えば医療ソーシャルワーカーのAさんがリストラに遭ったとします。そのAさんは自分よりSeniorityが低い医療ソーシャルワーカーBさんの仕事を奪いました。仕事を奪われたBさんは、自分よりSeniorityが低いCさんの仕事を奪い、Cさんは自分よりSeniorityが低いDさんの仕事を・・・って言う感じで、一人リストラされただけなのに、その波及効果は保険局中に広がっていくのです。これが組合Seniority年功序列制度の怖いところ。そして一番最後に「どの医療ソーシャルワーカーの仕事も奪う事の出来ない」Seniority最下位の人はどうなってしまうのか?その人は、非常勤ソーシャルワーカー(Casual Social Worker)として、正規ソーシャルワーカーの休暇・病欠穴埋め要員へと逆戻りしてしまうのです。でも少なくとも、保険局から追い出されることがないのが唯一の救いです。
そしてこのSeniority、リストラ時だけの問題ではないんです。採用面接でもSeniority、年功序列が大きく物を言います。内部募集での採用面接の採点比率においてSeniorityが占める割合は、なんと50%!!!つまり採用試験がダメダメでも、志願者の年功序列が高ければ合格すると言う事なのです。逆に言えば、どんなに才能とやる気があっても、Seniorityが低ければなかなか安定した良い仕事に就くことが出来ないのが、この年功序列制度の負の点です。ですから、正規の医療ソーシャルワーク職に就くために、新入りソーシャルワーカー達は出来るだけ多くのcasual(穴埋め)シフトを取って時間を稼ぎ、Seniorityを少しでも上げようと必死に働くのです。
確かに、経験が物を言う医療業界なので、年功序列が重視されるのも分からなくはありません。しかし同時に、経験を積めば積むほど「燃え尽きて」やる気がなくなっていく医療従事者が多いのも事実で、年功序列という名の下、やる気マンマンの新人だけが割を食うこのSeniority年功序列制度はいかがなものか?と中堅の私は思うのでした。おまけに支払う組合費は、Seniorityが低かろうが高かろうが一律給与の3%・・・なんだかな~組合費払って「だるま落とし」で出されてしまうなんてアホくさいな~と、新人の時は天引きされる組合費を見てはため息をついたものです。
しかし少しずつ私のSeniorityも上がってきた今、確かにこの年功序列制度は我々中堅やベテランにはぬるま湯で気持ちいいいやね~って感じで、年を追うごとに安定性が高まっていくので、定年退職までストレスフリーで充実して過ごす事が出来る優れものです。そう、結局こんな「わがまま」なベテランたちが多いために、新人の才能ややる気が無駄にされてもいるのです。「でも私たちだってこうやって苦労してきたんだから!」って声も聞こえるのですが、だからと言って採用面接の採点50%が年功序列って、やっぱり間違ってません?と私は思うのです。
幸運な事に、まだ私はリストラに遭った事も、医療ソーシャルワーカー同士の「椅子取りゲーム」に参戦させられた事もありません。しかし、そんな「椅子取りゲーム」に参戦させられた経験がある医療ソーシャルワーカーによると、それは大変ストレスのかかるものらしく、あの戦々恐々として過ごす日々が嫌だった・・・と語っていました。そりゃそうですよね、いつ自分も追い出されて、そしてどことも知れない病院のソーシャルワーカーの仕事を奪わなきゃいけないなんて。追い出すほうも追い出されるほうも嫌な気分になるのがこのSeniority年功序列制度なのです。
あ、そうそう、もう一つ組合には不思議な規則があって、それは「3ヶ月ルール」と呼ばれるものです。これは自己都合で仕事を変えた場合も、旧職に戻れる権利を3ヶ月保障するというもの。例えば、透析科に飽きた私が、内部募集に応募し、精神科ソーシャルワーカーとして採用されてたとしましょう。でも精神科で働いてみたら「なんか考えてたのと違う」ってことで、やっぱり透析科に戻りま~す!って事が離職3ヶ月以内ならできるのです。なんじゃこりゃ~!?と言うのが私の率直な意見です。この制度が及ぼす負の影響想像できますよね。つまり正規の医療ソーシャルワーカーの職に採用されても、3ヶ月過ぎるまでは油断できないと言う事なのです。だって前任者が気まぐれで戻ってきてしまう可能性があるのですから。そしてこんな風に、繰り返し新たな仕事を試しては、3ヶ月以内に前職に戻ってきてしまう「フラフラ型」ソーシャルワーカーが一定数いて、人事を困らせるのです。
この様に、組合には労働者の保護という大切な側面がある反面、面倒くさい規則も数多くあるのです。もう中堅になってしまった私には、組合が提供してくれるプラスの部分が多いので、組合費を払うのも苦になりませんが、新人達にとっては組合はどちらかと言えば非難の対象です。でも私だってうかうかはしていられません。最近、医療ソーシャルワーカーSeniorityトップ3に入る彼女がリストラに遭うかもしれないという噂が飛び交っています。もしそんな事が起きたら、一体何人がこのBumping Game (だるま落とし)「椅子取りゲーム」に参戦させされてしまうのか・・・私だって戦々恐々です。とにかく、リストラをしない!というのがなんにしても一番いい事なのです。お願いしますよ、保険局のマネージャーさんたち(涙)
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