ソーシャルワーカーの演技力

ソーシャルワーカーは正直者だから、つい嘘も顔に出てしまう・・・なんて思っていませんか?それは大間違いです(笑)。実はソーシャルワーカーは嘘がとっても上手なんですよ!なんて言うと語弊が生じて、ソーシャルワーカー協会からお叱りを受けそうなので言い換えます。「ソーシャルワーカーの演技力は劇団四季も顔負けなのだ!」と。。。(これはちょっと盛りすぎかな・・・汗)



いずれにしてもソーシャルワーカーの演技力が高いことは、大学、大学院、職場で長年ソーシャルワーカー達を見てきた私が保証します。ではなぜソーシャルワーカーの演技力は高いのでしょうか?それはズバリ仕事柄必要とされるからです。



個人の社会的問題を主に扱うソーシャルワーク業務において、他者との関係、繋がりを築くことはソーシャルワーカーが仕事をする上での必須事項です。また患者さん(クライアント)の問題解決のために、プライベートで繊細な事柄も聞き出したり、話し合ったりもしなければなりません。その為には患者さん(クライアント)からの信頼を得ることが絶対条件となります。そしてこの信頼を得るためには「動揺を絶対に見せないこと・悟られないこと」がソーシャルワーカーには求められるのです。



医療ソーシャルワーカーとして働いていると、色々と動揺しそうな場面に出くわします。幾つか例に挙げてみると:


(例1)

ヘルパーさんに痴漢を働いて、サービス中止になってしまった。でも自立援助が必要だからなんとかして欲しい


私の心の初期反応

おじさんマジで!?最低だね。そんな人の手助けはしたくありません!



(例2)

今月分の生活保護もお金に困った息子にあげてしまい、無一文になってしまった。なんとか助けてもらえないか(今回が5度目の相談)


私の心の初期反応

え~また~!?同じことの繰り返しじゃん。おばさん、しっかりしてよ(怒)!



(例3)

勃起障害でセックスリハビリテーションを紹介して欲しい


私の心の初期反応

紹介用の申請書はあるけど、ここにある赤裸々な質問事項を聞くのはちょっと恥ずかしいな~(例「あなたのリハビリしたい理由は?目標は?夢は?」)



などなど、いろんな意味で私が動揺したケースを幾つか挙げてみました。だいたい私が動揺するきっかけは、気持ち悪いと思ったり、怒り・イライラを感じたり、恥ずかしいって思ったりする事なんですが、↑の例でも私の瞬間的(?)感情反応はそういったものでした。でも、そんな私の感情をそのまんま顔に出してしまったら、患者さんだって傷つくし、そしてそれ以上私に相談できなくなってしまいます。ですからあくまでもポーカーフェースもしくは笑顔(微笑み?)で乗り切らなくてはなりません。またそれぞれの患者さん(クライアント)の状況が分かってくれば、どうしてこの問題が起きたのか?の本質も見えてくるので、私の心の初期反応も段々と収まってくるのです(でも、完全にコントロールするのは難しい・・・)。



なので、ビックリ仰天するような話を患者さんから聞いても、目を大きく開けたり、声を上ずらせたり、飛び上がったり、顔をしかめたりしてはいけません!あくまでもマイペースに「そうだったんですか、それは大変でしたね」と、そんなこと私には全然平気だもんね~!っと言ったフリをしなければいけないのです。これはクレーマー患者さんに不当に怒鳴られた時も同様です。動揺を悟られたら、ますます態度が酷くなってコントロールされてしまいますから。



しかし、ソーシャルワーカーの演技力は、ただポーカーフェースが上手いというだけではありません。感情に訴える演技も必要とされる時があるのです。例えば:


• お役所に患者さんの生活保護・障害年金申請をするとき


• 病棟チームに患者さんの退院を引き伸ばして欲しいとき


• ハンディーダート乗り合いバスにクレームをつけるとき(笑)


• 年一回の査定で仕事ぶりが評価されるとき(必死)



とくに患者さんの生活保護や障害年金申請の受理をお役所がしぶる時は、相手に動揺を与え「私はなんて悪い人なんだ」と罪悪感を感じさせるような、お涙頂戴+高圧的に演技・アプローチしなければいけないのです。まぁ、患者さんの厳しい状況を思えば、自然と感情的になりますが、それを上手くコントロールしてお役所に「じゃー受理します」と言わせる方向に誘導するのが医療ソーシャルワーカーの腕の見せ所なのです。



さてソーシャルワーカーに演技力が必要だ!ということはお分かり頂けた(?)かと思うのですが、ではソーシャルワーカー達はどうやってその演技力を磨いているのでしょう?その一つにロールプレーがあります。



大学教育でソーシャルワーカーの卵たちは、みっちりとロールプレイをさせられます。ソーシャルワーカー教育におけるロールプレーとは、学生みんなの前で「はい、今日はあなたがソーシャルワーカーの役で、あなたは患者さん役」と決められて寸劇をやらされることなのです。ロールプレイをする事で、1)ソーシャルワーカーの仕事を知る、2)ソーシャルワーカーとしての会話能力を磨く、3)患者さんの視点から問題を見る能力を磨く、の3点を学ぶことが出来るのです。



私もいろいろな役をこのロールプレイを通して演じて来ました。ソーシャルワーカーの役はもちろん、おじいさん役、子供の役、DV男の役、強盗の役(なんでこんな役まであるのか今となっては疑問だが・・・)などなど。その中でも思い出に残るのは、家族カンファレンスのロールプレイをした時のこと。。。



このロールプレイでは、医療ソーシャルワーカー、患者さん(80歳女性)、その息子と娘、という設定で、私は息子役だったのですが、患者さんを家で引き取るか施設に入れるかで私と娘役が大議論!私は施設入居派、娘は在宅派で揉めたのです。そう、ここまでは台本どおり。ここでどうソーシャルワーカーがカンファレンスをまとめるか、というのがロールプレイの目的だったのですが・・・なんと娘役の同級生が泣き始めたのです。す、すっごい演技力・・・ロールプレイのグループどころかクラス中がし~んとしました。「泣いたってしょうがないだろ。母さんの為には施設がいいんだよ。悪いけど、家では面倒見れないから。どうしても在宅が良いっていうならお前が面倒見ろよ!」と私も負けじとホームドラマ丸出しの台詞を言うのでした。そして娘役も「お兄ちゃんって冷たいのね。お母さんが可哀想・・・」と言ってはまた泣くのです。お母さん役も「2人とももう私の為に喧嘩をするのはおやめ。私なんてもう死んだほういいんだ」と言い出します。迫真の演技の連続で、もうすっかり私も当人の気分です。でも本当に可哀想なのは誰でもないソーシャルワーカー役の同級生なのでした。この白熱した状況に、本当に困って動揺して、真泣きしそうでした(笑)。



このようにロールプレイは、それぞれの役を直接演じることで、それぞれの思い、そしてそれぞれの視点を見る事が出来るので共感力を高めるにはもってこいの訓練です。おまけに、何回もロールプレイをする事で演じる力も伸びていくので、ソーシャルワーカーとして動揺を隠し、円滑に会話をする術も身に着けるようになるのです。



さらにもう一つ、ソーシャルワーカーの演技力の秘訣を挙げるなら、それは人間観察にあります。多くの患者さん(クライアント)を見てきたソーシャルワーカーは人間の感情表現を熟知しています。常に「患者さんは今どう思っているだろうか?」と患者さんの心に自分の心を沿わせることで、ソーシャルワーカーは人間の感情の機微にについて深く知り、そしてまたそれを応用できるようになっていくのです。



そんな訳で、ソーシャルワーカーの演技力は馬鹿にできません。私もいつでも劇団四季に入れるよう準備はしているのですが、なんと言っても音痴なのが致命的です。それでも「渡る世間は○○」みたいなホームドラマには出れる自信はあるんだけどな~ 笑。こうして医療ソーシャルワーカーの私は、今日も患者さんに共感しながら役者としての自分を高めているのでした・・・なんてね、あはは。


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