仁義なき戦い 病院間の寄付金争い


カナダの病院はどこも州立です。私の保険局も8つ以上の病院を経営していますが、これも全部州立。しかし昨年まで続いたBC州保守長期政権の下、医療予算は大きく削られ公立病院と言えども資金難にあえぐ状態が続いています。またBC州にある6以上ある保険局、そしてそれぞれの保険局が管理する病院も、独自の予算で運営するような、そして保険局どうし、病院どうしが少しでも多くの予算獲得のため競争し合うような環境が、コスト削減の名の下に作られたのでした。



私が働くこのC病院も予算不足に悩まされている病院の典型です。その為、過去記事でも書いたように、ベット不足解消のため患者さんを廊下やカフェテリアで寝かせたりする蛮行も行ったのです。慢性的な遺体安置室の満杯状態もこの予算不足が原因です。さらに、この予算不足は、C病院で働く医療ソーシャルワーカーの人手不足、そして一人当たりのケース件数増加という形で重く私たちにのしかかってくるのでした。その結果、同じ保険局下の病院でありながら、経営状態がうちよりも良い川向こうのS病院や、バンクーバー市内の別の保険局管理下の病院へと移っていく医療ソーシャルワーカーも多く、これがC病院の人手不足をさらに助長する要因となっています。つまり同じ州立病院でも、病院長の手腕しだいで予算状況、ひいては労働環境も大きく左右されるのです。



州から十分な予算が貰えなければ、それぞれ病院ごと不足分を補うしかありません。そこで各病院が目をつけたのが民間からの寄付。現在どの病院も寄付キャンペーン真っ盛り、必死でお金を集めています。例えばうちのC病院基金(寄付科?)では、市長や銀行役員、そして元アイスホッケー選手も動員させて、なんとか民間から寄付金が取れないかと思案しています。ただ残念ながら、カナダ病院ランキングで「ワースト3位」の汚名を被ってしまい、カフェテリアに患者を入院させる病院として巷でも一躍有名になってしまったこのC病院なので、民間の支持(お金)を得るのは並大抵のことではありません。そのためC病院は、「新病棟の開設」という設備投資とカイゼンをテーマにただいまキャンペーン中です。がんばれC病院基金!笑



さて、こんな評判のあまりお宜しくないC病院でも、驚く事にご寄付をしてくださる方々がいるのです!特に、腎臓透析科の患者さんのご家族からの寄付が結構あるのです。これもひとえに私の努力の賜物・・・ではなく、透析科チームの努力の賜物なのでした。病院全体では評判が悪いC病院ですが、こと腎臓透析科に関してはものすごく評判が良いのです。これは正直私も驚きません。だって腎臓医をはじめ看護師長、看護師、薬剤師、栄養士、そして私たち腎臓ソーシャルワーカーとみんなフレンドリーでチームの雰囲気がとても良いからです。このポジティブなエネルギーが患者のケアにも反映されて、患者さんその家族からの評価も高くなるという、理想的な状況です。



しかし、腎臓透析科も予算不足に悩まされており、現在の空き率0%。新規の患者さんを入れる余地がないのです。こんな状態なので患者さんのアメニティー(例:シーツ、タオル、ベット、などなど)を新しい物に変える余力がありません。そんな中、亡くなられた患者さんのご家族が最近、ぞくぞくとご寄付をしてくださったのです。例えば、私のお気に入りの患者さんの一人だったおばあさんは、亡くなる時に息子に遺言を残し、透析科に寄付するよう言いつけたのでした。そして彼女の息子さんが去年、莫大な寄付(おそらく2000万以上)を透析科にしてくれたのです。そのお陰で、患者さんを持ち上げるリフトをすべてのベットに取り付けることができ、看護師の負担を大きく減らす事が出来ました。また、同じく去年亡くなられた他の患者さんのご家族も大きな額の寄付をしてくれ、患者さん用の移動用チェアを買い揃える事が出来ました。また患者さん専用のプライベートテレビも、シーツを暖める機械も、ワイヤレス電話も、すべて寄付によって取り寄せたものなのです。こう見てみると、寄付の力って偉大です。



ただ患者さんすべてが寄付できるほどの財政的余裕があるとは限らないので、あまりにも寄付者を称えるのも気を付けなければいけません。寄付が出来ない事で、肩身の狭い思いをしたり、申し訳ない気持ちに患者さんをさせたら、それこそ本末転倒です。でもここに、寄付に頼りすぎる、寄付に重きをおく病院政策の危うさを私は感じるのです。そもそもここは州立病院なんですから、本来なら必要なものは政府予算から出されるべきであって、なんでもかんでも民間からの寄付に頼っていたら、私たちが何のために政府に税金を払っているのか意味が分かりません(怒)。と思わず怒ってしまいました。それでも、腎臓透析科のように、長い期間付き合ってきた患者さんやご家族から寄付を頂くと、お金よりも感謝を示して頂いたその気持ちに、医療従事者としては嬉しくなってしまうのは仕方がないことです。



さて寄付集めのターゲットは患者さんやそのご家族だけではありません。なんと自らの職員にも寄付集めの魔の手はちゃくちゃくと忍び寄っているのです。例えば最近、うちの保険局内の病院で流行っているのが、フィフティフィフティ(50/50)と呼ばれるゲームです。これは職員から集めたお金の総額のうち、半分は選ばれた1人の勝者に与え、残りの半分は主催者が頂くという寄付集めのくじなのです。保険局内の職員は、給料引き落としで一枚$5のチケットを買う事から始めます(何枚でもチケットは買ってもいい)。そして二週間に一回の給料日の日、当たりチケットを引いた勝者が全掛け金の半分を貰えると言う仕組みです。そして保険局内の職員はどこの病院の50/50に参加してもいいのです。



そうなると必然的に当たり額の大きい病院の50/50に殺到するという事になるのです。私も最初はC病院の50/50を賭けてました。でも参加者が少ないせいか、当たり金も20万くらいと少ないのです。でも川向こうのS病院の当たり金は300万円まで上がっているので、そっちに私も鞍替えしたのです。でもよく考えてみれば、当たり金が高いという事は、賭けている人の数も多いという事。すなわち当選確率は下がるという事になります。逆に、僻地にあるD病院の50/50の当たり金はわずか1万円。つまり単純計算でも40人しか賭けてない事になります。それに対して当選金300万のS病院では1万2000人が賭けていることになるのです。という事は、オッズは1/40と1/12000・・・でも夢は大きいほうが良い!ってことでオッズは低くても、ついつい大当たりを夢見てS病院の50/50に私はなけなしの給料を投じてしまうのでした。



そしてこれこそ病院間の競争・格差の差を生むことにもなっているのです。S病院の50/50の当たり金が300万ということは、売り上げ総額は600万円。つまりその半分300万は二週間ごとにS病院に寄付されていくわけです。つまり年間3600万円もが職員の給料からS病院に寄付されているわけです。それに対して当たり金1万円のD病院は、年間で12万円しか寄付されていない・・・3600万円と12万円、なんという格差でしょう!これではますます潤っているS病院に職員も流れていってしまいます。



なんて問題意識を持ちながらも、自分の勤めるC病院ではなくS病院の50/50に参加して寄付している裏切り者は私です(笑)。いっそのこと私も資源豊富で働きやすそうなS病院に行ってしまおうかな~なんて思っちゃう今日この頃。そんなことで負けるなC病院基金!政府のお金が再び入るまで、寄付集めを頑張るんだ!!!っと無責任に応援してみましたが、私の仕事を楽にするためにも、本当にC病院経営陣には頑張って欲しいものです。


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