第2回ソーシャルワーク講座「紛争理論(Conflict Theory)」


私、日本に舞い戻って参りました。只今、名古屋です!さて台湾から日本への機内で暇を持て余していたので、ちょっと頑張ってソーシャルワーク理論の記事を書いてみました。これなかなか暇つぶしには良いアイデアです。気がつくともう着陸体制に入ってました。だいたい理論って難しいからボーと考えてるだけで瞑想と同じくらいの効果があります。機内でも記事を書いているはずが、ウトウト瞑想(居眠り)してたりして、この記事も着陸までに書き終える事が出来ませんでした。あと2時間くらいフライトが長かったら良かったのにな〜・・・なんて事、もちろん思うわけもありません(笑)


さてさて前回「第1回ソーシャルワーク講座」で、カナダでソーシャルワーカーをする上で、理論の一つや二つは言えないと採用面接で苦労するぞ!というお話をしたのですが、それは嘘ではありません。しかし、私の経験では面接官だって大学の教授ではないので、理論には疎い人が大多数です。ですから、知ったかぶって適当に自分が好きな理論について話をすれば「はい、はい、なるほどね~。いいでしょう。」ってな感じで満点が貰えるのです。そういう訳で、ソーシャルワーカーが理論を理解するうえで大切な事は、理論を詳細に分析することではなく、その理論がどう社会の仕組みと社会問題を説明しているのかを大雑把に捉えることなのです!・・・と言う事で、今回の第2回ソーシャルワーク講座も私の主観を元に、大雑把に理論の説明をしたいと思います。私の解釈が間違っていても、それは各自読者の皆様の自己責任と言う事でお願い致します(笑)。


さて今回扱う理論はConflict Theory、日本では紛争理論と呼ばれるものです。Conflict Theory(紛争理論)の原点は、かの有名なカール・マルクス(Karl Marx)のマルクス主義(Marxism)で、世の中は搾取する側と搾取される側の階級闘争で成り立っているという理念を発展させ、社会は限られた資源を巡って常に紛争しており、その中で支配する者と支配される者という構造を作る事で秩序を保っている、と言うのが大まかなConflict Theory(紛争理論)の概念です。つまり、貧困のような社会問題は、貧しい人達を搾取しそして利用するために体系的に作られた制度であり、法律、教育、福祉などの社会制度は支配層による搾取制度を維持するために存在しているという見方なのです。


例えば、私たちの教育制度、大学教育についてをConflict Theory(紛争理論)を使って解釈してみましょう。大学は学問をする場であると共に、社会的ステータスを享受する場でもあり、将来の職業選択に大きな影響を与える場であることは間違いありません。しかし、全ての人が平等に大学に行けるわけではなく、学習環境が良く、学費が払える学生が必然的に大学に行く事ができます。逆に言えば、才能があってもお金がなく、学習環境が整ってない所で生活している子供には大学進学は容易ではないと言う事です。つまり大学は、富める者(支配層)の為の場所、特権を維持するために作られた制度である!とConflict Theory(紛争理論)においては言う事が出来るのです。


同じように福祉制度も、Conflict Theory(紛争理論)においては支配層の特権を維持するための制度と言えます。それは、最低限の保障を生活保護などで貧困層に提供する事で、貧困層の支配層への不平等感・怒り・フラストレーションを減らし、革命などの支配層に対する危険行為を予防する目的があるからです。


もちろんこれらの解釈はあくまでもConflict Theory(紛争理論)のレンズから見たものであり、現実はこの理論が全てを説明するものではありません。実際、貧しい学生だって大学に行く事は出来ますし、大学を卒業してなくても富を持つ者もいます。また福祉制度だって、生活保護があるからこそ、支配層による貧困者への徹底した搾取を防止している、という見方をする事も出来ます。ただここで大切な事は、Conflict Theory(紛争理論)を使う事で、社会問題の根底には「権力」や「不平等な富の分配」と言った大きなものが関わっているのだ、と言う事を認識する事なのです。


ではこのConflict Theory(紛争理論)をどのように実際の患者さんとの相談業務に実践すればいいのでしょうか?


これ、なかなか難しいですよね。なんと言ってもConflict Theory(紛争理論)の概念はかなり大きいので、個人が抱えるマイクロな問題に適用するのは難しそうです。しかし、個人的には私このConflict Theory(紛争理論)が大好きなので(私の隠れた闘争本能が触発されるからか!?)、↓のケース例で使ってみようと思います。


Pさんのケース
Pさんは8年前にインドからカナダへと移民してきました。カナダに住んでいるPさんの兄がPさんの保障人となってくれたお陰で移民する事が出来たのでした。インドでは裁判官として働いていたPさんですが、カナダではキャリアが認められずタクシー運転手として働いています。インドから連れてきた妻と子供2人と、なんとか苦しい家計をやり繰りしながら生活していました。ところがPさん慢性腎臓病になってしまい、週三回透析しなければいけなくなってしまいました。病気の所為で仕事も辞めました。カナダでは保障人(配偶者以外の家族)を通して移民した人たちへは、10年を経たないと生活保護・障害手当てなどは下りません。これから家族4人、どう暮らしたらいいのかとお金に困ったPさんは、医療ソーシャルワーカーに相談してきました。


Conflict Theory(紛争理論)を実践


・・・とこのように、Conflict Theory(紛争理論)からはカナダ社会における非支配層である移民の搾取状況がPさんの例から見ることができるのですが、では、医療ソーシャルワーカーはConflict Theory(紛争理論)を使ってどうPさんのケースに対処したらいいのでしょう?


これ正直難しいです。Conflict Theory(紛争理論)は社会問題の根本を知る手がかりにはなるのですが、問題解決の方法は「闘争」以外ないのです。闘争によって支配構造を変えること、これが唯一かつ絶対なのがConflict Theory(紛争理論)における解決法なのです。でも医療ソーシャルワーカー1人でカナダ政府と闘争しても、Pさんの問題は解決しません・・・というか現実的ではありません。しかしマイクロ・メゾレベルで働く医療ソーシャルワーカーにもConflict Theory(紛争理論)を使って出来る手助けはあるはず。例えば・・・


PさんにPさんの問題はカナダの移民政策の構造的問題であることを理解してもらい、Pさん自身が持つ家族への申し訳ない思いを和らげ、問題意識を高める。


地元のインド系政治団体や移民支援NPOと連携して、Pさんが抱えるような移民特有の社会問題の啓蒙とサポート方法を模索する。


とこんな感じで、Conflict Theory(紛争理論)では患者さん本人への支配関係への意識改革、そしてコミュニティーでの問題提起・制度変革運動という思想的・政治的側面が強くなってしまうのが、この理論の強みでもあり、弱点でもあるのです。だってPさんが今一番必要なのは生活するための当面のお金であって、意識改革ではないと思うからです。結果として医療ソーシャルワーカーは以下のことをしました。


社会福祉局とPさんになんとか生活保護を出してもらえないか協議する

Pさんが在宅で透析でき、日中働けるよう、腹膜透析を患者さんとチームに勧める

保証人のPさんのお兄さんにPさんの援助をするよう頼む(それが、そもそも移民における保障人の役目だし・・・)


社会福祉局は、Pさんに生活保護は出せると言ったものの、ただその費用はすべてPさんのお兄さんに利息をつけて請求が行くそうで、結果、Pさんのお兄さんがPさんにいくらかのお金を援助する事となり、Pさんは腹膜透析に変えてパートの仕事をするようになりました。


結局、医療ソーシャルワーカーがConflict Theory(紛争理論)を使ってPさんの意識改革したことに意味があったのかどうかは分かりません。それでもPさんのような状況に陥る移民の患者さんが山ほどいることを考えると、やはり制度変革、社会啓蒙に患者さんや社会の意識を向けさせる意味は小さくないと思うのです。いずれこのような移民患者さん達が市民権を手に入れ、投票する権利を保持した時、自らの経験から現在の移民制度を変える力になる可能性もあると思うからです。そういう意味では、この思いっきりマクロで政治的なConflict Theory(紛争理論)も、医療ソーシャルワークの現場ではちょっとは使えるのかもね・・・と「闘争好き」な私は思いたくなるのでした。


それでは今回の第2回ソーシャルワーク講座も、分かったような・分からないような感じで終わらせて頂きたいと思います(笑)。

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