ソーシャルワーカーの資格認定と資格更新
カナダには10の州と3つの準州とがあり、それぞれの州にソーシャルワーカーの資格認定&更新を行う州公認ソーシャルワーカー協会があります。例えば、私が働くBC州では
British Columbia College of Social Workers (BCCSW) という州公認ソーシャルワーカー協会がBC州で働くソーシャルワーカーの資格管理を取り仕切っています。かつてはソーシャルワーカーの資格認定はソーシャルワーカーとして働く上での絶対条件ではなかったので、私も大学卒業後しばらくの間、協会費を払いたくないというだけのケチな理由で無資格のままソーシャルワーカーとして働いていました。そんな訳で当時は、NPOでも病院でも児童福祉でも、どこでも誰でもソーシャルワーカーとして働けていたのですが、「それではうちに会費を払ってくれる会員がいなくなるじゃないか!」と危機感を募らせた協会がついにお上に直訴。そしてつい数年ほど前に「ソーシャルワーカーと名乗るには、BCCSW協会からの資格認定を受けなければいけない」とBC州の法律によって定められたのです。(まーもちろんソーシャルワーカーの質の確保と地位向上という目的もあったのですが・・・ってそれが一番の目的か?)
この法律が施行されるまでは、ソーシャルワーカー協会からは「しんぺー様こんにちは、お元気ですか?今年もまた新たな年を迎え、会員更新の時期が来ております。しんぺー様におかれましては、どうぞ本年も当協会の御会員様としてご活躍されることをお祈り申し上げます。つきましては年会費250ドルほど頂きたいのですが・・・」なんて言うような下手に出た手紙が頻繁に届いていたのに、協会による資格認定が法律でソーシャルワーカーの必須事項・強制加盟となった瞬間、今まで遠慮がちだった手紙の口調が「来月までに会費を納めて頂かないとうちも困るんですよねぇ~。マジであんたの認定取り消すから。お分かりだと思いますが、認定取り消されるとあんた今後ソーシャルワーカーとして働けませんよ。どうなったって知りませんからね。んじゃーあしからず!」なんて風にガラリと変わってしまったことに私は大変驚愕したのでした。事の重大さに気づいた私が、すぐに250ドルの会費を払った事は言うまでもありません。「会員様~お願いします。会費払ってくださ~い」とヘラヘラしたお客様第一主義だった協会が、一夜にして「てめぇらーなめんなよ!」と高圧的な協会中心主義に変わるなんて・・・権力とはなんと恐ろしいものなのか、と、この法整備の件で私は思い知らされたのでした。こうして医療業界で働くソーシャルワーカーにはBCCSW協会からの資格認定が必須条件となりました。ただし、児童福祉のケースワーカーは、ソーシャルワークを学んだワーカー以外にも、心理学や社会学、家族学などの学位をもつワーカーも雑多いて、さらにその激務から常に人手不足の状態なので、今のところ資格認定は義務化されていません(でも、多分そのうち児童福祉ワーカーもソーシャルワーカー協会への強制加盟が義務化されるはず・・・)。
そうなると、一体ソーシャルワーカーの資格認定には何が必要なのか?という話になるのですが、それはズバリ・・・「お金です!」(年会費)。というのは冗談として(でもケチな私にとっては本気です)、まず第一に必要なのはソーシャルワーク・社会福祉の学位です。これはカナダ全土どこの州のソーシャルワーカー協会でも共通要項で、大学もしくは大学院でソーシャルワーク・社会福祉を学んでいなければいけません。またBC州に限っては、一昨年からソーシャルワーカー資格試験が導入され、新規会員は全員この試験を受けてパスしなければいけなくなりました。私の友人が最近大学を卒業し、このソーシャルワーカー試験(日本で言えば社会福祉士の試験に相当する?)を受けたのですが、その試験問題を聞いてビックリしました。だって全然分からないんだもん・・・ソーシャルワーカー経験が16年以上あるこの私にも(私だから?)。例えば問題の一つに「自閉症の子供に薬物療法が必要とされた場合、よく使われる薬は以下のうちどれか?」なんていう質問があったりして、あら!?ソーシャルワーカーってこんな事も知ってなきゃいけなかったんだっけ?
「あの・・・ソーシャルワーカーってどんな仕事をするんでしたっけ?」
と16年もソーシャルワーカーやってる私が新卒ペイぺイのソーシャルワーカーの友人に聞かなければいけなかったほど、私の中で信じていた何かが崩れ去った瞬間なのでした・・・なんてドラマチックすぎるが(笑)、でも正直「???私が今までやってきた仕事ってソーシャルワークだったの???」ってくらい試験問題が解けないんですよ。「だいたいこんなの学校で習ったっけ?習ってないよね?」なんて言う、アホな小学生がテスト問題が解けなくて隣の優等生に聞くお決まりの言葉が私の口からも出てしまうのです。いやいや、私これでも大学時代はオールAの優等生だったんですよ、いや本当に!だから、やっぱりこんな試験問題、学校で教えてくれませんでしたよ(涙)。
でもご安心ください。古参会員の私は、このような訳の分からないソーシャルワーカー資格試験なんぞ受けなくても良いのです(ラッキ~!)。っていうか、こんな試験古参ソーシャルワーカー達に受けさせたものなら、全員落ちますよ!(私以外にも)。そしてこれは調べて分かったのですが、どうやらこの試験問題、アメリカのソーシャルワーカー資格試験問題をそのまま流用しているそうなんです。どおりで分からないはずだ、だってカナダの大学ではこんな事教えないもんね!・・・と鼻息荒く、試験問題が出来なかった言い訳を必死でする私がここにいたのでした(笑)。ただし古参会員も資格更新を怠って一度でも会員資格を失ったら、再加入にはこの試験を受けてパスしなければいけないのです。ですから年会費は絶対期限までに払わなければいけなくなったのです!!!(って当たり前か?)
じゃー資格更新するにはどうすればいいのか?それはズバリ・・・「お金です!」(年会費)。なんだまた金か?と思ったあなた、その通りなんですよ。協会に毎年律儀に年貢を納める、これこそ協会が求めるカリスマソーシャルワーカー(資格認定済み)の姿なのです。しかしBC州に限っては、この年貢(年会費)の他に、数年前からCPD(Continuing Professional Development)と呼ばれる資格更新必須要項を設けたのです。これは何なのかと言えば、日本語では「プロの継続教育」、つまり「ただ毎日単調に仕事してるだけじゃなくて、ソーシャルワークに関する最新情報をチェックしたり、技術向上の努力したり、知識を高める活動もやれよ」という協会様からの温かい思いやりなのでした。でも根が腐ってぐうたら太郎な私には、「勉強、勉強ってうっぜ~んだよ。せっかくの休みぐらい寝かせろよ!」と将来を心配する親の気持ちも分からず反抗する子供のような気持ちになるのでした。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、BC州のソーシャルワーカー協会は、毎年40時間以上のCPD「継続教育」をソーシャルワーカー資格更新の条件として課しているのでした。
この年間40時間以上のCPD「継続教育」、その必須内容も協会によって細かく定められています。
個人学習 (例:論文を読む)最高15時間まで申請可能
職業関連学習(例:職場での講習参加)最高15時間まで申請可能
専門学習(例:ソーシャルワーカー会議や会合の参加)最高15時間まで申請可能
教育(例:大学講座・セミナー受講)最高15時間まで申請可能
倫理学習(例:同僚と倫理問題をディスカッション、倫理講座を受講)最低4時間以上
さらに、それぞれの学習に対する目標も書かなければなりません。
例えば:
目標「医療ソーシャルワーカーの業務に役立つ心理療法の理解を深める」
活動「認知行動療法のセミナー受講 3時間(教育)」
目標「医療における倫理問題への取り組み方を知る」
活動「C病院倫理講習かい参加 2時間(倫理学習)」
目標「ソーシャルワーカーの役割・仕事に関する社会的認知を広げる」
活動「日本人・日系カナダ人むけにブログを書く 100時間(個人学習)」(いいの!?)
それに加え、「今年1年を振り返って、どのように専門学習に取り組み目標を達成してきたかを、自分の言葉で1ページ以上述べよ」みたいな作文まで提出しなければいけないのです。めんどくせ~。でもこの作業を毎年行わなければ、資格剥奪されて仕事はクビ。次からは資格試験を受けなければいけなくなるのです。そんな事になったら、私はもう永遠に(資格認定された)ソーシャルワーカーには戻れないかもしれない・・・そんな恐怖から、毎年40時間費やしセミナーに行ったり、論文読んだり、ブログ書いたりしてるんです。作文だって頑張って2ページくらいは書いてるんですよ(涙)。お金だけ払って「はい、おしまい!」だった昔がなつかしい・・・あの頃よ再び!
な~んて文句ばかり言っているズボラな私なんですが、しかしこの強制資格認定&更新制度は、現職の私からすれば理にかなっている制度とも言えます。ソーシャルワーカーが世に認知されるには信用を得なければなりません。そのためには誰でも彼でもソーシャルワーカーだと名のられるのは本物(?)ソーシャルワーカーの私からしたら利益を損なわれる事となりますし、公共の立場からも「ソーシャルワーカーって一体何者なんですか?」と混乱をきたす事にもなりかねません。とくにソーシャルワーカーは社会的弱者の方々と働くため、クライアントの人権を守るためにも倫理についての理解が深くなければいけません。そういう意味では一定の教育と質の管理は必要ではあります。ただ、私が昔からソーシャルワーカーの資格化に今ひとつ乗り気でなかった理由は、ソーシャルワーカーという職業の理念と成り立ちにあります。そもそもソーシャルワーカーはGrass Roots 「草の根」運動から発祥しています。一市民として、自分と他者が関わる社会問題を一緒に変えていく、そしてそれを補助&リードしていくのがソーシャルワーカーの仕事・・・それが資格化され専門(プロ)化されていく中で、だんだんとソーシャルワーカーもエリート化されていき、ソーシャルワーカーと社会的弱者との格差・壁がどんどんと広がっていくのではないかと心配になるのです。いや、実際もうそうなってるんじゃないかと思うときも多々あります。私もうっかりすると患者さんに「どうしてそんな事も自分で出来ないの?」と上から目線で思ってイラついたりする時もあり、でもそんな時はたいてい自分基準で物事を見ていて、その患者さんがどういう社会環境でどんな人生を歩んできたのか、などということはすっかり忘れてしまっているのです。これこそソーシャルワーカーのプロ化の恐ろしいところ・・・いや、それとも私がプロとしてまだまだ未熟だからこそ、上から目線になってしまうのでしょうか?
まーそれでも専門化・資格化が今の流れで、さらに公共サービスの信頼と安全が何よりも重視される時代なので、やはり協会による厳格な資格管理は必要なのだと私も賛同いたします(・・・だからもうちょっと会費安くして 涙)。そんな訳で、私も去年分のCPDをやり遂げ、今年も無事ソーシャルワーカーの資格を更新したのでした。あ~よかった。考えてみれば私みたいな人にはCPDが強制されるくらいがちょうどいいのかもしれません。でなかったら、私、きっとセミナーとか講習とか面倒くさくて参加しないだろうし、論文なんてプライベートな時間に読むはずなどないからです。そういう意味では、ソーシャルワーカーとしての知識向上、学びの機会を与えてくれるBCCSW協会に・・・乾杯!(と褒めてこのブログを〆たいと思います・・・だって天下のBCCSW協会、怒らすと怖いから 笑)
おわり
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