元CAだったソーシャルワーカー


それは私です(笑)。


三月と言えば卒業の時期。大学を卒業し社会人になって仕事を始める。期待と不安の入り混じった気持ちを私も卒業時感じたものです。私は大学卒業時すでに実習先のNPO(非営利団体)での仕事が内定していました。幸運にも実習先の指導職員が転職する事となり、上手い事その後釜に治まったのです。ただ勤務先の団体は小さなNPOだったので、私の勤務時間は週30時間という実質パートタイムだったのですが、根が怠け者の私なので、こりゃちょうどええわい!という感じで逆にこのゆとりある勤務時間に大満足していたのでした。



卒業後の進路も決まり、意気揚々としていた私は、卒業旅行でもしようと航空券を調べていたところ「Looking for Japanese speaking flight attendants (日本語を話す客室乗務員募集中)」との広告を航空会社のサイトで見つけました。Flight Attendant…日本ではCabin Attendantを省略したCAと呼ばれますが、あちこち行けてなんだか面白そうではないですか!と好奇心が沸いた私はサックとオンラインに履歴書を載せて応募してみたのでした。



卒業旅行はバンクーバーから近場のカリフォルニアに行き、坂と霧の街サンフランシスコなんかを楽しんできたのですが、家に帰ってみたらHarmony Airwaysという航空会社から採用面接のお知らせが来てるではないですか。Harmony Airwaysってなんだ?と一瞬混乱したのですが、すぐに「あらま!書類審査に通ったんだ!」と旅行前に適当に書いてだしたCA応募に通った事を知ってビックリしたのです。しかし通常こんなすんなり物事が運ぶはずがありません。カナダだってCA職は人気があるのですから。でもお気楽だった当時の私は、なぜ私のダメダメ応募書類が審査に通ったのか?などと疑問に思うこともなく、ただ単純にラッキ~と思って、すでに面接に合格したような気でいたのでした。



明日は面接という日、あまり親しくなかった学部のクラスメートからメールが届きました。そこには「僕がHarmony Airwaysの面接官することになったから、明日しんぺーと会うの楽しみにしているよ」とあるではないですか。ん?え!?なぜ???と私、目が点になりましたよ。なぜソーシャルワーク学部のクラスメートがCA面接官をするのか・・・私が彼について知っている事と言えば、彼が社会人学生で仕事をしながら大学に通っていたと言う事。つまり彼の仕事はCAだったのか!?と思い至り、いや~なんて世界は狭いんだ!とこんな偶然に感心したのでした。さらに親切なこのクラスメートは「明日はグループ面接だから、Harmony Airwaysに関する質問事項をいくつか用意してきてね」とアドバイスまでくれたのです。そこで私やっと合点がいきましたよ、なぜ私の応募書類が通ったのか・・・多分、彼が尽力してくれたお陰なんですね。ホント感謝です。でもこれって典型的なカナダの就職事情でもあるのです。カナダで仕事を得るために必要なもの、それはズバリ・・・コネ!人との繋がりが就職に直結するのがカナダ式就活なのです。それでも頼まれたわけでもないのに、特に親しくもない同級生の私をさりげなく助けてくれたこのクラスメート、さすがソーシャルワークを学んだだけあって優しいな~と思ったのでした。そしてその後、「ソーシャルワークを学べば優しくなるのか?」と自分に優しく他人には厳しい我が身を省みてちょっと落ち込んだ私なのでした。



さてグループ面接当日。10人ほどの受験者が一部屋に集められ、まずは自己紹介。「あなたの名前の意味について教えてください」という質問。これ私の得意分野です(笑)。「私の名前はしんぺーです。両親は呼びやすい名という理由で選んだそうですが、ここカナダでは発音しにくいみたいで、シャンプーとかシュリンプとかシャンペンなんてよく呼ばれます。でもシャンペンって呼ばれるのは高級感があって好きなので、私のことシャンペンって呼んでください!」と言ってとりあえずベタなウケ狙い。でもそこそこウケました(笑)。そう、グループ面接では大勢の中に埋もれないよう顔を覚えてもらう事が肝心なので、ささやか(?)にアピールしてみます。その次は「客室乗務員の仕事においての優先順位を話し合え」みたいな課題が出て、定時運行、安全確認、サービス、みたいな項目の中から優先順位をグループで合議して決める事となりました。こういうグループディスカッションってそれぞれの性格が出るから面白いんです。リーダーになる人、実務主義で時間内に結果を出そうと頑張る人、喋るのが好きな人、聞き役になる人、反対意見を出すのが好きな人(私)、などなど。でもこれはあくまでもグループ面接。優先順位なんかよりも面接官はそれぞれがどう話し合いをまとめてチームワークを発揮するのかをじっくり観察しているのです。抜け目のない私は、一番無難で好印象をもたれるファシリテーター(Facilitator)の役をする事に決めました。ファシリテーターの役割はみんなの発言内容を整理し、ディスカッションが円滑に行くように手助けする世話人。これってソーシャルワークのグループワーククラスでみっちり訓練されたから得意だもんね~!という感じで、「けんけんごうごう」ヒートアップするディスカッションを尻目に見ながら、「それでは皆さんの意見をまとめると~」とか、「○○さんの意見はなかなか興味深いと思いますが、みなさんはどう思いますか?」とか、「△とXの二つの優先順位がなかなか決まらないのですが、とりあえずいったん置いといて他の項目を見てみるのはどうでしょう?」なんて言う「いいとこ取り」するずるい人に私はなったのでした。グループ面接に生き残るためにはなんだってするんですよ私。という感じでグループ面接を姑息に順調にこなしていった私には、勝利を決定的にするための最後の決め玉があったです。



そしてその時は来ました。「それでは皆さん最後にハーモニー航空について質問はありますか?」と面接官が受験生に聞きます。「どうして航空会社なのにハーモニーなんてダサい名前付けたんですか?」なんて質問は間違ってもしてはいけません。その代わり「私はソーシャルワークを勉強したのでハーモニー、調和という言葉が好きなんですけど、どうしてハーモニーという言葉を航空会社の看板名にしようと決めたのですか?」なんていう臭い質問をするのが正解です。さらに私は練りに練ってきた質問を落としました。「私には祖母がいて、私の卒業式に出席するため、はるばる日本からカナダまで来ようかと考えているのですが、でも祖母は高齢なのでちゃんと飛行機に乗ってこれるか不安に思っています。ハーモニー航空では高齢者や体の不自由な方のためにどのようなサービスを提供しているのでしょうか?」と人の心に訴えかけ、なおかつ「私優しくて気が利くんですよ」アピール満載の完璧な質問をしたのです。そしたらまんまとのってきましたよ~。採用部長がこの質問に反応して意気揚々と語り出しましたよ。やった~大成功!もちろん、それだけじゃなく、本当に航空会社が体の不自由なお客さんにどんなサービスするのか知りたいって気持ちもありましたよ・・・嘘じゃなく!汗



という訳で無事グループ面接通過!これで晴れてCAに!と思った私は甘かった。面接はこれだけじゃなかったのです。この後「日本語面接」、そして「個人面接」とパスしなければならず、そして最後は社長との面接。このハーモニー航空、実は個人経営だったんです。なんでもマカオ大富豪の(馬鹿)息子が趣味で立ち上げた会社らしく正真正銘のワンマン経営。その社長との面接は・・・最低でした。っていうかマナー悪すぎ。人事部長が同席する場に現れた社長。私が人事部長に聞かれた質問事項に答えてる最中、社長はとつぜん立ち上がったかと思ったらキャビネットの中から肉まんを取り出し、電子レンジにかけ、席に座り直すと私の目の前で食べ出します。「もしかしてこれも意図的にやって私の反応を見ようとテストしてるのか!?」といぶかったのですが、肉まんを食べ終わると社長・・・イビキかいて寝始めましたよ!私まだ面接中なんですけど。一体どうすればいいんでしょう?と戸惑っている私に人事部長は「今日はどうもご足労おかけしました。どうぞお帰りください」と面接強制中断。せっかく最終面接まで行ったのに・・・グググ。と悔しさで気落ちして帰ったらまさかの合格通知。意味分からね~と思いましたが、でも無事にCA採用されたのです。後に聞いたところでは、16名の募集に600名もの応募があったとか。凄い倍率。そんな競争に勝ち抜いた凄い私・・・ではなく、凄かったのはクラスメートの力(笑)。コネがなかったらきっと落ちていたことでしょう。でもコネも実力のうちなのがカナダ社会なんですよ!!!(と強がってみる)。



その後、卒業と同時にCA訓練が始まり、まるまる1ヶ月安全に関する試験試験の日々。大学出たてで脳みそ柔らかかった当時の私でさえも大変だと思った訓練。落ちたらクビだし、ヒヤヒヤでしたが、そんな訓練を一緒に受ける同期とは深い絆で結ばれお互いに支えながら訓練も日々の乗務も乗り切ったのです。訓練をパスしてのぞむ初フライト・・・最悪でしたよ。担当のパーサーがこれはもうヒステリックな人で、超がつく新人だって知ってながら私がミスするたびに「訓練で習わなかったの!」と叫ぶのです。でも訓練は安全事項ばかりでサービスは実地で学べ!の方針だったので、当然私は右も左も分からない新人CA。コーヒーがどこの棚にあって、どうやってコーヒーメーカーを使うのかさえもしらないのです。そんな私にヒステリック攻撃が続くと萎縮してますますミスをするという悪循環に陥ります。乗務後は本気で(怒り)泣きしそうになりましたが、「本日は大変ご迷惑をおかけしました。ご指導ありがとうございました」とチーフに挨拶し、でも心の中では「新人いびんじゃねーよ!くそババァ~!」と叫びながら飛行機を降りたのでした。次の日、私は人事部長に「私この仕事向かないと思うので辞めたほうがいいかもしれません」と話してみました。そしたら人事部長もビックリして「まだ初乗務終わったばかりなんだから心配しないで」と慰めてくれ、そして「チーフは誰だったの?」と聞いてきました。しめしめ作戦通りだ・・・などと汚い思惑が私にあったはずもありません(笑)。でもせっかく訓練したCAが一日で止めて貰ったんでは会社は困ってしまうので、その後チーフが呼び出されたことは言うまでもありません。



その後は、仕事にも慣れてきてイビられる事はなくなったのですが、でも毎回ワンパターンな仕事内容に半年もしないうちに飽きてきました。おまけにチーフによっては結構細かい事を叱られてうんざりもします。例えば、食事を配るタイミングが遅い!と言われたのでパッパと準備して食事出したら、食事配るタイミングが早すぎる!と叱られたり、飲み物サービスで一度か二度飲み物用ナプキンを出し忘れたら「飲み物サービスの時にはナプキンもってきなさい。何度言わせれば気が済むの!」なんて大げさに言われたりして、まるで私が仕事の出来ないCAみたいじゃないですか!そんなある日、私が担当したセクションの乗客が、私にではなくチーフに「機内食が凍ってる」とクレームをつけ、ギャレーと呼ばれる調理室に呼び出された私。「ここのギャレー、調理担当は誰だ?」と私に聞くチーフの男。(あんたチーフなんだから私がここのギャレー担当だって知ってるよね!)と思いながらも「私です」と答える私。「あそこの乗客の機内食凍ってたぞ!」と怒るチーフ。「あ、どうも済みませんでした。オーブンの調子が悪いのに気が付きませんでした」と謝る私。「俺に謝るな。そんなミスした自分自身に謝れ」などとのたまうのです。この時私の中で何かがブチっと切れ、もう辞めてやるぅ~!って感じで、着陸早々辞表届けを出したのでした。



こうして私のCA生活は6ヶ月という短命に終わりました・・・



でも今考えてみれば、私はただのダメダメ新人CAで、プライドは高いけど打たれ弱い典型的な新卒社会人だったのでした。神経もずいぶんと図太くなった今なら、もっとリラックスして、もっとCAという仕事を楽しめたはずですが、当時はなんでもかんでも真剣にとりすぎて、ストレスばかりを溜め込んでいました。ちょっと叱られたくらい「あ、そっか、ゴメン」程度で流せばいいものを、まるで全人格を否定されたみたいに受け取ってしまった当時の私。今から思えば若かったんだな~と懐かしい気持ちになります。ま~それだけ真剣に仕事に取り組んでいた証でもあるのですが。しかし仕事を続けるためには、ある程度の適当さというか気持ちのゆとりのようなものが必要であることも40になると分かります。ただ当時はCAの仕事に加え、NPOでの仕事も同時にやっていたので、週60時間くらい働いていて、怠け者の私には限界を超えた労働時間。おまけにCAの仕事は肉体労働なので、肉体的にも精神的にもクタクタだったのもCAという仕事を辞めてしまった理由でもあります。ま~このお陰で、私がソーシャルワーカーという仕事一本に集中できることにもなったので、結果的には吉と出た決断でもあったんですが・・・



ただ医療ソーシャルワーカーという仕事にズッポリ漬かっている今、むしろソーシャルワーカーとはまったく関係ないCAみたいな仕事を副業でしたほうが、どっちの仕事にも飽きが来ず、バランスが取れて仕事ライフがもっと充実するじゃないかな~とも思うのです。でも現実、そんな上手く二つの異なる仕事ができる機会や環境なんてないんですけどね。とくに最近私はソーシャルワークという仕事に飽きというか、燃え尽き気味なので、「なんかまたCAやってみて~な~」なんて現実逃避気分にもなってしまうのです。なんか違う事をやってみるって、本命キャリアを長く続ける上で必要かもしれないですね。違う事をやってみることで、案外ソーシャルワークって自分の天職だな!って思えるかもしれないし、逆に、ソーシャルワーカーよりこっちの仕事の方が面白いじゃん!ってなったらキャリアチェンジすればいいんだし、どっちにしても有益かもしれない、と最近思う私は、そんな理由から日本に一年間住んで働いてみようと思うのです。



PS 凍った機内食は食べても大丈夫ですよ。だって一回すでに調理されて冷凍されているから・・・少なくとも私が働いていた今は無きHarmony Airwaysではそうでした。って凍った機内食食べた事ないけどね。 笑

(若かりし頃の自分・・・証拠写真です 笑)

カナダでソーシャルワーカー Social Work in Canada

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