今年は厄年なのか!? 後半

前回からの続き・・・


理学療法で見栄を張ったために腰痛が悪化し、勤務先C病院の目の前で野垂れ死ぬ寸前だった私。病院正門前で救急車を呼ばなければならないほどの激痛に耐えつつ30分も待ったのに一向に現れない救急車。C病院における「救急」車の定義とはなんぞや?もしこれが心筋梗塞だったら間違いなく死んでるぞ!と憤慨しつつも、這いつくばるようにしてなんとか辿り着いた緊急外来・・・そこでは4時間の待ち時間(涙)。失神寸前の激痛と戦いながらついに手に入れた1週間分のモルヒネと、これまた1週間分の病欠診断。そしてそれから1週間後、なんとか腰痛から生還したかに見えた私だったが・・・・・



↑の事件から一週間後、本当にあのビビビビビビビ!!!と襲った痛みが嘘のように落ち着いたのですが、でもまだちょっと痛みはあるので右足はびっこを引いて歩いていたのです。でも痛みはコントロール出来るようになってきたのに、いつまでたってもびっこのまま。あれ?なんかおかしいぞ?そう思った私は歩きながら右足を注意深く観察してみます。すると右足が上がっていないのです!左足と指はピンと上を向くのに、右足も指もその半分も上がりません。おまけに左足は力強く蹴りあがるのに、右足はペッタンペッタンと力なく動いています。おまけに右足を触るとなんか異物感がある・・・ん?あら?あれれれええ~!!!とビックリした私がしたこと、それは・・・グーグル様にお伺いを立てることだったのでした(笑)



過去ログで何度も私は書いてきたのですが、体調の悪いときのグーグル検索ほど恐ろしいものはありません。なぜなら自分が聞きたい「楽観的」情報よりも、聞きたくない「悲観的」情報の方がたんまり豊富にあるのがグーグル検索というものだからです。今回も例に漏れず「腰痛+足が上がらない」と検索すると「下垂足」というキーワードが出てきて、「もっと足が垂れ下がるかもしれません」「もう元には戻らないかもしれません」「緊急手術が必要です」などなど頭がワンワンするようなショッキングな情報が次々と出てきます。そうなるともう検索は止められなくなり、「1つの楽観的情報を探すために1000の悲観的情報を見つけ出す」という泥沼に落ちていくのでした。だいたい絶対やっちゃダメだって分かっているのに、延々と検索を続けては落ち込む私。こんな理性の歯止めが利かない私は一体どうしたらいいんでしょう?誰か教えて!グーグル検索しなきゃ・・・涙



そんな訳で大パニックに陥った私なのですが、ありがたいかな、周りの友人達はこんな私に慣れています(というか呆れている?)。「シンペー落ち着いて。とりあえずドクターに相談ししなよ?」と至極最もなアドバイスをくれました。でもパニクっている私は「でも、でも、グーグル様はもうぜったい治らないって言ってるから今さらドクターに相談したってどうしようもないんだぁ~」と大騒ぎしてドラマッチックになっています。これがもし私の担当の患者さんだったら「あ~あ、もうちょっと頭冷やしてから話して欲しいな~」とウザッたく思い、そして「はいはい、大丈夫ですよ。とにかくドクターとお話しましょうね」って適当にあしらうのですが、しかし、今回は私が対象者なので、もちろんそんな余裕はありません。むしろ正統派御意見を否定してかかるほど歪んでしまった私の認知。それでもこのままじゃ不安神経症が再発してしまいそうだ・・・という危機感は感じたので、ここはとりあえずドクターに相談するしかないと、散々友人達相手に騒いだ後に思い直したのでした。「やっぱりここはネットなんかに頼るより専門家の意見をきちんと聞いたほうがいいと思うからドクターに相談してみることにしたよ」とさも自分で思いついたかのように友人達に報告したら「だから、さっきからそう言ってるだろぉ~!」と皆からの一斉ダメだしを食らってしまったのでした。



日本だったらきっと医者がさっさとMRIに廻してくれるんでしょうが、カナダはそうサクサク物事が進みません。相談の結果、やっと私のドクターもMRIを紹介してくれたのですが、患者さんの中には「MRIもう8ヶ月も待ってるんだよ」なんて言う人もざらにいる世界なので、こりゃしばらく待たされそうだなぁ~と思っていたのですが、なんと2週間以内にMRIをさせてもらうことが出来たのです。ラッキー!しかし、MRIは今回人生で2度目だったのですが、私、もしかして閉所恐怖症の気もあるのかもしれません。ゆっくりとMRIの穴の中へ入っていくときは、目をつぶっていて平気だったのですが、技師の人から「はい、そのまま目をつぶっていてください。その方が楽ですよ~」と言われた瞬間、目を見開いた私・・・「あぁぁ~!そんな風に言われたら絶対目開いちゃうじゃん!気が利かないな~」とアマノジャクな私は親切なアドバイスをしてくれた無垢な技師を(心の中で)責めるのでした。そして目を開けた先に広がる狭い空間に思わず呼吸が荒くなります。やべ~心臓もドキドキしてきた・・・こんな狭い洞窟に30分も入っていられるのか!?握らされたパニックボタンを速攻で押したくなる気持ちを抑えながらジッとします。落ち着けシンペー、何をそんなに恐れているんだ?と自分自身を奮い立たせます。ナニヲオソレテイルンダ?・・・だってもし今大地震が起きてここに取り残されたら?大地震で建物が崩れてここに閉じ込められたら?停電になって動けなくなったら?あぁぁぁぁぁぁ!!!と逆効果でした。とにかく意識を他に集中させないと、と思った私はギッコンガッコンガンガンとMRIからうるさく出る音に神経を集中させることにしたのです。するとどうでしょう?なんだかこんな音でも心地よく聞こえてくるではないですか。気が付けばグガ~とうたた寝して、そして一件落着。そんなMRIから見つけ出された腰痛の原因は・・・「椎間板ヘルニア」それも超巨大2cm級です!



どうやら私のヘルニアは腰の脊柱L4-L5から大きく右に飛び出ちゃっているようで、それがL5の神経を圧迫していて右足に麻痺を引き起こしているのだそうです。でも専門医が言うには、痛みが引いたという事は、飛び出たヘルニアを体内のマクロファージが食べ始め、少しずつ小さくなっている証拠だから手術はしないで保存療法でいきましょう!という事でした。保存療法・・・つまり痛みのある時は薬で抑え、あとは定期的に理学療法でリハビリを行い、ヘルニアが縮んで神経の回復を待つということなのです。でも同時に、神経の回復速度は1日1mm(ミリ)だから、右足の麻痺が回復して力が戻るのは、まだまだ何ヶ月もかかるでしょうね、とも専門医は言うのです。え~これがまだまだ数ヶ月も続くの!?ガッカリしたけど、でも手術は必要ないと言われてホッともしました。ま~それでもあまりビックリもショックも受けませんでしたね。だって私がグーグル検索で調べたどおりの診断でしたから、わははは(笑)。



しかしこの右足の麻痺。私的には結構つらい思いをしています。ついこの間まで、ガンガンとランニング出来てたのに、今は走る事はおろか早く歩く事も出来ません。いやそれどころか、普通にも歩けません。右足が麻痺して初めて、歩くという事はものすごい複雑なシステムなのだと気が付いた私。例えば、ほんの少しの傾斜。今までだったら意識もせずスタスタ歩いてました。しかし右足の動きがぎこちない今、まるでおんぼろマニュアル自動車のギアを変えるように、歩き方を変えなければなりません。そして歩き方を変える時、一瞬ガクんと膝が折れそうになって、そしてユックリとしか傾斜を上ることが出来ないのです。平坦な所に辿り着いたら、今度はまたガクんとギアチェンして歩き方を変える。上ったり下がったりするような道が続くと、ガックンガックンしてすごい疲れます。歩きなれた職場への道、こんなに傾斜きつかったっけな~?と思うほど、些細な傾斜でもまるで山道を登るかのように感じられるのです。今までこんな事意識しなくても歩けたなんて、それ自体がまるで奇跡のように感じられます。



私は今まで周りから「死に急いでる」と言われるほどの早歩きの人でした。目の前に歩いている人がいると抜かさずにはいられない気性(?)を持っていて、とくにトロトロ歩いている人を見るとイライラして煽り歩き(?)をしてしまうほど「死に急いで」いた訳なのですが、そんな私が右足麻痺で跛行するようになり、歩く速度は通常時の30%ほどになってしまった今。まさに私こそ、ノロノロ歩く人になってしまったのです。こうやって足を引きながらゆっくり歩いていると今まで見えてこなかったものが見えてきます。まずは段差。これが世の中まぁ~沢山あるんですよ。ほんと何度もつまずきそうになって、下ばかり見ながら歩くようになり、視界が狭くなりました。そして抜かされることの屈辱・・・いや屈辱は言いすぎか(笑)。どちらかと言うと寂しい気持ち?とくに繁華街を歩いていると、人々が次々と私を追い抜いていきます。こんな経験は早歩きだった私には初めてです。どんどん抜かされて、そしてとうとう最後には杖をついたお爺さんに抜かされた時はさすがに心が折れそうになりましたよ。あ~あ、なんだか世界から取り残されていくようだな~・・・と世の中から出遅れたような、はじかれたような気持ちになって落ち込みます。こんな事、スタスタ歩いているときは思いもしなかった。でもこんな思いをしている人はきっと沢山いるに違いない!とここで初めて実感した私。これはソーシャルワーカーとしては貴重な気づきです!でも凹みます(笑)。



この右足麻痺も、調子の良い日と悪い日があって、仕事なんかで疲れが溜まると右足の力が一気に弱くなって、平地を歩くのでさえまるで雲の上を歩いてるかのごとく頼りなく、ガクガクして歩ける距離も縮まってしまうのです。こんな日は疲れのせいと、歩けないせいで、気分もすっかり滅入り、そしてまたグーグル検索に戻って「あなたの跛行は一生治らないでしょう」といった記事ばかり読むことになるのです。1週間経ったら、2週間経ったら、3週間経ったら良くなるだろうと自分に言い聞かせていたのに、ぜんぜん変化を感じられない3週間。ついにプチ絶望期に突入しました。「この前まで走れたのに!スタスタ歩けたのに!旅行にも行けたのに!ジムでのおばちゃん対決にも勝利してたのに!(過去ログ参照)これじゃーもう何も出来ないじゃないか!うぎゃ~!」とまるで癇癪を起こした子供みたいにワァァァァ!!!と頭の中がなりました。こうなると友人や同僚から「どうしたのびっこ引いて?大丈夫?」と心配されるのも腹が立ちます。フン!どうせ私はびっこ引いて歩いてますよ・・・と卑屈な思い、「弱み」を見られた気がして恥ずかしい思い、そして同情されたようで悲しい思いがこみ上げてきます。あ~もうこのまま家で引き篭もっていたい・・・そんな気持ちまで沸いて来ます。そして最後には「なんでこんな事が起きたんだ?なんで私なんだ!?」と虚しく自答するのでした。変なストレッチをして腰を痛めた後悔がこみ上げ、そしてこんな目にあってしまった自分が自分で可哀相になります。あらら・・・なんてカッコ悪い自分・・・



そんな中、私は一人の患者さんに呼び出されました。「シンペーさん、悪いんだけど来週から私リハビリに行かなくちゃならないからバスの手配してもらえるかな?」と頼まれたのです。この80歳のおばあちゃんは、半年前に足の壊死で右足を膝上切断し、来週から義足を付けてのリハビリに入るのです。私はおもわずハッとしました。(あ、そうだった、私この患者さんを励ましてたんだっけ)。半年前彼女が足の切断を決意したとき、「時間はかかりますが絶対義足で歩けるようになりますよ。それに車椅子だって使えるし、電動車椅子を使ったら家から透析まで楽に通えますよ」と言って励ましていました。そしてこのおばあちゃん「この義足そっごい重いけど、がんばってリハビリするよ。歩けるようになれば生活ももっと楽になるし、自立して過ごせるしね!」とリハビリへのやる気満々です。私、涙が出そうになりましたよ、ホント自分の馬鹿さ加減に(おばあちゃんの前向きな姿勢にじゃなくて!?笑)。おばあちゃんは足を切断しても義足で歩く事を目標に頑張ろうとしているのに、足があって歩けるのに凹んでる私。なんだか変だ。さらに私はグーグル検索をする中で、競技中の事故で下半身麻痺になったアスリートが5年かけてのリハビリで歩けるようになったブログを偶然見つけました。そこには「5年間の辛いリハビリの結果、やっと跛行だけど歩けるようになった」と自力歩行できるようになった喜びが綴られています。そして跛行してる自分を嘆く私・・・・・・



その時ひらめきました。あ、そうか!私の気分が落ち込んでたのは、出来なくなった事ばかりに集中して、「まだ出来る事」に注意を払ってなかったからなんだ!とおばあちゃんのお陰で目からウロコが落ちました。例えば、走れなくても、泳ぐことも自転車に乗る事も出来るし、跛行でだって旅行はいけます、それに別に早く歩かなくたって困ることはとくにありません。仕事だって普通に出来るし、ご飯も美味しく食べられる。まだまだ出来る事は沢山あって、楽しい事だって今まで通りできるんじゃんか!とよく考えれば分かる事なのに、出来ない事ばかりに囚われたが為にパニックに陥ったアホな私。でもこの「気づき」は私にとっては大きくて、今までいかに自分がソーシャルワーカーとして薄っぺらかったのか、という事にも気が付きました。自分ではちゃんと患者さんの困難に共感し、理解し、励ましているつもりだったけど、とんでもなく尊大で思い上がっていたんだな~と、今回自分自身がちょっとした困難に直面しただけで凹んで卑屈になってしまったことからも思うのでした。まったく恥ずかしいです。



そんな訳で、最近はやっと気分の波はあるものの前向きに右足麻痺にも付き合える(?)ようになれ、グーグル検索する機会も減ってきたのでした(っていうか検索しつくしてこれ以上出てこない 笑)。そのお陰か、右足に少し力も入るようになり、歩くのも少しずつ楽になってきたような気がします。1日1mmの回復の成果なのか、それとも気の持ちようなのか、それは定かではありませんが、しかし気分が落ち込んだときは「歩ける事の喜び」を再確認するようにしています。そして周りの人が心配そうに「足引いてるけどどうしたの!?大丈夫?」と聞いてくるときは、「あ~なんてみんな優しいんだろう」とこんな私を気にかけてくれてることに感謝するように意識を向けます。だってどうでもいい人だったら、そんな人の歩き方なんて一々気にしないだろうしね。そう!すべてはCBT「認知行動療法」なのです!ってお前一体何年CBT人様に教えてるんだ!?という怒号が聞こえそうですが、こういうセラピーは自分自身に使うのはと~っても難しいんですよ、と言い訳するトホホなソーシャルワーカーがここにいるのでした。

おわり・・・(いや、「つづく」か!?)


(↑今の私の歩き方)

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