3年B組シンペー先生「大学で講義をする!」
前々回くらいの記事で、日本全国津々浦々の大学に私の履歴書を送りまくった話をしたのですが、結果はご存知の通り大玉砕。日本全国の大学のほとんどが私に興味を持ってくれなかった中(なぜ?涙)、それでも奇特な大学の何校かが私の履歴に関心を持ってくれた事は奇跡と言っても過言ではないのかもしれません。さらにありがたい事に、そんな数少ない大学校から私はゲストスピーカーとして招かれ、「カナダにおける医療ソーシャルワークの現状」と言うお題で講義をさせて頂く事となったのです。う、嬉しい!
ついに念願の日本の学生との交流。一体どんな事を話そうかな〜と心躍る私なのですが、さていざ講義内容を考えると、話したい事がありすぎてまとまりません。「カナダにおける医療ソーシャルワークの現状」・・・そもそも皆んなカナダについてどれだけ知っているんだろう?
私が日本で大学生だった頃、私はずっとアメリカの大学に交換留学に行きたいと思っていました。なぜって?それは「アメリカがカッコいいと思っていたから!」なのもあるのですが、正直、アメリカ以外の海外について何も知らなかった、と言うのが本当の理由だったように今なら思えます。しかし当時の私のTOEFULの英語点では、留学先のアメリカの大学は全て不可で、唯一行けそうだったのがカナダのUBC(ブリティッシュコロンビア大学)。当時カナダについて私が知っている事と言えば、メープルシロップ、ロッキーマウンテン、そしてスモークサーモンの3つ。あとは地理で習ったカナダの公用語は英語とフランス語。首都はトロントじゃなくてオタワ。って言う基礎知識のみ。そしてなぜか当時の私の頭の中ではカナダはアメリカの一部だという思い込みがあり、「カナダか〜・・・まぁアメリカの田舎版だけど、しょうがないからここにするか」というなんとも不敬な気持ちでUBCまで留学に行ったのでした。
カナダ文化にすっかり毒されてる(?)今の私が当時の私を見たら、「カナダ舐めんなよ!お前みたいのはアメリカに行け!シッシ」ってやってしまうに違いありません。だってカナダ人にとってアメリカはライバルみたいなもん。アメリカやアメリカ人と間違えられる事はカナダ人にとって屈辱以外の何者でもないのです(言い過ぎじゃなくて本当に・・・)。
という訳で、私の講義ではまずはカナダについてお話しする事に決めました。
具体的には:
*カナダの地理
*カナダの歴史
*カナダの黒歴史
の3点を簡単に教えて、生徒の皆さんにカナダってどんな国なのかを知ってもらう作戦です。特に「カナダの黒歴史」はカナダでソーシャルワークをする者には必須の知識なのでとっても大切です。じゃーカナダの黒歴史ってなんだよ?って事なんですが、それは「カナダネイティブ(先住民族)への抑圧の歴史」。カナダって世界的にもクリーン、清潔(同じ意味か?)、民主人道的、多文化主義って感じのとても良いイメージがあり、ま〜あながち間違っていない素晴らしい国なのですが、しかし、こと先住民族に対する扱いにおいてはクリーンどころか真っ黒です。カナダは16世紀頃から西洋人が本格的に入植し始めます。西洋人が入植する以前から何万年とカナダの地で狩猟生活をしていた先住民族は、西洋人の入植に伴ってヨーロッパからもたらされた疫病に晒されたり、虐殺にあったりして、多くの人が命を落とします。さらに1876年に施行されたインディアイン法によって先住民族の人達は政府によって決められた不毛な居住地に住まわされ、管理される事になったのです。狩猟生活をしていた彼ら彼女らの生活は一変し、政府から支給されるなけなしの手当を受けながら何もない土地で生活する事になりました。仕事も碌にないような不毛な地での生活は当然ながら豊かなものではありません。さらに子供達の生活向上の名のものと、先住民の子供達は積極的に親元から離され、白人家庭に養子に出されたり、寄宿舎学校に入れられたりしました。これは所謂「同化政策」というもので、先住民族から文化と言語を奪い、英仏文化への同化を図ったものなのですが、この過程で当時のソーシャルワーカー達が積極的に活躍します(悪い意味で)。
ソーシャルワーカー達は先住民コミュニティーに乗り込んでは子供達を親元から引き離し、次々と白人家庭や寄宿舎学校に送り込みます。結果どうなったか?先住民の子供達は部族の言葉が話せなくなり、また文化的知識も欠落してしまった為に、大人になってコミュニティーに戻っても親とも会話が出来なくなり、またコミュニティーにも馴染めないという状態になります。だからと言って一般社会でも「無知なインディアン」として差別を受けるのでここでも受け入れてはもらえません。そうなると必然的に先住民の子供達は貧困や差別に苦しむ事となります。さらに、多くの先住民の子供達が入れられた寄宿舎学校では、日常的な教師からの肉体的・精神的・性的虐待が蔓延していた為、多くの子供達が虐待のトラウマを抱え、それがメンタルヘルス、薬物依存、DV、自傷行為という形で後々大きな影響を及ぼす事になります。寄宿舎制度が完全廃止になったのが1980年代後半なので、まだまだ多くの先住民の方達はトラウマを抱えて生きています。
もちろん当時のソーシャルワーカー達も、先住民の子を苦しめようとしていた訳ではないと思います。純粋に子供の為になると信じ、子供達を親元から引き離したのでしょう。しかし結果的には先住民の方達にトラウマを植え付ける事となり、それは今現在多くの先住民族の方達が貧困、暴力、薬物依存、メンタルヘルス、自傷他傷行為に苦しむという形で社会問題化しているのです。そういう意味で、このカナダの黒歴史はカナダでソーシャルワークをする者は絶対に知らなければいけない、過去の過ちを肝に命じなければいけない歴史なのです。そして実際、ソーシャルワーカーが関わるクライアントの多くは残念ながら未だもって先住民の方達なのです。
と長々カナダの黒歴史を話してしまったのですが、これだけは講義から除けません。
ま〜これだけ話せばカナダについての基本情報は分かってもらえるでしょう。
では次は何について知ってもらおうかな?
それはもちろん、ムフフフ、私について!
という訳で、第2部は私について語らせてもらいますよ。
具体的には:
*シンペー様の御学歴について
*シンペー様の御職歴について
*シンペー様の今後の御予定について
の3点についてしつこく・・・じゃなくて、入念に理解して頂きたいと思います。
っていうか、きっと「こいつ誰だよ?」って序盤から胡散臭く学生から思われるはず(?)なので、「ワタシ偽物ジャナイヨ」という事を信じてもらう為に私の履歴も紹介しようと思ったのでした。さらに、私の履歴、特に職歴は、カナダの医療ソーシャルワーカーにおいては典型的職歴なので、それも学生達が「カナダのソーシャルワーカー」を理解する上で役に立つんじゃないかと思ったのです。え?別に自慢するつもりはないですよ・・・でもパワーポイントで大袈裟にまとめてみたら、うむうむ、なかなか私のキャリアも立派なものじゃないですか〜。私、この第2部やるのが一番好きかも(笑)
いやいや、私の話ばかりしても学生は退屈してしまいます。という訳でいよいよ本題の第3部!「カナダの医療ソーシャルワーク」について語って行きます。
ここでは:
*カナダの医療・福祉制度について
*カナダの高齢者福祉サービスについて
*医療ソーシャルワーカーの役割
という感じで、カナダの医療福祉制度についてまとめて、日本の制度との違いを比較します。特にカナダは医療費全額タダなので、その点で医療ソーシャルワーカーの役割も日本とは若干変わってくる点もあると思います。さらに医療現場におけるソーシャルワーカーの数も、カナダの方が圧倒的に多いので、その分ソーシャルワーカーの職域においても、日本とは大分異なのではないのでしょうか?
そして実際のカナダでの医療ソーシャルワーカーの役割を理解する上で欠かせないのが事例研究(ケーススタディ)です。ケースを語らずして、いかにソーシャルワーカーの仕事が理解できようか?ってくらい、社会福祉学部ではケーススタディを使って勉強するものなのですが、私も例に漏れず、いくつかのケースを用意しましたよ(私が今まで経験したものを基に)。
ケース1:透析治療中止に関わる家族問題の事例
ケース2:看護師と患者さんとの争い仲裁事例
ケース3:私個人に向けられた患者さんからの人種差別事例
ケース4:先住民族とソーシャルワーカーの関係事例
ケース5:アジア系患者さんとその家族間の男尊女卑文化への対応事例
・・・とカナダ特有とも言える多文化社会に焦点を当てたケースを使って、どのように医療ソーシャルワーカーは様々な価値観や文化的背景を持った人達と仕事をするのか?というのを学生さんと意見交換しながら理解していく、というのを目的にケースと質問を作ってみました。このブログを隅々まで読んでくださってる皆様なら、もうある程度どんなケースを使ったのか想像できるんじゃないでしょうか。ケーススタディには「これだ!」って答えはありません。ソーシャルワーカーが1000人いれば、1000通りの答えがあっても不思議ではないのです。なので、私はこのケーススタディを学生さん達とやるのがすごく楽しみです。だって「あ、そうか!そんな風に出来たのか!」と私自身もケーススタディを通して新たな発見ができるからです。そして実際、このケーススタディを学生達とやってみて、私自身、目から鱗が落ちたのでした。それは次回に!
さてここで大問題発生!ま〜我ながら完璧な講義内容なのですが(本当か!?)、私に与えられた時間はQ&Aを含めて90分!!!3部構成の上に、5つもの事例研究まで入れて、さらに私は「おまけ情報」まで入れようとしているのです。絶対に時間がギチギチになってしまうでしょう。え?その「おまけ情報」ってなんだって?皆さんもなかなか好奇心が強いですね〜(って聞いてねえよってか?)。
では大先輩シンペー様から可愛い学生達に送る「おまけ情報」とは・・・これだ!
1)カナダでソーシャルワークをする意義と利点(=給料と福利厚生の話)
2)燃え尽き症候群に罹らないための秘訣(=給料と福利厚生の話)
3)なぜ勤務待遇が大切かについて(=給料と福利厚生の話)
・・・え?全部同じテーマだって?
あははは、結果的にはそうなんですよ。とにかく経験者として学生さん達には給料と福利厚生の大切さを私は声を大にして教えてあげたいんです。だって、ソーシャルワークのように他者の問題解決を図る感情労働は本当に大変です。やってて良かった〜と思える時もタマにはあるけど、それでも長くやればやるほど、少しずつ何か黒いものが溜まっていき、そして明るい希望がすり減っていくような「錯覚」(と、とりあえず言っておく 笑)を感じてしまうのがこの仕事の特徴。そうしてどんどん心身をすり減らし、燃え尽き、消えてしまったワーカー達が古今東西どれほどいる事か・・・でもせっかく福祉の世界を志し、困った人を助けようと思ってソーシャルワーカーになったのに、燃え尽きてすり減ったんじゃ元も子もありません、可哀想です。それに患者さん達にとっても、経験豊富でやる気に燃えるソーシャルワーカーの方が何倍も頼りになって役に立ちます。そう考えると、ソーシャルワーカーは長くやればやるほど人の役に立てる仕事。ぜひ、希望に萌えた学生さん達には、長く、そして心のエネルギーを保って現場で活躍して欲しい!と私は願わずにはいられないのです。そのための第一条件として、「自己の生活基盤の確立」と「休息&リフレッシュ出来る環境作り」が大切で(と私は思う)、そのためには少しでも給料が良くて、福利厚生が整っていて、ワーカーを大切にしてくれる職場で働く事が重要なのです!・・・という事を私は講義の最後に学生さん達にお伝えしたかったのです。ま〜希望に燃える学生さん達が、給料のことまで気にするかどうかは分からないのですが(だって学生当時、私は給料よりも仕事内容の方が大切だったから)、私も歳をとって「乳母心」とでもいうものが芽生えたのでしょう。余計な事と分かりつつも、しかし言わずにはいられないのです。あ〜心配性で口煩かった私のおじいちゃんを思い出します。そして今ならその気持ちもちょっと分かります・・・
なんて感じで、私はいよいよ大学生相手に講義をする事になったのでした。
そしてその結果は!?
つづく
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