腎臓透析科の危機
ここ数ヶ月、私の勤める透析科では危機がやって来ては去り、そしてまたやって来る・・・って感じのクライシス綱渡り状態になっています。ん?コロナ?って思いますよね。それがちょっと違うんだけど、でも間接的には関連しているかもな〜って感じで、今ひとつ原因が分からないんです。さてそのクライシス(危機)とはなんなのか?
それは急増する腎臓病患者による「腎臓透析科の満室(オーバーキャパ)問題」!
巷ではコロナによる集中治療室のオーバーキャパシティーで医療崩壊!なんて騒ぎが度々取り上げられてますが、うちの腎臓透析科も医療崩壊の寸前です。ここ数週間はキャパが120%越えなんて事態になる日も出てきて本当にヤバいんです。腎臓透析は透析専用の機械を使って1回の治療につきだいたい4時間くらいを目安に行っています。腎不全の患者さんは体内に溜まった余分な水分や血中内の毒素を除去する機能が働いていないので、それを補うために透析機械を使って血中の水分や毒素の除去および濾過をしています。これを最低でも週3回行わないと、腎不全の患者さんは具合が悪くなったり、最悪死に至ったりしてしまいます。なので腎臓透析とは基本的に生命維持のための治療なのです。そんな腎臓透析の現場がキャパ越え・・・これは本当に大変な事です。
さっきキャパが120%の日も度々ある、と言ったのですが、現実にはこれは対処不可って意味でもあるんです。なぜなら透析機械の台数は決まっていて、台数以上の数の患者さんを捌くことは出来ないからです。ちなみにうちの透析科は33床(つまり機械が33台)あり、朝、昼、夜、そして深夜の4シフトで、ほぼ24時間営業の状態で運用しています。それにも関わらず、もう患者さんをどこにも入れる場所がありません。うちがダメならお隣の病院に!って事ももちろん考えるのですが、なんとお隣の大病院の透析科もキャパ越え中・・・じゃ〜そのまた隣の病院に・・・もキャパ越え!どこもキャパ越えなんですよ(涙)。さらにどこの病院もこんな状態なので、120%越えのうちの透析科にもお隣の病院から「うちはもうキャパが130%越えでこれ以上患者さんを受け入れられないから、お宅の病院で受け入れてくれないか?」なんて電話もかかって来るくらいで、お互いに電話を掛け合っては「患者さんを受け入れてくれませんか?」と頼み合う危機的状況(っていうか混乱状態)。
この状態を打破するがごとく、私の天敵でもありソーシャルワーカー部屋の居候(?)でもある看護師Kさんが「患者数調整係」というお役目を上層部から頂き、奮闘することになったのでした。過去のブログを読んだ皆様なら知っていると思うのですが、私はまぁ〜このKさんとは気が合わなくて、Kさんが諸々の(アホな)事情でソーシャルワーカー部屋に移される事になってから、心休まる日がないくらいイライラ&カッカする事が多かったのです。その主たる原因はKさんが(私に負けず劣らず)カッカする短気で、極端に思い込みが激しく、一度感情的になると見境がなくなる、っていうややこしい性格と私の穏やかで仏のような性格(どこがじゃ!?)との不一致にあったのです。いやいやそれ以上に、Kさん本当に働かないんですよ。いっつもゲームをコソコソとピコピコやっていて・・・気が散るんじゃい!(っと大して働いてない私が文句を言ってみる 笑)。・・・って具合でKさんに絶えずイライラしていた私なのですが、そんなKさんがなんと猛烈社員に生まれ変わったのです。
Kさんは「患者数調整係」っていうお役目に誇りを感じたのか、それともやっと(ゲーム以外に)打ち込める仕事を与えられた歓びか、とにかく積極的に患者さん達の移動・入れ替えに全力を注ぎます。この場合の患者さんの移動・入れ替えとは、例えばキャパ越えの血液透析科の患者さん達に自宅で出来る腹膜透析に変更するよう働きかけたり、バンクーバー全域の透析科の空きを調べて、少しでも空きが出たらそこにうちの患者さんをねじり込んだり(って言い方が悪い?)、腎臓移植が出来そうな患者さんのリストを作ったり、と1人でも透析科から移動できそうな患者さんがいたら速攻移動させる!って電光石火な感じの仕事をして、着実に透析科の患者数を調整していきました。私もここんとこゲームのピコピコ音を聞かなくなり、心穏やかに仕事に集中できます。それより何よりもっと良いのは、やり甲斐のある仕事を与えられたお陰か、Kさんのメンタルも落ち着いて、以前のようにすぐにカッカしたり、捻くれた態度を取ったり、キーキーと感情的になったりすることも減って、やっとプロの職場の同僚としてお互い気持ちよく働けるようになったことなのです(でもシンペーは相変わらず毒舌だけどね!)。
ところがここで問題発生!電光石火の如く移動させられた(させられそうな)患者さん達から医療ソーシャルワーカーに援助要請が続々とやって来ました。例えば「Kさんから来週から遠くの病院に行ってくれって言われたけど、不便になるから困る」とか、「Kさんから家で腹膜透析してくれって言われたけど、私は手足が不自由だし家で面倒を見てくれる人もいないから不安だ」とか、「夜の時間帯に変更してくれって言われたけど、ヘルパーさんの来る時間と重なるから無理だ」とか問題続出。ま〜確かにキャパ越えってのはあくまでこっちの裏事情で、すでにうちの病院で透析治療している患者さんにとっては迷惑でしかないよね。不便もかけちゃう訳だし。おまけに即決で突然「〇〇してくれ!」って言われても、患者さんにも患者さんの事情があるから、「はい分かりました」って言えない事もあるよね。って感じで、うすうす予想はしていたものの、やっぱりいつものように医療ソーシャルワーカーの私は組織とKさんと患者さんとの間で板挟みになってしまうのでした。そうなると私としては患者さんの声を代弁しないといけないのでKさんに「〇〇さんは〇〇な事情だから、ちょっと移動は無理かも」とか、「〇〇さんが〇〇病院に行く交通手段がないからこの件キャンセルでお願い」とかって言うハメになり、そうなると・・・「え?シンペー何言ってるの?今うちの透析科が満杯なの分かってるでしょ!新しい患者さんが透析できないのよ。そんないちいち患者さんの勝手聞いてたら何も出来ないわよっ!」っとKさんに言われる事となり、そうなると・・・ハイ!皆さん想像できますね?
「は?何それ?患者さんの事情だってあるんだよ。介護はどうするの?どうやって交通手配するの?って言うかKさんあんたが介護と交通手配してくれるわけ?だいたい向こうの事情も聞かないで勝手に決めるからこういう問題が起きるんじゃね〜の?」と私も喧嘩腰になり、結果的にやっぱりKさんとはギスギスしてしまうのでした(笑)。
でもさ、これって結局のところ、Kさんでも私の責任でもないんだよね。この問題の原点はインフラ不足!ずいぶん前(数年前)から腎臓透析の患者数は増え続けるって予測が立っていたにも関わらず、遅々として進まない透析科の拡張計画。ここ数年でうちの透析科で増えたベット数なんてせいぜい5〜8床くらいだよ。でも現実には新たな透析科を一つや二つ作るくらい必要なほど腎臓透析患者数が増えそうだって前々から皆んなで言ってたんだけど、予算不足なのか、それとも保健局からお金を持ってこれない上層部の力不足なのか知らないけど、全くもって拡張もされず、キャパ危機が起きるたびその場その場で現場に圧力をかけて対応。でもここに来てその一時的対処法も限界に来ています。頑張ってKさんが患者を他所に送っても、そのすぐ側から新患さんが登場!って感じで、移せる患者さんの数と、やって来る患者さんの数が明らかに不均衡で、来週の見通しも立てないほど増え続ける透析患者。
それにしても、どうしてこんなに透析患者さんが増えているの?
一体何が起きているのだろうか?
前々から生活習慣病の増加で、腎臓透析患者が増えるよ!って言われてたけど、なんだからコロナが始まってからより一層その数が急増しているように思えます。これは私の想像に過ぎないのですが、やはりコロナによる外出禁止措置が大きく影響しているのではないかと思うのです。カナダでは一般的に慢性腎臓病患者はKCC(Kidney Care Clinic 腎臓ケアクリニック)と呼ばれる医療機関で定期的に受診し、腎臓病が透析が必要となる腎不全まで進まないよう予防教育(食生活の改善など)や腎臓病の現状チェックなどを医師・看護師・栄養士・医療ソーシャルワーカーを交えて行います。ただ昨年からのコロナ禍でこのクリニックでの受診が一時途絶えてしまったのと、在宅隔離生活のせいで、慢性腎臓病患者さん達の生活、特に食生活が乱れてしまい、それが直接的に腎臓病を悪化させてしまったのではないかと私は想像するのです。さらに自宅に篭っての生活ってストレスが溜まります。ストレスは食生活にも、精神状況にも、そして腎臓に関わる健康そのもの(例えば血圧やコレストロール)にも関わってきます。私でさえも、昨年11月にカナダに戻って来てからのストレスで食生活が一時期おもいっきり乱れ、毎日ご飯とラーメンx3食みたいな生活を3ヶ月送ったら見事4キロ太った!っていう現象も起こるなど、「コロナ&在宅ストレス=食生活の悪化=健康被害」っていう構図は私以外にも多くの人が経験しているのではないでしょうか?そんな訳で、私は今回の腎臓透析患者の増加問題は、コロナ禍の間接的影響のせいに違いないと思っているのです。
だからなんなんだ!って話なんですが、やはりコロナ禍のような重大事態が起こると、それが色々な方向に飛び火してまた新たな問題を次々とひき起こしてしまうのだ、と私は改めて学んだという事なのです(っていうか経験させられてる)。そして強いて言えば、コロナ禍以前から燻っていた問題を先延ばしにしたがために、問題がより一層ひどくなり、今や透析科の医療崩壊危機にまで陥ってしまった原因はすべて上層部のタラタラした仕事ぶりのせいなんだ!と組織とKさんと患者さんの間でぎゅーぎゅーに挟まれて身動き取れない哀れな医療ソーシャルワーカーの私は声を大にして・・・は言えないものの、憤慨し、そしてこっそりとこのブログで不平を申し立てるのでした(情けない・・・)。それにしてもこの透析科の危機・・・一体どうなっちゃうの?今日もまたKさんと無益な議論(口論とも言える)を交わしてうんざりした私は、あ〜上層部よ、早くお金を持ってきて透析科を拡張しておくれ!患者さんを救っておくれ!そして私に心の平安を与えておくれ!と願わずにはいられないのでした。
おわり
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