医療ソーシャルワーカーの仕事1 腎臓透析編
前回の記事の続きで「腎臓ソーシャルワーカーの仕事 実践編」です。せっかくなので腎臓ソーシャルワーカー以外の医療ソーシャルワーカーの仕事についても、順に書いていきたいと思います。
新しい透析患者さんが入った時に、腎臓ソーシャルワーカーがまずやる仕事は問診です。これはPsycho-Social Assessment と呼ばれ、直訳すれば心理社会的アセスメント。患者さんの社会環境、心理状態、病歴などを問診するもので、病院内の医療ソーシャルワーカーは、初めて接する患者さんには、必ずこの問診をすることになっています。またこの問診は電子カルテに記入されるため、医療ソーシャルワーカー同士で共有することが出来ます。
新患さんとお話をする前にまずは電子カルテを開いて、患者さんの病歴、医療ソーシャルワーカーの記録、OT/PTの記録をチェックして、患者さんについての情報を事前に得ておきます。また、この情報を基に患者さんへの問診の準備をします。例えば、躁鬱病などの病歴がある場合は、感情がコントロール出来ているか、薬をちゃんと服用しているか、地域の精神衛生のケースマネージャーがケアに関わっているのか、などの質問を問診に加えます。また、ソーシャルワーカーの記録からお金や住宅に関する問題などが分かっていれば、事前に関係する書類を準備することが出来ます。腎臓透析科にはOT/PT(作業療法士・理学療法士)がいないので、腎臓ソーシャルワーカーが患者さんの身体可動性のアセスメントや車椅子などの移動補助器具の手配、地域のCommunity Healthへホームケアや介護施設への委託要請をしなければいけません。なのでOT/PTの記録にも目を通し、患者さんの介護ニーズを事前に調べます。
本来は、患者さんが初めて透析をする日に問診をしたいのですが、なんせ医師、看護師、薬剤師、栄養士もそれぞれの問診をしなければいけないので、初日は患者さんが息つく暇もなくワァーと群がってきます。そのたびに患者さんは同じようなことを何回も言わなければならず、おまけに色々な人が去ってはやって来るので、誰が誰だが分からない上、初透析の緊張と疲れで、たいていは大混乱のうちに初日が終わるという感じになります。ソーシャルワーカーの問診は、結構プライベートな事も聞くので、患者さんがある程度落ち着いて、そして看護師や医師に邪魔されない時を見計らう必要があります。そうすると、だいたい初透析の翌週くらいが腎臓ソーシャルワーカーが問診をするのに良いタイミングとなります。ただ、初透析で患者さんのストレスが高かったり、透析が上手くいかなくて透析治療自体を中止(めったにないですが)しなければいけないような時は、ソーシャルワーカーが積極的にサポートに出ます。
さて問診ですが、医療ソーシャルワーカー用の問診票は共通基準で作られているので、病院内のソーシャルワーカーは皆このデフォルトの問診票を使います。問診票はこんな感じです(適当な日本語訳付き):
この問診票を基準にして、今後の患者さんへのサポート計画を立てます。ただ、この問診時に必ずしも患者さんのすべての状況が分かるわけではありません。まだ患者さんとソーシャルワーカーとの信頼関係も十分でなく、また患者さんのソーシャルワーカーへの理解も足りない中で、患者さんが積極的に自分のプライベートな悩みや問題を明かすことは、なかなか難しいと思います。ですので、この問診後、定期的に患者さんと面会して信頼関係を築き、ソーシャルワーカーの仕事がなんなのか分かってもらい、気軽に相談できる関係を積極的に作ることが大切となってきます。たとえ問題や相談理由がなくても、患者さんと雑談をしていくうちに、いままで知らなかった問題が見えてくることもよくあるので、定期的な患者さんとの面会(雑談)は腎臓ソーシャルワーカーの大切な仕事です。またそれ以上に、患者さんとの無駄じゃない「無駄話」は仕事の息抜きにもなって楽しいです。
こうして患者さんとの信頼関係を築いていくうちに、新しく透析を始めた患者さんからも相談をうけるようになります。また患者さんの悩みを聞いた医師や看護師からソーシャルワーカーへ委託されることもあります。腎臓ソーシャルワーカーへのよくある相談ケースは:
• 生活保護・障害手当ての申請
• 透析治療に関する質問・医療チームとの調整
• 交通手配(例:ハンディーダート!!!怒)
• 透析旅行のお手伝い
• 心のサポート
• 介護サービスの委託
• 住宅探しのお手伝い
• アドバンスケアプラニング(終末医療についての話し合い)
• 暇つぶしの雑談相手(笑)
などなど、多岐にわたります。そして一件一件患者さんの相談をした後は、これも電子カルテに記録します。そのための書式も医療ソーシャルワーカー用に作られています。このように:
Social Work Progress Reportを、ソーシャルワーク前進記録って訳したんですけど、前進記録ってなんだか・・・笑える。あはは。まあでも前進を目標にする事は大事です。あと、記入例も入れてみました、もちろん架空の患者さんのケースで。
患者さんへの相談業務以外にも、腎臓ソーシャルワーカーは毎週一回医療チームミーティングに参加して、透析患者さんの情報を医師、看護師長、栄養士、薬剤師と共有し、ケアプランを立てます。また、病院内の医療ソーシャルワーカーのミーティングにも毎月参加し、医療ソーシャルワークに関する勉強会を開いています。さらに年に4回ほど、BC州の腎臓ソーシャルワーカーとの勉強会にも参加して、腎臓ソーシャルワークに関する問題提起や知識の向上に努めまています。
・・・なんて色々書くと、腎臓ソーシャルワーカーって忙しいんだなー!と思われるかも知れないんですけど、実は病棟ソーシャルワーカーと比べると格段に「ゆとり」があるんです。一つの理由としては、透析患者さんは週に3回透析にこられるので、患者さんの問題に長期的に取り組めるからです。それに対して、病棟ソーシャルワーカーは患者さんが退院するまでの短期間にすべての問題に対処しなければいけません。また腎臓ソーシャルワーカーは、患者さんとの信頼関係を長期に渡って築いているので、患者さんの社会的背景を熟知していることが多く、その分仕事が効率的に出来るという利点もあります。また透析科は外来なので、退院手続きに巻き込まれないことも「ゆとり」が出来る大きな一因だと言えます。それでも腎臓ソーシャルワーカーは、透析科の患者さん200人以上を2人で担当しているので、それなりに結構忙しい時もあり、とくに懸念事項のない患者さんのケアがおろそかになってしまうときも正直あります・・・反省。でも激動の時間を生きている病棟ソーシャルワーカー達からは、「ゆとり」丸出しの腎臓ソーシャルワーカーは妬まれてるんですけどね(笑)。ということで、次回は病棟ソーシャルワーカーの仕事について書いてみたいと思います・・・本当に激務なの???
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