ソーシャルワーカーが知らない患者さんの一面


医療ソーシャルワーカーをやっていると、当然患者さんの悩みを聞くことが仕事なので、患者さんの生活について熟知する事になります。患者さんの財政状況から始まって、家族関係、仕事、病気による心や身体の負担について、などなど時には患者さんのご家族も知らないような悩みを聞くこともあります。そんな訳で、医療ソーシャルワーカーは患者さんについてどの医療従事者よりも深く知っている!という自負があります。またそれこそが医療ソーシャルワーカーという仕事の醍醐味でもあるのです。しか~し!時に、医療ソーシャルワーカーにも「あれ~この人こんな人だったんだぁ!」と患者さんの知らない一面を垣間見て驚かされる事もあります。



例えば、先日ハンディーダート乗り合いバスの公聴会がありました。このブログをお読みの皆さんならもうご存知ですね(笑)。うちの透析患者さんが利用する乗り合いバス、ハンディーダート。このハンディーダート先月までアメリカの営利団体(なぜ非営利じゃないのだ!?)が運営していたのですが、今月からカナダの団体が運営する事になったのです(でも営利団体・・・)。そしてこの新会社が新たなハンディーダートを宣伝すべく公聴会を開いたのです。ハンディーダートに苦労をかけられている我らソーシャルワーカーがこの公聴会に参加したのは言うまでもないのですが、同じく苦痛を強いられている患者さん達にもぜひこの公聴会に参加してサービスの向上を訴えるよう提案しました。そうして腎臓透析患者さんAさんが、透析患者代表として名乗りをあげ、この公聴会に参加したのでした。



ここ数年ハンディーダーとは予算不足のためか、バスがすぐに満車になってしまい乗れなかったり、時間通りに迎えに来なかったり、ルート設定が悪く送迎に時間がかかったりとサービスの低下が著しく目立つようになっていました。そしてその苦情を聞く係りがソーシャルワーカーという暗黙の了解が(なぜか)出来上がり、バスが遅れたり、患者さんが置いていかれる度に「ちょっとソーシャルワーカーさん!今日もハンディーダートが○○だった!」とクレームを聞かされるのでした。酷いときには、我らソーシャルワーカーもハンディーダートにクレームを付けるのですが、毎度毎度遅れるハンディーダートのクレームを付けていたら仕事にならないので、出来るだけ患者さんに直接ハンディーダートまで苦情を言ってもらうよう促しているのです・・・が、「あの~申し訳ないんですがソーシャルワーカーはハンディーダートの運営には関わってないんですよ。ですので苦情は直接ハンディーダートに伝えていただけますか?」と言うと、患者さんからの「あら、そうなの!?みんな(看護師と患者仲間)がソーシャルワーカーに苦情を言えって言うから、てっきりソーシャルワーカーさんの責任だと思ったわ」という返事が多い事にガックリというかイラっときます。っていうか看護師ども~、適当なこと言うなよ~!と叫びたくなります。今まで何度も看護師にはハンディーダートの問題はソーシャルワーカーの責任事項じゃないんだよ!と諭しているんですけどね・・・



まぁーとにかくそんな訳で、患者さんが直接ハンディーダートの公聴会に参加して、積年の恨み・・・じゃなかった、長年溜まったフラストレーションを吐き出すのは患者さんにとっても、そして透析患者さんで商売をしているハンディーダートの為にもなると思ったのです。そして患者さんの中でもとくにソーシャルワーカーにハンディーダートの苦情・クレームをつけていたAさんが参加したのです。



さて公聴会が終わった翌日、透析治療前にAさんが患者さんを集めて「ハンディーダート緊急報告会」なるものを催したのです。私、ちょっぴり驚きました。だってAさんっていつもソーシャルワーカーに相談・苦情はするけど、積極的に行動するタイプには思えなかったからです。そんなAさんが積極的に患者さんを集めて、そして場を取り仕切っているのです。また、そんなAさんの話を聞こうと多くの患者さんが集まった事も驚きました。私の知らない所でAさん、結構患者さんと繋がっていたみたいです。そうして始まった緊急報告会。Aさんはハンディーダート担当者と延々1時間に渡って透析患者さんが抱えるハンディーダートの問題と解決案を提起し、そして担当者からも今後二ヶ月に一回のペースでソーシャルワーカーと患者さんとの話し合いの場を設け、サービスの向上に努めるという確約を取り付けたと言うのです。そうしてこれからはソーシャルワーカーと一体となってハンディーダートサービス向上にむけて頑張ろう!と報告会を締めくくったのでした。



いや~私、すごく感動しましたよ。どちらかと言えば苦情ばかり言ってソーシャルワーカーに怒りをぶつけるだけの「困った患者さん」っていう印象だったAさんに、こんなリーダー気質があったとは!そしてそれを聞いていた患者さん達も凄く熱くAさんを支持し議論している姿に胸打たれました。そして改めてソーシャルワーカーと接する時の患者さんと、患者同士が接する時の患者さんの表情や態度が違うことに気が付いたのです。そして私が知っている(と思った)患者さんの姿が必ずしも患者さん本来の姿とは限らないのだ、という当たり前だけどすっかり忘れていた大切な事を私は思い出したのでした。



それからしばらくの間、私は患者さん用の待合室で雑談している患者さん達を柱の影からジ~っと観察してみることにしました。だって、もしかしたら私の知らない患者さんの姿が垣間見れるかもと思ったからです。そしたらやっぱりザックザックと私の知らない患者さんの姿が見られるではありませんか。いつもは気難しいBとCさんが笑いながら雑談してる!ソーシャルワーカーには泣き顔しかみせないDさんも大笑いしています。かと思えば、いつも陽気にソーシャルワーカーに話しかけてくるEさんは、独りポツンとしていて大丈夫でしょうか?いつも無言のFさんは、ここでも無言でテレビを見ています(あ~よかった私の知っているFさんはFさんだった 笑)。こんな感じで、結構みなさん、患者さん仲間同士では私と話す時とは違う顔を見せて、私をホッとさせたり、驚かせたり、イラつかせたり(笑)するのでした。



私、思ったのですが、やはり医療従事者と患者さんとの間には力の差(というのか壁というのか・・・)があって、それが患者さんが見せる表情・態度にも影響を与えているのかな~と。医療ソーシャルワーカーとして出来る限り患者さんと同じ目線にたって相談にのりたいと思いながら仕事をしていても、やはり患者さんに問題解決を提案するという職業上どうしても上から目線になってしまっているのかもしれません。また患者さんから見れば、医師も、看護師も、ソーシャルワーカーも医療チームの一員であり、それゆえの垣根が出来てしまうのは仕方がないのかもしれません。実際いくら私達医療従事者が患者さんの目線に立とうと思っても、患者さんと同じ病気を患っているわけではないので、その点においては、患者さん同士におけるピアサポート(Peer Support)の力に勝るものはないのかもしれません。そして今回のように、患者さん自身の働きかけによって自分達が直面する問題を提議・解決しようとする動きは、ソーシャルワーカー主体で動くよりも、よっぽど患者さん達を励まし、力づけ、そして効率的に問題解決に向けて前進できるように思えてならないのです。まさにこれぞエンパワーメント(Empowerment)です!



という感じで、今回はハンディーダート公聴会を通して、患者さんの新たな一面、ソーシャルワーカーの知らなかっ患者さん達の素顔を見ることが出来て、私、大変感銘を受けたのです。それだけではなく、患者同士がもつ関係・繋がりがソーシャルワーカーとの関係・繋がりなんかとは比較にならないほど強力・有益なものだと言うことが身に染みたのでした。そんな訳で、これからはもっと患者同士のピアサポートを有効活用させて患者さんの問題解決を図ってみようと思うのです。そうして患者さん同士でサポートさせれば、私への苦情相談が軽減でき、さらに患者さんも大満足で、私の仕事も楽になって一石二鳥だね~ウシシ・・・なんて事は間違っても考えていませんのであしからず(笑)。そして私はこれからも、待合室で集う患者さん達をコッソリ盗み(?)見ては、私の知らない患者さんの素顔を見つけようとも決意するのでした(もちろん、患者さんの事をよく知ってサポートするためですよ!!!)


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