サンドイッチにさせられるソーシャルワーカーの悲しき運命(怒)


私、今週、職場で猛烈なストレスに見舞われております。せっかく良くなってきた右肩甲骨痛もこのストレスのせいで悪化しそうです・・・なんて思うとますますストレスがかかって、もうストレス渦の中にどっぷり飲み込まれてしまった気分です。え?一体なんのストレスなのかって?そうなんです、それをぜひご説明させていただきます(笑)。



私が働く腎臓透析科に、一年ほど前からJさんという患者さんが透析を受けています。このJさん、私が今まで働いてきた患者さんの中でも5星(☆☆☆☆☆)をあげてもいいくらいの「むずかしい」患者さんで、ほぼ毎回と言っていいほど透析に来るたびに問題行動を起こしてはセキュリティー(警備員)に連れ出されるという事態に発展します。



初めてJさんがうちの病院に来た日、透析科に到着3分後には看護師と大喧嘩し、罵詈雑言、Fのつく言葉を連発して看護師2名を泣かせました。これはまずいことになった!と透析科のマネージャーは緊急の話し合いをJさんと開く事になったのですが、その話し合いの場にJさんを誘い込む役目を任されたのがソーシャルワーカーの私。マネージャーが直接Jさんを呼び出せばいいのに、なぜソーシャルワーカーが?と思うのですが、これこそ病院における典型的な「ソーシャルワーカーの使い方」で、やっかいな事柄の大概はソーシャルワーカーに回ってくるのです(涙)。まぁーそんな事にはすっかり慣れっこになった私なので、とにかくJさんを上手くこの話し合いの場に連れてこなければいけません。でも、こういうタイプはそうやすやすとマネージャーとの話し合いなんかには応じないんだよな~と思った私は、なるべくやんわりとJさんを話し合いの場に誘ってみる事にしたのでした。



「あのJさん、初めまして担当ソーシャルワーカーのしんぺーです。Jさん、どうですかここでの透析治療?結構フラストレーションが溜まる事もあるじゃないですか?どうでしょう、今度ぜひ一度うちのマネージャーとお会いして、どうやったら皆が安心して治療が受けられる環境が作れるかについてのお話し合いしませんか?Jさんのご協力がぜひ必要なんです」と我ながら完璧~!なスタートを切ったこの会話。でも敵(と書いてJさんと読む)もさる者で、


「俺は別に何のフラストレーションも感じてね~よ。ここの透析にも満足してるし、スタッフとも仲良くやってるから心配しね~でいいよ。」とあっさり流されてしまいます。


うむむ、次なる作戦は・・・(「そうですか!それはよかったです。うちのマネージャーもそれを凄く心配していたので、ぜひマネージャーにも今のJさんのお気持ち伝えていただけませんか?」にしようか、それとも「それは、ありがとうございます。ただ先日Jさんがうちの看護に何か懸念を感じたようだとお聞きしたので、ぜひその事についてもう少しお聞きしたくて伺いました」にしようか?)と慎重に次の一手を思案していた時、思いもよらない助っ人(?)が登場しました。それは看護師のRさん。


「ちょっとあんた!うそ言わないでよ!さっきだって私に針の刺し方が下手だって文句言って失礼な言葉連発したじゃない!おまけに他の看護師も侮辱して、ぜんぜん協力する気ないじゃないのさ!」とRさんはじっくり思案している私を助けるつもりで(多分)Jさんに切り込んで言ったのです。


「あ?何言ってんだブス!あっち行け!」(Jさん)


「そんな失礼な事言われたくないわ!」(Rさん)


「てめーの顔なんか見たかねーんだよ!あっちいけ!F言葉x連発」(Jさん)


「ひどい!」(Rさん)


「おまえも、あっちいけ!おまえとも話したかねーよ!」(Jさん)


「え!?私ですか?」(しんぺー)


「そうだよ。おれソーシャルワーカー大嫌いなんだよ。3歳のころから関わってきて、お前らが全然信用できねーのは知っているんだよ。やさしそうなふりして、陰でコソコソして、他人の人生に土足で踏み込む最低の奴らだよ!あっちいけぇぇぇ!」(Jさん)



そう言うと、彼は私達にティッシュペーパーの箱を投げつけてきたので、我々は退散したのでした。それにしても看護師Rさん、邪魔しないでよ~!って正直ムカついてしまいました。せっかく自分のペースで上手くもっていこうと思ったのに・・・そんな私のオーラを感じ取ったのか、それともムカついた表情が思いっきり私の顔に出ていたのか、Rさんは「ごめんなさい。しんぺーさんがJにやりくるめられそうだったから助けようと思ったんだけど逆効果だったわね~」と謝ってきました。


「いえいえ、そんな事ありませんよ」と言いつつ、でも腹の中では(いや、そんな事あるけど、だいたいRさん、あんた短気すぎんだよ!)と毒づいて、しかし笑顔で「大丈夫です」と答えたソーシャルワーカーの私・・・あ!?これこそまさにJさんが最後に言ったソーシャルワーカーの本質ではないか!?(・・・それとも私の本質!?)。うむむむ、恐るべし観察力をもつJめ!そんな訳で、私、このJさんなかなかの曲者で切れ者だと思うのです。



その後、強引に3回ほどJさんをマネージャーとの話し合いの場に連れて行ったのですが、毎回ミーティングの出だしは「てめ~らふざけんな!まずはそいつをつまみ出せよ!あのソーシャルワーカーがここにいる限りは、俺はどんな話も聞かね~よ!」と私を指差すことから始まり、しかし彼の言いなりになっては彼の問題行動についての話し合いが出来ないので、当然私はそのまま出席し、そのうちJさんが根負けしてマネージャーの話を聞くのを待つしかないのでした。そのあいだ私は延々と私に向けられた罵詈雑言を聞く羽目になるのですが、案外これは大したことありません。最初は「うわっ怖ぇ~」とビビルけど、よ~く聞けばJさんの罵詈雑言ってあまりバラエティーがなく単調で、5分も聞き流していると眠気が襲ってきそうになるくらいです。黙ってボ~と聞き流していると、そのうちJさんも大人しくなっていきます。・・・と言うのもJさんの狙いは私を感情的にさせてこの話し合いの場を混乱させ、自分への圧力を弱める事にあるからです。だからこそ沈黙こそがこのゲームに勝つ最良の方法なのです。そう看護師Rさんのように感情的になったら相手の思う壺なのです。



とまぁこんな話し合いを何度か持ったのですが、当然こんなんでJさんの態度が変わることはなく、その後今にいたるまでJさんの問題行動は続くのです。ただJさんの問題行動、決して身体的暴力を振るう事はなく、あくまでも言葉の暴力に限定されています。でもJさん、多分とても頭のいい人なんだと思います。そしてずば抜けた観察力をもっています。ですので、Jさんの言葉って、それぞれの弱点に狙いを定めて極めて深くズップリと突き刺さるのです。例えば、私のように英語が第二言語のスタッフには英語の訛りを馬鹿にしたり、プライドの高いスタッフには、他のスタッフと比較して蔑んだり、容姿にコンプレックスがあるスタッフには容姿について罵詈雑言吐いたり、とJさんに関わる全ての人の心が少しずつ少しずつ傷ついていき、最後は傷だらけになって誰もがJさんと関わりるのが嫌になり、そしてケアを施す人がいなくなっていくのです。



しかし腎臓透析は生命維持に必要な治療。Jさんが苦手だから、という理由で治療を拒否する事もできません。これこそうちの透析科が抱える倫理ジレンマなのです。看護師の中には断固としてJさんのケアを拒否する人達がいます。その一方、倫理的義務から頑張ってJさんのケアをしている看護師達も、延々とづつく言葉の暴力に段々と疲弊していき、また看護師同士の中での不公平感も大きくなっていきます。そうして看護師達のフラストレーションがピークに達すると、そのフラストレーションは透析科の長であるマネージャーのEさんに向けられていくのでした。



透析科マネージャーEさんは元看護師で、管理職キャリア10年を誇るベテランマネージャーです。それもあるのか、Eさん、結構タフでちょっと威圧的な女性です。その威圧的な雰囲気のせいなのか、看護師達と結構揉めます。看護師達もタフな人が多いので、Eさんに指導を受けたり、怒られたりしてもめげません。いやめげるどころか、最強看護組合に報告して、今度は看護組合代表がEさんと議論する・・・なんて言う群雄割拠な状況になることもしょっちゅうで、ビビリで臆病者の私や私の同僚Rさんのようなソーシャルワーカーには到底理解できない火花が日々Eさんと看護師達との間には散っているのでした。そんな訳で、問題患者Jさんの件でも看護師達は日々Eさんに「マネージャーなんだからEさんの問題行動をなんとかしろ!」「私達はこれ以上Jさんからの虐待を容認しない!」「Jさんをこの病院から追い出せ!」と要求したり、次々に病欠になったり(Jさんの透析の日だけ)して、強気のマネージャーEさんもさすがに弱っています。そんな中Eさんが目を付けたのが・・・私達ソーシャルワーカーなのでした(やっぱり・・・)。



過去ログにも書いたのですが、私達ソーシャルワーカーが看護師達に週3回Jさんに関するディブリーフィングをする事になったのもEさんのアイデアでした(だいたい、看護師のデブリーフィングってソーシャルワーカーの仕事じゃないし・・・)。またJさんに関するケアプランおよび規律案を作らされたのもソーシャルワーカー(つまり私)でした。そんな訳で、あまりギャンギャン言わず、友好的に接する我らソーシャルワーカーの使い勝手を知ってしまったのか、Jさんが何か問題行動を起こすたびにEさんはソーシャルワーカー(つまり私)に対処法を要求するようになっていったのでした。確かに私は今まで何度もソーシャルワーカーの価値が病院内で今ひとつ認められてねぇ~!って文句をつけていましたよ。でもこんな風に認められるのは困りものです。ぜんぜん嬉しくありません。だってハッキリ言ってEさんから頼まれる(強要される?)仕事内容ってソーシャルワークって言うより、これってアシスタントマネージャーの仕事じゃね?っていう気がしてならないからです。でも悲しいかな、やっぱりソーシャルワーカーの仕事ってきちんと理解されていないので、問題行動のある患者さんはすべてソーシャルワーカーの責任だ!みたいな風潮があるのです。あれ?それとも、私が知らなかっただけで、もしかして患者さんの問題行動はソーシャルワーカーの担当範囲なの???なんだか私もう混乱してきちゃいましたよ。



こんな混乱&フラストレーション溜まりまくりの私を無視するかのように、先月Jさん軽い脳溢血を起こしてしまい、それが彼の問題行動にさらに拍車をかける事となってしまったのです。もともとの問題行動に、脳溢血による脳障害も加わり、Jさん今までしなかったような不可解な行動をするようなったのです。例えば、病院のERに一日7回もやってきたり、用事もないのに病棟内をウロウロしたり、おなかが減って一日中何も食べてないと言ったり、スタッフの名前を忘れてしまったり・・・そして突然、看護師達に感謝を述べたり(これが一番ビックリした!)。これはヤバイんじゃない?と思った私は栄養士さんと協力して、なんとか一ヵ月分のお弁当配達を手配したり(地域のNPOに頼み込んだ 涙)、脳溢血患者さんのサポートプラグラムへの紹介をしたり、精神科受診の手配をしたりと、ソーシャルワーカーの仕事をきちんとこなしたのでした。



と・こ・ろ・が、こんなに頑張っている腎臓ソーシャルワーカーしんぺー様に、マネージャーEさんがとんでもない事をのたまったのです。それはしばらく大人しかったJさんが再び看護師達に向けて罵詈雑言を吐きはじめた先週の事です(ってJさん脳溢血後障害から回復してきてるんじゃないの?)。


Eさん:「しんぺー!知っての通りJさん脳溢血後から態度がおかしいのよ。ご飯も食べてないって言うし、病院にも何度も来て、もしかして家がないんじゃない?しかも今日は看護師達にイチャモンばかりつけてるし」


私:「そうですね。先週は大人しかったんですが、今日は激しいですね。でもこれってJさん本来の姿に戻ったようにも見えますよね。ご飯の件は、とりあえず一ヶ月の無料弁当宅配をなんとか(ここ強調!)手配しました。家はちゃんとあるようですけど、引っ越したいって事だったので空家リストと公共住宅の申し込みのお手伝いをしました。あと脳溢血患者さん用のサポートプログラムの紹介もしましたよ」


Eさん:「食事も一ヶ月とかじゃなくて、もっと長く手配して。家も、Jさん今の状態じゃ何も出来ないんだから、あなたが探してあげてよ。サポートプログラムの紹介だって、もっと積極的にやってあげて!」


と、私の苦労を何もしらないEさんは↑のようにしれっと言うのでした。そしてその後、私に向けての決定打を言い放ったのです・・・


Shimpei! You have to work with J diligently!


では、さっそくEさんの言い放った↑を日本語に訳してみましょう。


Shimpei!(しんぺー!)

You(あなた=わたし=しんぺー)

Have to work with J(Jさんと働かなくてはいけない)

Diligently(熱心に)


・・・Diligently? Diligently? Diligently?(熱心?熱心に?熱心にってどういう意味よ???)

・・・としばらく私の頭の翻訳機能が???となった後、翻訳機能がたたき出した文は

「しんぺー!あんたもっと一生懸命Jさんのために働きなさいよ!」


カッチ~ン、と私の心が響くのを感じました。


え?私が一生懸命働いてないっていうの?ありえね~!だいたいEさん、あんたソーシャルワークの何知ってんのさ?私がどれだけ苦労して一ヶ月の無料弁当手配したと思ってんの?だいたい無料宅配弁当が永遠に手配できるんだったら、この国に貧困問題なんて存在しないっつーの。おまけに私がJさんの家を探せって?そんな簡単に家が見つかるんだったら、この国にホームレスなんていないっつぅーの。サポートプログラムだって国からの予算不足で長期待ち状態で、Jさんなんかよりもっともっとも~と酷いケースの患者さんが優先されるに決まってるつぅーの。そんなことも分からないのかな~?ボケたこと言って私を困らせるんじゃねぇ~!ガガガガガガ~っと私の頭の中ではJさん並みの罵詈雑言が飛ぶのでしたが、もちろんそんな事マネージャーであるEさんには言わず(というか言えない・・・)、ただムッと黙っているだけの私でしたが・・・・(でも気を抜くと声に出しそうになる自分が怖かった 笑)



それでも事務所に戻るとすぐに私は同僚Rさんに私の心の叫び(↑)をぶちまけたのでした。人の良いソーシャルワーカーRさんは私の話をじっくりと聞いてくれ、そして「しんぺーは、出来る事全部やったし、これ以上今出来る事はないよ」と慰めてくれるのでした。さらにRさん「Eさんも多分、しんぺーが仕事してない!って意味で言ったんじゃなくて、Jさんのケースを優先的に解決して欲しいって意味だったんじゃないかな。だってEさんも最近のJさんの問題行動で看護師、組合、さらに彼女の上司にヤンヤン言われて焦ってるみたいだし」とムキィー!となっている私が見えてなかった一面を指摘してくれたのです。



確かに・・・マネージャーEさんの仕事はストレスがかかります。彼女もずっとJさんの件に振り回され、また看護師と組合&上司の間でサンドイッチになり、とにかく出来る事は全部やらなければいけない立場です。そういう中、ソーシャルワーカー(私)にも全力で出来る事は全部やって欲しい!って思いが↑のような強い言葉になって出てきてしまったのも理解できます。それに私が仕事してないってEさんが思っているのなら、きっと個人的に呼び出されて説教されていただろうし、どうやら私の思い込みのようでした。



・・・とEさんへの怒りを静めようとしていたところに、これまた最近うちの事務所に引っ越してきた看護師Kさんが「でもdiligentlyって言葉は酷いわよ!Eさんやっぱり気が利かないし、人の気持ち分からないのよ!(怒)」と最近Eさんと揉めたばかりのKさんはEさんが悪いと私の分も(?)憤慨するのです(「ソーシャルワーカー「とばっちりを」食らう」参照)。そうなるとまた私の気持ちは「うむむむむ」となり、やっぱり私が仕事してないと思ってるんじゃないか?とEさんへの疑心暗鬼に陥るのです。こんな自分自身の揺れ動く気持ちを落ち着かせるために私がやった素晴らしい事・・・それは「私が施したJさんへのソーシャルワーク業務一覧表」を作る事なのでした(笑)。これさえ作ればEさんにだって胸を張って私が仕事をしてるって言えます!さらに、Eさんだって、ソーシャルワーカーがこれだけやってるんだ!と彼女の上司にも報告でき、一石二鳥ではありませんか。そんな訳で、一覧表完成させましたよ。



それにしてもソーシャルワーカーだって、マネージャーEさんと同じくサンドイッチになります。患者さんに出来ることは限られてるのに、マネージャーを含め医療従事者からの期待は高い。「なんでまだ退院先の家見つからないの?」はソーシャルワーカー、特に病棟のソーシャルワーカー達が「医療従事者&マネージャーから言われてムカつく言葉」堂々のナンバー1に輝いております。家なんてそんな簡単に見つかるわけないだろ!現場の苦労も知らず言いたい放題言うんじゃない!と怒り心頭になる我らソーシャルワーカーなのですが、これもまたソーシャルワーカーの苦労を知らないがために出る問題なのでしょう。そんな訳で、こうやって書いてみたら大した事ないじゃん!って思うのに、なんだか今週は私、カッカきて疲れてしまいましたよ。でもRさんが私を慰めてくれたように、確かに自分の中で「出来る事はやったんだ!」って納得していれば、周りに何を言われようとも「これだけ全部やったけど、それでも文句があるんだったらお前がやってみれば?」と言えるのだから(言わないけど・・・)、まぁいいか!って気持ちになれました。そんな訳で、これからしばらくの間、Eさんと接する時は「私が施したJさんへのソーシャルワーク業務一覧表」を握り締めて、もしもの時に備えようと思います。おわり(笑)。


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