ドラゴンレディT先生から褒められる!
北米では、パワフルかつ短気、怖いアジア人女性はドラゴンレディと言われます。ドラゴンとは龍・・・つまり龍の女?なんだか辰年の女みたいで、縁起が良さそうなネーミングだね、と思ってしまうのですが、西洋でドラゴンレディと言えは蔑称なので、あまり良い言葉ではありません・・・が、しかし、うちの病院の腎臓医T先生は、まさにこのドラゴンレディという称号(?)がピッタリな女性なのです。
彼女は中国系ベトナム人を親に持つカナダ生まれの二世で、見るからに理知的で頭の切れる医者なのですが、同時に頭がキレる医者でもあるのです・・・そうなんです、超がつく短気なのです(涙)。ここで働く職員なら皆、一度はこのT先生から怒鳴られたことがあるはず・・・私も一度ありました。私がT先生に患者さんBさんの容態を聞いた時「あんた、私になんど同じ事言わせるの!?」と私に怒鳴りつけたのです。何度もってBさんについてT先生に尋ねたのは今日が初めてなんだけどな・・・って突然怒鳴られた私が動揺していると、それを可哀想に思った看護師長は「あの~T先生、しんぺーはAさんでなくBさんのこと聞いているんだと思うんだけど・・・」と遠慮がちに助け舟を出してくれました。そうなのです、確かに1時間ほど前に私はT先生にAさんについて尋ねましたよ、でも今回はBさんについてです。どうやらT先生、私がAさんについてまた同じ質問をしたのだと勝手に勘違いして私を怒鳴りつけたみたいなんです。真実を知ったT先生「あら?おほほほ。そうだったの。えっとBさんはね~・・・」とバツの悪そうな顔を一瞬みせると笑って誤魔化したのでした(納得できね~)。もちろんプライドの高いT先生は、こんな立派なパワハラ行為も謝ったりはいたしません!(ってどっかのドクターXも言っていたような・・・)
そんな困ったT先生なのですが、ソーシャルワーカーの仕事には一定の理解があるようで、めったやたらとソーシャルワーカーに仕事を振ってくるのです。これ嬉しいようで困った事です。確かに「ソーシャルワーカーって何やるヒトなの?」って言う医者も困りますが、何でもかんでもソーシャルワーカーに押し付ける医者もなんだかちょっとね~となります。例えば、患者さんの家族と話したいから連絡とって!とか・・・「先生、もしかして電話の使い方知らないんですか!?」と嫌味の一つも言いたくなります。だってそんなの自分で出来るでしょ!またT先生は短気なので、頼んだ仕事は直ぐやらないと「ちょっとソーシャルワーカーさん!患者さんの家族に連絡取った?まだなの?いつやるの?今すぐやってね!」って感じで、「ソーシャルワーカーにだって仕事の優先順位があるんじゃい!」と言ってやりたくなりますが、ここで大喧嘩してもますます仕事がやりにくくなるだけなので、出来る限りT先生のご要請にはご迅速にお答えするよう透析科ソーシャルワーカー一同、日々精進させて頂きます・・・ってな感じで、正直うんざりする気持ちと、いつ雷が落ちるんだろうというハラハラ・ドキドキする気持ちで、T先生がうちの透析科を担当する週は、ソーシャルワーカー、看護師、栄養士、事務のおばちゃんと、職員みんな緊張するのでした。
そんなT先生の担当する週が今週。私はなるべくT先生と接する時間を少なくすべく、病室でもT先生が近くに来るとサッサっと患者さんのベットのカーテンに隠れる!なんて芸当なんかもして患者さん達にうさん臭がられていたのですが、難しい患者さんも多い透析科、T先生のソーシャルワーカー出動要請から逃れられる術などあるはずも無かったのです。「ちょっとしんぺー!この患者さんホームレスになるかもしれないって言ってたから家探してあげて!」とT先生からのご達しを頂き、しかし「そんな簡単にこの住宅不足のご時勢、家なんて簡単に見つけられませんよ」という私のささやくような独り言にも「ソーシャルワーカーなんだから出来るでしょ!早く!」と反応のすばやさを見せる頭のキレる医者T先生、別名ドラゴンレディ。
そんなドラゴンレディならぬ腎臓医T先生が、昨日の医療カンファレンスで私と同僚Rさん2人のソーシャルワーカーを皆の前でべた褒めしたのです!!!!!!!!!!!!!!!!
それは私の問題患者さんJさんの話をしていた時でした。例のごとくT先生は「しんぺー、なんとかJさんの家探してあげられないの?なんとか出来るでしょ?」とプレッシャーをかけてきます。それを哀れんだ心優しい栄養士さんが「でもしんぺーは出来ること全部Jさんにしてあげててこれ以上できる事なんてありませんよ」と私を守ろうとしてくれるのです。私、胸がじ~んと熱くなってしまいましたよ。そんな栄養士さんの優しさに浸っていた私に「いえ、しんぺーなら出来るはずよ!」という悪魔・・・じゃなかった、T先生の声が響くのでした。ちょっとムカッときた私は「じゃーもうJさんを私の家に連れて帰って面倒見ますよ!」と冗談とも自棄ともつかぬ口調でT先生に言ってやったら、これがなんとバカウケ!何がおかしいのか分からないけどT先生のツボを見事に突いたようで「しんぺー!それはダメよ~。そんな事したら地獄を見るわよ~。プロとして一線は引かなきゃダメよ~あははは」と笑い続けるのです。そのあと急に真顔になったかと思うと「私にはとてもあなた達のような仕事は出来ないわ。しんぺー、そしてRさん、本当に私達のために頑張ってくれてありがとう」とまるで私とRさんが今日限りで仕事を辞めるかのように神妙に言うのでした。あら?もしかして私達仕事クビになっちゃった!?とお互いに顔を見合わせた私とRさんだったのですが、あらためてT先生にお礼を言われて「こちらこそありがとうございます」となんだか気恥ずかしくて思わず言ってしまいました。
ふだんT先生にこき使われて、T先生が大の苦手な私の同僚Rさん(と私)。Rさんはソーシャルワーカーの事務所に戻ると「ね~しんぺー聞いた!あのT先生が私達に感謝を述べたのよ!すごいと思わない?」と大喜びしています。私はどちらかと言うと日本に向かっていた台風が360度進路を変えてバンクーバーにやってくるんじゃないかと心配になるくらい、この予想外のT先生からの感謝の言葉に動揺、というか怪訝な気分になりました。パッと見た目は「純粋」「素直」「正直」「親切」なソーシャルワーカーの私ですが、心根は木の根のようにぐにゃぐにゃぐんにゃり曲がりきっている私なので、T先生からのお言葉もRさんのように能天気にもろ手を挙げて喜ぶ事が出来ないのです。
まず第一に!だいたい今までの私のソーシャルワーカーの経験からして、気難しい患者さんが突然「ソーシャルワーカーさん、いつも色々助けてくれてありがとう。感謝してるよん!」なんて言うときは大注意です。だいたいその後「ところで・・・」と言ってお金や食事をせびってきて、欲しいものが手に入らないと「てめーは役に立たね~な!」とブチ切れられることがお決まり。もしかしてT先生もソーシャルワーカー相手にお金をせびるのか!?と条件反射的に身構えてしまう中堅ソーシャルワーカーの私なのですが、まさかT先生に限って・・・それともこれには何か裏があるのか・・・?と私の曲がった性格が警告を出すのです。
第二に!T先生のお言葉「しんぺー、そしてRさん、本当に私達のために頑張ってくれてありがとう」の部分は良しとしましょう。ヒトとして感謝の念を述べることは大切です。とくにキレやすいT先生の方のような困った人には、常日頃からこのような感謝の念を積極的に言ってもらいたいものです。ですので、今回のT先生からの感謝の念は大評価に値すると、上から目線のソーシャルワーカーである私でさえも思うのです。しか~し、T先生のお言葉の前半部分「私にはとてもあなた達のような仕事は出来ないわ」に、私は何か引っかかるものを感じるのです。そもそも、これって一体どういう意味なのでしょう?
A)こんな雑用みたいなソーシャルワーカーの仕事、私にはとても出来ないわ!
B)こんな辛抱が必要な仕事、短気で怒りっぽい私にはとても出来ないわ!
C)あなた達みたいな優秀な仕事、とても私には出来ないわ!
とりあえずC)でないことだけは確かです(笑)。おそらくAとBの合体したのがT先生曰く「私にはとてもあなた達のような仕事は出来ないわ」の意味なのではないかと、長らく医療業界最下層カーストのソーシャルワーカーをしてきていじけてしまった私は思うのでした(笑)。しかし、よく考えてみれば、私もこの「私にはとてもあなた達のような仕事は出来ないわ」を使ったことがあります。例えば看護師に。血液や体液が苦手な私にとって、看護師の仕事って大変だな~と顔色一つ変えず患者さんの世話をする看護師さん達をまじかで見ながら尊敬の念を込めて思うのですが、同時に、ゴシップだらけで人間関係がドロドロの看護師ワールドもまじかで見ているので、そういう意味でも「いやはや、こんな仕事は絶対無理だわ!」と思うのでした。腎臓医の仕事も、その責任と仕事量の多さから、毎日多くの患者さんを見ている医師達に畏敬の念を覚え、こんなグーたらな私になんかとても出来る仕事ではないと思います。ただ同時に、腎臓医の仕事は繰り返しの多い地味な仕事でもあります。そういう意味でも「こういう細かい仕事はいやだな~」と思うのです。
こんな風に自分に照らしてみれば、私も他の職業について尊敬と軽蔑(?)の両方を込めた意味で「私にはとてもあなた達のような仕事は出来ない」を使っているわけで、これはきっと皆が皆、同じように使って・思っているのではないのでしょうか。そしてとどのつまりは、やっぱりそれぞれの職業にはそれぞれの性格・性質によって向き不向きがあるという事なのだと思います。Aさんにとって簡単な事が、Bさんには難しく。Bさんにとって簡単な事が、Aさんには難しい。だから医療業界はそれぞれの人がそれぞれ得意な分野で働いて、チームを作って働いている!という解釈になるのですが、しかし同時に、お互いにお互いの仕事を尊重しつつも、ちょっと軽視しているとも言えるのではないでしょうか?
と最後に、今回の「ドラゴンレディT先生ソーシャルワーカーに感謝を表明する」の件を考察するにあたりハッキリ分かった事。それは、やっぱり私の性格は歪んでいる!と言う事なのでした(笑)。T先生がありがとう!と言ってくれたのだから、何も考えずに「わ~嬉しいな。ありがとう~!」と同僚Rさんのように喜べばそれで済むことなのです。しかし、ついつい裏の裏の裏を読みたくなってしまう私のこの性格・・・笑えます!あはははは。なんだかんだと言って、多分この透析科で一番厄介な職員は私に違いない!と密かにほくそ笑む悪魔のソーシャルワーカーがここにいるのでした。おわり。
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